ノトーリアスRBGの死と大統領選目前の今こそ見ておきたい映画リスト

亡くなったルース・ベイダー・ギンズバーグ判事とはどんな人物なのか

2020年9月18日、米国連邦最高裁のルース・ベイダー・ギンズバーグ判事が亡くなった。87歳だった。彼女の功績がなければ、今日のように女性が社会の中で活躍できる世の中は、存在しなかったかもしれないと言われている人物である。
米国の連邦最高裁の判事は9人。すべての判決はその9人の多数決で決定されるため、何人がリベラル派で、何人が保守派なのか、妊娠中絶や銃規制などの憲法判断がそのバランス次第で大きく揺れ動く。米国中の保守派に支えられているトランプ大統領に対し、ギンズバーグ判事はリベラル派にとっての最後の砦と言ってもいい存在だった。そのギンズバーグ判事(以下RBG)が亡くなったのだ。

RGB

近年では、人気ラッパーのノトーリアスB.I.G.から文字った“ノトーリアスRBG”のニックネームで呼ばれ、POPアイコンとしてTシャツや、マグカップにもプリントされ、若者にも絶大な人気を誇っていた。そこで今回は、彼女がどれだけ偉大な人物がだったのかがわかる映画と、彼女の死が今後どう影響するかを予感させる映画を紹介したい。

『RBG 最強の85才』

もともと米国では、1960年代から1970年代のウーマンリブ運動(女性が男性同等の権利を主張する運動)が起こるまで、性差別は当たり前、法律的にも当然のものとされていたので、認識すらされていなかった。

・多くの州の雇用主は妊娠した女性を解雇できる。
・融資を申し込む女性に対して銀行は夫を連帯保証人にするよう要求できる。
・12の州では夫婦間の性暴力は罪に問われない。

上記は1970年に施行されていた法律の一部だが、当時の実態を如実に表している。RBGはその当時の「当たり前」に対し、デモ活動ではなく「イカれているのは女性ではなく社会だ」と法廷の場で風穴を開けていった。

RBG最強の85才

RBGが初めて最高裁で戦った裁判は、米国空軍女性兵士シャロン・フロンティエロが男性同等の住宅手当を求めた訴訟である(住宅手当は既婚男性のみで、シャロンは結婚していたにもかかわらず、女性だからという理由で手当が与えられなかった)。
以下、RBG初の口頭弁論を抜粋する。

僭越ながら首席判事殿、女性は職場で差別に直面しています。広くはびこり表面化しにくく、少数派差別に匹敵する深刻さです。根底にあるのは、女性が劣るという見識です。女性を守るためという口実により不当に扱われ、高賃金の職務への昇進を拒まれます。家事と育児は女性の役割だとする考えが強い社会通念となり、女性を家庭に閉じ込めます。それは男性が活躍する場より、劣るとみなされます。性による区別が平等違反になる可能性が高いことを示すため、1837年のサラ・グリムケの言葉を紹介します。奴隷廃止と女性解放で有名な人物です。

“特別扱いは求めません。
男性の皆さん お願いです。
私たちを踏みつけてる その足をどけて“

シャロンは勝訴し、住宅手当受給の権利を認められた。
これは、男女平等を求める運動の大きな一歩となった。

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『ビリーブ 未来への大逆転』

ギンズバーグ判事の若き日を描いた実話映画。RBG役を演じているのは『博士と彼女のセオリー』、『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』のフェリシティ・ジョーンズ。夫役は『コードネーム U.N.C.L.E.』などのアーミー・ハマー。

ビリーブ

途中まで観て、見る順番を完全に間違えたことに気づいた。『RBG 最強の85才』を先に観てしまったため、次に何が起こるのか全部わかっているのである。良い映画なのだが、全部知っているとよくできた再現ドラマにも見えてしまうので(そんなことを言い始めたら大河ドラマを始め、全ての実話モノがそうなってしまうのだが…)、もしネタバレなしで彼女の功績を知りたい方は、『ビリーブ 未来への大逆転』を先に観られることをオススメしたい。

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『彼女の権利、彼らの決断』

RBGは、1993年の上院での指名承認公聴会でこう発言している。「男女平等であるために重要なのは、女性が自分で決断を下せるかどうか、自己決定は女性の人生や尊厳の核心にあるものです。政府がその決定に干渉するなら、女性を責任ある大人として扱わないことになりますし、判断力を奪ってしまう。」

彼女の権利、彼らの決断

レーガン、ブッシュ、トランプは大統領選までは中絶支持派だったが、大統領選になると一転。コロッと中絶反対派に寝返った。保守的なキリスト教団体の票を得るためである。女性の中絶の権利と引き換えに、大統領になることを決断したのだ。

大統領選は米国の未来に何をもたらすのか

連邦最高裁の判事は大統領によって任命され、終身制である。
RBGが亡くなるまでは、5人が共和党の大統領に任命された保守派、4人が民主党の大統領に任命されたリベラル派だった。しかし、RBGの死を受け、トランプ大統領が後釜として指名したのが、エイミー・コーニー・バレット判事である。RBGと同じく女性判事だが、敬虔なカトリック教徒で、オバマ前大統領の医療保険(通称オバマケア)には反対、銃規制にも反対、人工妊娠中絶には勿論反対(それどころか本人は宗教上の理由で避妊すらしないため48歳で7人の子持ち)の立場をとる宗教右派なゴリゴリの保守である。

もし、彼女が連邦上院議会で承認されれば3:6で、最高裁は大きく保守派に偏る。そうなると「ロー対ウェイド」裁判(人工妊娠中絶を女性の権利として認めることになった1973年の裁判)の判決をひっくり返し、中絶が再び違法になってしまうのではないかと懸念されている。中絶が犯罪になってしまうのだ。そうなると米国は、望まない妊娠だろうが、レイプされた末の妊娠だろうが、問答無用で産めという国になってしまう。お腹の中の子供には確かに罪はないが、女性の権利はどこへやらである。RBG不在の穴はあまりにも大きい。

RBGは彼女たちの時代の女性達のため、彼女の娘たちの時代のために戦った。私たちは、子や孫たちが将来幸せに豊かに暮らせる社会を築くために戦えているだろうか。アメリカ大統領選挙は2020年11月3日に行われる。


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