HYDEに対する一般的なイメージとはどのようなものだろうか? 確固たる美学を持ち熱狂的なライブを繰り広げてきたロックミュージシャンであり、結成30周年を目前に控えたモンスターバンドL'Arc~en~Cielのベテランヴォーカリスト。
【レポート】HYDE “良き理解者”とつくり上げた狂騒のライヴをもって、『ANTI』ここに完結――
多くの後輩ミュージシャンが憧れを公言する(例えばDAIGOは“神”と呼び敬愛する)彼の功績を、音楽ファンであれば知らぬ人はいないだろう。楽曲、歌唱、演奏、ライブ表現、美貌。人気の理由はいくつでも挙げられるが、その支持を揺るぎないものとしている魅力の本質は、別のところにあるのではないか? 近年抱くようになった仮説を以下、綴ってみたい。
2001年にソロ、2008年からは新バンドでも活動を開始
ソロアーティストとしての始動は2001年。1stシングル『evergreen』をリリース、翌2002年には1stアルバム『ROENTGEN』を発表、静謐なサウンドスケープをオーケストラアレンジで描き出し、新鮮な驚きを与えた。2003年以降は一変してラウドなバンドサウンドを追求、アメリカ進出を本格化させていく。また、2005年に立ち上げた主宰ハロウィンイベントは形を変えながら継続し、やがて『HALLOWEEN PARTY』として定着。それは、ハロウィンが今ほど注目されていなかった日本における先駆的な試みでもあった。
2008年にスタートしたVAMPSとしての精力的なバンド活動は2017年、突然休止。2018年、HYDE名義としては12年ぶりとなるシングル『WHO’S GONNA SAVE US』を6月にリリースし、8月には『HYDE TOUR 2018』に突入する。HYDE、L’Arc~en~Ciel、VAMPSという3名義の楽曲を組み込んだライブは、結果的に、彼の音楽家人生を浮き彫りにする、意義深い集大成的セットリストとなった。
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その感慨は、翌2019年1月29日・30日、50歳の誕生日を祝して開催された『ACOUSTIC CONCERT 2019 黒ミサ BIRTHDAY WAKAYAMA』でさらに強まることとなる。郷里・和歌山で、言葉を詰まらせ、時に涙を流しながら歌う姿は、クールなカリスマのパブリックイメージを完全に覆し、激しく心を揺さぶったのだった。その人間らしさこそがHYDEの魅力の源泉だと私は考えている。
海外でも精力的に活動をスタート
2019年6月にはアルバム『ANTI』をリリースし、アメリカツアー、国内ツアー、Starset全米ツアーのサポートアクト、BRING ME THE HORIZON来日公演へのゲスト出演などを経て、同年12月に幕張メッセで『HYDE LIVE 2019 ANTI FINAL』を2Days開催。バースデー公演のセンチメンタルなムードを忘れ去るような、エッジの利いた攻めのライブは圧巻だった。高い美意識に貫かれた演出、曲の世界観に没入するパフォーマンスによる構築美と、オーディエンスを煽り、自らフロアに降りてモーゼの十戒のごとく分け入っていく荒々しさ。新型コロナウイルスの影響でライブの楽しみが奪われている今、あの甘美なカオスは遠い夢のできごとのように思えるが……公演の模様は7月29日にリリースされる映像作品に収められているはずなので、ぜひご自身の目で確かめていただきたい。
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そして、その攻めの姿勢に圧倒されたライブにおいても忘れ難いのは、やはり、弱さをさらけ出した一幕。スマートフォンのライトを灯し光の海を成すフロアを見渡しながら、「ただの光じゃないんだよね。全部意味のある光なんですよ。僕の大事な人の光なんです。良き理解者のね」と表現。
群衆としてではなくファンの存在を1人1人の個として捉え、その重みを噛み締めるように述べたHYDE。「理解者がいないとできません。みんなのお陰です、ありがとう」と感謝を口にし、「俺、そんなに強くないんでね。みんなが援護してくれないと」とも。
傍から見ればすでに何もかも手にした大スターであるはずの彼が、さらなる夢を掲げて突き進み、支えを求め、もがきながら生きている。そうした本心の吐露は、1本1本のライブに込める想いの切実さをオーディエンスに痛感させた。
強いスローガンを断定形で発信するのではなく、傷付きながらも不屈の精神で進もうとする葛藤が伝わってくるからこそ、惹き付けられていく。その在り方は、ただエンターテインメントとして楽しむというよりは、人生を見守りたいとすら思わせるほどの吸引力を持っていた。
ライブでの獰猛さと相反する穏やかな素顔
人間らしさは何も突然芽生えたものではなく、もともとあったものがより色濃く表に出るようになったと考えるのが自然だ。2015年、そして2018年にも『HALLOWEEN PARTY』では、友人が罹患しているという難病ALSの認知を広めるため、華麗な仮装のままアイス・バケツ・チャレンジを敢行。災害を被った人々への言葉に続き、「ORDINARY WORLD」のカヴァーを祈るように歌ったこともあった(2018年)。2019年1月30日に任命されて以来、和歌山市ふるさと観光大使としても故郷のために献身中だ。コロナ禍で惜しくも中断された『L’Arc~en~Ciel ARENA TOUR MMXX』では、中止となった幻の公演当日、Twitter上でファンが始めたハッシュタグ企画「#エアMMXX」にサプライズ降臨。エア打ち上げまで自ら呼び掛け、ファンの想いに寄り添ったのも記憶に新しい。
自身の音楽を極めるだけでなく、その恵みを他者へと捧げる優しさ、愛情深さを感じる場面が増えている。もっと言えば、歌詞から読み取れる繊細な心情、情景描写に投影された鮮やかな心象風景、パフォーマンスに表出する多彩な感情表現はすべて、奥深い人間性あってこそ。
かつては世界観を完成させることに重きを置き、表に出さないように封じてきた生身の部分を、近年素直に露わにしているのかもしれない。その人間らしさは共振を呼び、苦しみながらも日々を懸命に生きる人々を鼓舞し、惹き付ける“磁石”となっている。そう思えてならない。
これまで取材で対面した際は、常に柔らかく穏やかな印象の空気感をまとっていた、ということを末筆として書き添えておきたい。もちろんオーラは圧倒的なのでこちらは勝手に緊張するのだが、本人が放つ威圧感は皆無。ライブで見せる野獣のような獰猛さも、幻惑的な妖艶さもオフにして、ナチュラルにふんわりとそこにいるのだった。
一方で、数年前、インタビューを終えた直後、スタッフが別件の資料を手に入室、本人にチェックを求める場面に居合わせたことがあるのだが、彼の目が瞬時に変わったのを忘れられずにいる。それまでのふんわりムードとは180度異なる、鋭く射抜くような、プロ意識に満ちた真剣な眼差しにハッとさせられたのだ。しなやかさと、仕事人としての厳しさとを兼ね備えているからこそ、長きにわたり第一線で輝き続けていられるのだろう。
ここ2、3年の各所インタビューでHYDEは、活動のタイムリミットについてしばしば言及するようになった。その意味するところが、誰もが逃れられない年齢の不可逆性を指してのものなのか、宿願であるアメリカでの成功を「いつまでに」「どれくらい」達成したい、という明確な数値目標から逆算したものなのか、その両方なのか、私の行ったインタビューからは厳密な答えを得ることができていない。
しかし、よりシビアな覚悟を持って音楽活動に向き合っていることは明白。同じ時代を生き、その表現に直に触れられる喜びを噛み締めながら、さらに高みに挑む姿を観られる日を心待ちにしている。
(大前多恵)
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