『エール』第14週「弟子がやって来た!」 68回〈9月16日(水) 放送 作・嶋田うれ葉 演出:松園武大〉

『エール』梅(森七菜)、五郎(岡部大)みたいな人いいと思う 久志(山崎育三郎)は問題外 68話
イラスト/おうか

五郎はパクってばかり?

やたらと広い古山家に、住人がふたり増えてにぎやかになった。だがその分、裕一(窪田正孝)音(二階堂ふみ)に心配の種ができる。それもふたつも。


ひとつは裕一に弟子入りした五郎(岡部大)。天涯孤独の五郎に同情して住む込みの弟子にしたが、彼の作る曲は、どれもすでにある曲とそっくりだった。裕一は既存の曲のいろんな部分を組み合わせて新しい曲を作っていると教えるが、五郎には理解できない。

これは音楽にも物語にもあることで、過去作を参考に自分なりに工夫して新しいものを作っていく。物語は10パターンくらいしかなく、それを再生産しているとはよく言われること。それはパクリとは違う。筆者がこういう仕事をしていて感じるのは、
巧い作家ほど、もとの材料がわからないように溶け込ませている。あるいは、片鱗は感じさせつつもうまいことひねっている。下手な作家は、過去作の断片がそのまんま鍋に入っていて調和が感じられない。ましてや、まんまありものを五郎みたいに気づかず書いてしまっていたりしたら、パクリになってしまうから要注意だ。

今夏放送された宮藤官九郎のドラマ『JOKE〜2020パニック配信!』(NHK)で主人公(生田斗真)が書いたエッセイの一文がほかの作家の盗作だと炎上したというエピソードが出てきた。そのとき主人公は(大概のエッセイは)「言い方変えてただこすってるだけでしょ」と開き直る。
「言い方変えてただこすってるだけ」 まさに。という気もする。

五郎は耳がよく、聞いた曲を正確に譜面に起こせるが、それを元に、創作する能力はないのかもしれない。でも、まだわからない。

梅の悩み

心配ごとのもうひとつは、梅(森 七菜)久志(山崎育三郎)とデートしていると藤丸(井上希美)から聞いた音は、心配に。梅に穏やかに事情を聞くと、もっと世界を知ろうと思ってのことだと言う。

心配する音と梅が玄関にしゃがんで会話している、このふたりの姿が良かった。ひざを立てて座る女の子ってなんだかかわいい。玄関で語り合う場面は珍しいなあと思っていたら、梅が靴を下駄箱にしまおうとして、受賞式で鼻緒が切れた下駄を見つける必要があったからだった。下駄箱から鼻緒が直った下駄を取り出すと、音が、五郎が直してくれたと教えてくれる。

文学賞の授賞式で、小学校のときの同級生の幸 文子(森田想)から文壇における今の座を譲るつもりはないと睨まれたうえ、意地悪され、出版社の人からは容姿で選んだというようなことを言われた梅。純粋に実力と努力を積み上げていけば高みに上っていけるなんてことはなく、足の引っ張りあいや裏事情があることを知って衝撃を受けたようだ。


だが、幼い頃から梅は、芥川龍之介や太宰治などの名作文学をたくさん読んでいたはず。文学には人間の悪意は随分と書いてある。現に57話で梅は、文学(夏目漱石「心」)から「悪い人という一種の人間が世の中にあると君が思っているんですか。そんな鋳型にいれたような悪人が世の中にはあるはずがありませんよ。平生はみんな善人なんです。少なくともみんな普通の人間なんです。それが、いざという間際に、急に悪人に変わるんだから恐ろしいのです」ということを学んでいた。

もっとも本のなかだけでわかった気になって、体験が圧倒的に足りないということかもしれない。それに、まだ梅は若いから、いろいろ悩んでもいいとは思う。

『エール』梅(森七菜)、五郎(岡部大)みたいな人いいと思う 久志(山崎育三郎)は問題外 68話
写真提供/NHK

それより気になるのは、藤丸である。いつの間にか、久志にすっかり夢中になっているらしい。梅とデートしていることを目撃しているのも、最近会ってくれない久志をもしかしてストーカーした? 藤丸みたいに久志のあのまったく真心が感じられない誘惑に、ころっと参ってしまう人もいるのだから、世間知らずの梅だって危ないぞ。


