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新型コロナ感染拡大の影響で、各テレビ局では過去の番組の再放送や再編集版、傑作選などが多く放送されている。
TBSにて、2016年10月〜12月にオンエアされた「逃げるは恥だが役に立つ」特別編が放送中だ。
津崎は男子高校生が陥るアレ
人気マンガが原作のTBS系ドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』。みくり(新垣結衣)が夜の営みを要求して津崎(星野源)が断ったり、みくりが実家に帰ってしまったりと、波の大きな話が続いていたが、第9話はわりとおだやか。成長した津崎を素材のまま味わえる回だった。
別居状態を乗り越えた二人は、元よりも恋人らしい関係に近づいていた。しかし、雇用契約書に雇用主との恋愛についての条項がないのでシステムの再構築をと、津崎は誰も求めていない合理的かつ童貞丸出しの発言を未だにしてしまう。そんな中、みくりは津崎が他の女性と歩いているのを目撃する。
今回のみくりの悩みは、津崎が自分のことを好きなのではなく、初めての彼女らしき相手に盛り上がっているだけなのではないか? というもの。男子校に通っている高校生が、ちょっと女の子に優しくされると好きになってしまうというアレだ。これは津崎にも大いに当てはまる。しかし、その真実は津崎本人にもわからないことだろう。
なぜなら、周りから見ればうわっついた偽物の感情でも、その男子高校生は本当に好きだと思っているのに違いはないからだ。ただそれが津崎の場合、自分のことを女性が好きになるわけがないという絶対的なネガティブ自信のせいで、あっさりと人を好きになることはなかった。
童貞は30越えると魔法使いになるというヤツ
「僕、女性経験がないんです」
このカミングアウトによって津崎は大きく成長をした。具体的に何が成長したかというと、それはいらないプライドを捨てたこと。見栄を張らなくなったことだ。
そのおかげで第9話の津崎は、とても素直だった。仕事でトラブルがあり、なかなか家に帰れない津崎は、「バグの日か!」と珍しく声を荒げている。2話か3話あたりにも、仕事で帰れないシステムエンジニアの大変さを描写していたシーンがあったが、あの時は無表情で誰よりも仕事をこなしていた。その時に比べたら実に人間らしい。
もちろん、その素直さはみくりにも向けられる。みくりは、津崎が女と二人でいるのを偶然見かけてしまい、すねてしまう。もちろんこれは勘違いだったのだが、この時のみくりは少々めんどくさい。
「もし違っていたらすいません。調子に乗っているわけではなく、嫉妬してくれたのですか?」
「かわいいなぁと思って。ずっとみくりさんが僕のこと好きならいいのになって思ってました」

ヒステリックな女性に対して、素っ頓狂と言えるほどの素直さでその場を収めたのだ。これは、童貞ならではのテクニックと言えるかもしれない。
何も知らない純粋無垢にしか言えない感じ、思ったことをそのまま言っている感じが、ロボットとの恋愛物や動物との恋愛物に似ている。
「しずかさん、泣いているのですか?」
「誰だ? しずかさんを泣かせるのは!」
映画「ドラえもんのび太の海底鬼岩城」の喋る車・バギーのセリフだ。バギーは、車だから泣くということがいまいちわからない。しかし、大好きなしずかちゃんが悲しんでいることはわかる。この後、バギーは自分の命を投げ捨て、大ボスであるポセイドンに特攻している。
「ごめんなさい。こういう時、どんな顔をすればいいのかわからない」
人間かロボットかの説明はややこしいので省くが、これはエヴァンゲリオンの綾波レイのセリフだ。エヴァンゲリオン零号機が破壊され、エントリープラグから綾波を救出した碇シンジが泣きながら喜んでいるのを見て、このセリフを言った。これに対してシンジは「笑えばいいと思うよ」と返す。これは綾波レイだからこそ成り立つ、人間の感情の根本的部分のやりとりだ。
“童貞は30を越えると魔法使いになる”というのをよく聞くが、あながち間違いでもないかもしれない。もちろん魔法を使えるようになるわけではないが、今回の津崎は、間違いなく普通の人では有り得ない人外のやりとりをみくりと行った。恋愛というものを全く知らないからこそ言えたセリフだった。
第10話は、エリートなはずなのにリストラ候補になってしまった津崎。何も知らずに朝までみくりとハグしているが、そのクビは一体どうなってしまうのだろうか?
(沢野奈津夫)
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