←『大恋愛〜僕を忘れる君と』試写会レポートを読む
戸田恵梨香・ムロツヨシ『大恋愛〜僕を忘れる君と』1話レビュー【ネタバレ】
イラスト/Morimori no moRi


新型コロナ感染拡大の影響で、各テレビ局では過去の番組の再放送や再編集版、傑作選などが多く放送されている。

TBSで2018年10月〜12月にオンエアされた「大恋愛〜僕を忘れる君と」が、未公開カット含む特別編としてスタートした。
エキレビ!で本放送時に掲載した、寺西ジャジューカ氏によるレビューを再掲する(日付などは当時のまま掲載)。

「大恋愛」凄いタイトルの仕掛けを推理。記憶を失う戸田恵梨香との軌跡をムロツヨシは小説にしていると見た


特段、目新しい設定ではないと思う。『大恋愛〜僕を忘れる君と』は、34歳にして若年性アルツハイマーという病におかされた女医・北澤尚(戸田恵梨香)と、売れない小説家の間宮真司(ムロツヨシ)によるラブストーリーだ。

若年性アルツハイマーを題材にした恋愛ものといえば、『私の頭の中の消しゴム』や『Pure Soul〜君が僕を忘れても〜』が過去にもあった。難しいテーマではあるが、決して変化球ではない。初回を見たところ、今作はド直球に恋心を描く“王道”である。

条件で決めた松岡との結婚、ムロへの本気の恋


適齢期を迎えた尚は、容姿、頭脳、体の相性など理想の条件にぴったり当てはまる年上の医師・井原侑市(松岡昌宏)とお見合いをし、婚約した。恋愛について「入れ込んだことはない」と告白する侑市。それは、尚も同じだった。

「私も恋愛経験は無いわけじゃないですけど、入れ込んだことはないです」(尚)

そんなドライな尚が熱くなるのは、大好きな小説について。『砂にまみれたアンジェリカ』なる作品の初版本を所有し、文章の一部を暗唱できるほどだ。この小説の作者・間宮真司に、彼女は心奪われている。


「私の勘なんですけど、あの人はたぶんすっごく素敵な人だと思うんですよ」(尚)

このドラマ、都合の良い展開が続きまくる。侑市と結婚するため、新居に引っ越した尚。その作業を請け負った引っ越し屋の一人に間宮真司がいた。尚は、このスタッフがまさか憧れの小説家だと露程にも思わない。ただ、2人で飲みに行くとメチャメチャ楽しかった。真司の感性に惹かれているのだから当然である。そんなフィーリングを感じた後に、真司は「俺が書いた」とカミングアウト。運命を感じるのは当然だ。

尚は侑市に婚約破棄を申し出た。

尚「好きな人ができてしまったんです」

「他に好きな人が……」ではなく、スパッと「好きな人が……」と口にした尚。侑市は条件に合っていただけで、元から好きではなかった。

尚「私も、経験のないことで戸惑ってます」

尚にとって初恋に近い。
侑市とのビジネスライクな婚約と、あまりに対照的だ。

真司に対して尚は肉食だ。食事に誘い、夜明けまで語らい、体を交わし、婚約を破棄した。条件で決めた結婚は、本気の恋には敵わない。節操が無いのではなく、彼女は本当に人を好きになってしまった。恋に入れ込んだことがなかった尚が、こんな風に自らアプローチしたのは初めてのはずである。

尚「理性を超えた本能が私に命じるんです」

戸田恵梨香・ムロツヨシ『大恋愛〜僕を忘れる君と』1話レビュー【ネタバレ】
大恋愛〜僕を忘れる君と/TCエンタテインメント
→Amazonでチェックする

先に意識していたのはムロのほう?


グイグイ迫られる真司だが、決して頑なに拒否はしない。引っ越し当日、作業が終わったのに黒酢はちみつを残って飲んでいたのもあやしい。客が自分の処女作を大切にしていたのを知り、嬉しかったはずだ。帰りの車中、真司は遠くを見つめていた。

なのに、なぜ尚のアプローチにのらりくらりなのか。飲みに誘われたらすっぽかし、でも店の外で待ち伏せしていたり。一夜を共にした後もそうだ。
婚約解消を宣言する尚に「結婚式の前の日まで付き合うっていうのはどうかな?」とヘタレな提案をする始末。

これは、葛藤である。悪い気はしていない。けど、尚を快速特急から降ろしてしまってもいいものか。彼女の相手は自分でいいのか? 心配と自信のなさから、自分を律している。

つまり、真司の気持ちのほうが先だった。尚と知り合い、ずっとしまい込んでいたパソコンを取り出し、小説執筆を再開した真司。彼にとっても尚は運命だったのだ。

真司の家を訪れる際、アップルパイをお土産に持っていった尚。

真司「アップルパイなんて食ったことないなあ」

食べたことないはずだ。尚との恋愛は禁断である。彼女は婚約しているし、この先、記憶をなくしていく。
アダムとイブが口にしたリンゴは“禁断の果実”とされている。

「大恋愛」とは小説のタイトルでは?


それにしても、凄いタイトルのドラマだ。大仰に「大恋愛」とは。10年にわたる愛の軌跡を描くこのドラマ。ナレーションを担当するのは間宮真司だ。

「彼女はあの頃から、いつも急いでいた。まるで、何かに追われるように。いつも、いつも、走っていた」
「彼女の急ぎ足の人生に、こうして俺は出会ってしまった」

「大恋愛〜僕を忘れる君と」という壮大な響きは、あまりドラマらしくないと思う。これは、恐らく間宮真司の新作だ。語り部は真司で、主人公は尚。始まりは5年前で、2人の5年後も描かれる。出会った尚と真司。病におかされる尚。
尚は真司を忘れていき、そんな尚を真司は支える。優しくて切ない10年愛を記録した、実体験の一冊。そう考えると、真司のナレーションが切なく響いてくる。尚との出会いで作家・間宮真司は生き返った。

記録する真司とは逆に、忘れていく尚。尚は追われている。異変は初回からそこかしこに垣間見えた。合鍵を作ったのに、アパートの階段に座り真司の帰宅をニコニコ待っていた尚。そんな姿がつらい。真司が尚に放つ「脳味噌腐ってる」という言葉も、変な気持ちにさせる。

食料を買い込み、真司のアパートへ向かった尚。道中で前後不覚に陥り、パニックになって走り出した。
そして、彼女は自転車に轢かれた。病院で検査を受けた後、カバンの中にあった黒酢はちみつを見てハッとする。真司を待たせていることを、そこでやっと思い出す。
尚と真司、2人とも大好きな黒酢はちみつ。忘れていた記憶を呼び戻すアイテムになる気がする。

出会い、食事し、恋に落ち、一晩語り明かし、体を交わし、婚約解消を決めた尚。初回だけで、こんなにも山あり谷ありだった。あまりに生き急いでいる。「何かに追われるように、いつもいつも走っていた」という真司のナレーション通りだ。新作小説のまだまだ序盤である。
(寺西ジャジューカ)





番組情報


金曜ドラマ『大恋愛〜僕を忘れる君と』
脚本:大石静
音楽:河野伸
主題歌:back number「オールドファッション」
プロデューサー:宮崎真佐子、佐藤敦司
演出:金子文紀、岡本伸吾、棚澤孝義
製作:ドリマックス・テレビジョン、TBS
編集部おすすめ