「鉛筆、削ってもらえませんか」

その夜、梅は相変わらず小説が進まない。鉛筆も折れてしまった。気分転換に1階の台所に降りていくと五郎がいた。先に書斎に戻った五郎にお茶を持ってくる梅。そして五郎に「鉛筆を削ってもらえませんか」と頼む。68回の最大の謎。なぜ、鉛筆を五郎に削らせるのか。一応「あの、もしご迷惑でなかったら」と断ってはいるけれど。

五郎は、裕一の弟子として身の周りのことも手伝っている。雑穀問屋に丁稚奉公していただけあって、なんでもできるのだろう。梅は実家でどうしていたのか。上げ膳据え膳だったようで、音の手伝いを全然しない。そのうえ、裕一の弟子に鉛筆を削らせる。
光子(薬師丸ひろ子)って娘をそんなに甘やかす印象ではなかったけれど。不思議です関内家。

シチュエーションとしては、梅と五郎は、お嬢様と召使い、あるいは下男というひとつの萌えかと思う。「春琴抄」の春琴と佐助の関係のように、ひたすら誠実にお嬢様に使える丁稚の愛はドラマになる。

華(田中乃愛)は五郎が梅のことが好きだと感づいていた。「だって梅の本、何回も読んでるもん」と言われて、梅はちょっと意識してしまった様子。自信がなくなっているとき、自分の書いたものを熱心に読んでくれている人がいたら、そりゃあ勇気づけられるってものだ。

裕一と音が対等な関係であることに対して、梅を支える五郎という男女の形もあっていいとは思う。たぶん、令和的な視点で見れば、梅と五郎は『私の家政夫ナギサさん』的な、男性が家のことをして女性が仕事するみたいな形だと思うのだ。裕一は世話がやけそうだし、五郎みたいな人のほうがいいと思う。久志は問題外。
(木俣冬)

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主な登場人物

古山裕一…幼少期 石田星空/成長後 窪田正孝 主人公。天才的な才能のある作曲家。モデルは古関裕而。
関内音→古山音 …幼少期 清水香帆/成長後 二階堂ふみ 裕一の妻。モデルは小山金子。

古山華…田中乃愛 古山家長女。
関内梅…森七菜 音の妹。文学賞を受賞して作家になる。

田ノ上五郎…岡部大(ハナコ) 裕一の弟子

廿日市誉…古田新太 コロンブスレコードの音楽ディレクター。
杉山あかね…加弥乃 廿日市の秘書。
木枯正人…野田洋次郎 「影を慕ひて」などのヒット作を持つ人気作曲家。コロンブスから他社に移籍。
モデルは古賀政男。

梶取保…野間口徹 喫茶店バンブーのマスター。
梶取恵…仲里依紗 保の妻。謎の過去を持つ。

佐藤久志…山崎育三郎 裕一の幼馴染。議員の息子。東京帝国音楽大学出身。あだ名はプリンス。モデルは伊藤久男。
村野鉄男…中村蒼 裕一の幼馴染。新聞記者を辞めて作詞家を目指しながらおでん屋をやっている。モデルは野村俊夫。

藤丸…井上希美 下駄屋の娘だが、藤丸という芸名で「船頭可愛や」を歌う。

御手洗清太郎…古川雄大 ドイツ留学経験のある、音の歌の先生。 「先生」と呼ばれることを嫌い「ミュージックティチャー」と呼べと言う。それは過去、学校の先生からトランスジェンダーに対する偏見を受けたからだった。

『エール』梅(森七菜)、五郎(岡部大)みたいな人いいと思う 久志(山崎育三郎)は問題外 68話
写真提供/NHK

番組情報

連続テレビ小説「エール」 
◯NHK総合 月~土 朝8時~、再放送 午後0時45分~
◯BSプレミアム 月~土 あさ7時30分~、再放送 午後11時~
◯土曜は一週間の振り返り

原案:林宏司 ※7週より原案クレジットに
脚本:清水友佳子 嶋田うれ葉 吉田照幸
演出:吉田照幸ほか
音楽:瀬川英二
キャスト: 窪田正孝 二階堂ふみ 唐沢寿明 菊池桃子 ほか
語り: 津田健次郎
主題歌:GReeeeN「星影のエール」

制作統括:土屋勝裕 尾崎裕和
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