公開直前『魔女見習いをさがして』 佐藤順一監督「作品から大事なものを得た経験がある人には届く映画」
佐藤順一監督ら『おジャ魔女どれみ』のメインスタッフが再集結して作りあげたオリジナル映画『魔女見習いをさがして』のキービジュアル。本作の主人公3人と、どれみたち6人の魔女見習いが一緒に描かれている

『どれみ』をきっかけに運命的な出会いをした3人の絆を描く『魔女見習いをさがして』

1999年〜2005年にかけてテレビシリーズが第1期〜第4期までの全201話、OVAが13話、劇場版も2作品が制作された大人気魔法少女アニメ『おジャ魔女どれみ』(以下、『どれみ』)。その人気や影響は、当時の子供たちが成長し大人になっても途絶えることはなく、全国各地で開催された20周年記念イベントも大盛況。さらに、11月13日(金)には、おジャ魔女どれみ20周年記念作品『魔女見習いをさがして』が全国の劇場で公開される。


教育実習で自信をなくし、教師になるという夢が揺らぎ始めた22歳の長瀬ソラ(CV:森川 葵。一流貿易商社で働く優秀なキャリアウーマンだが、周囲とうまくいかず、職場に馴染めていない27歳の吉月ミレ(CV:松井玲奈。夢の実現のためにアルバイトをしているが、ダメ彼氏に振り回されている19歳の川谷レイカ(CV:百田夏菜子/ももいろクローバーZ。『どれみ』をきっかけに運命的な出会いをした3人は意気投合。『どれみ』ゆかりの土地を一緒に旅しながら、絆を深めていく……。

『どれみ』に夢中になっていた、かつての子供たちが主人公の本作を作りあげたのは、監督の佐藤順一、脚本の栗山緑(山田隆司)、キャラクターデザイン/総作画監督の馬越嘉彦、プロデューサーの関弘美ら『どれみ』のオリジナルスタッフたち。
さらに、共に監督を務める鎌谷悠ら注目の若手クリエイターたちも参加している。

そこでエキレビ!では、佐藤監督へのインタビューを実施。この前編では、『どれみ』への思いや、本作が誕生した経緯などを語ってもらった。

『おジャ魔女どれみ』は自分の自信にも繋がった作品

──佐藤監督にとって『どれみ』は、どのような位置づけの作品だと感じていますか?

佐藤 『どれみ』は、東映アニメーションにとって久々のオリジナルもので、僕は「魔法を使う女の子の話」くらいしか決まってない段階で企画に参加したんです。だから、どういうことをするのか、ほぼゼロから考えていかなきゃいけない作品でした。

でも、その時にはすでに『美少女戦士セーラームーン』(シリーズディレクターを担当)とか女児ターゲットの作品を何本もやっていたので、女児向け作品はどういったもので、どういうことをやったら、どう楽しんでもらえるのかということについて、何となく体感でわかっていました。というか、わかったような気にはなっていたんです。


そこに『どれみ』の話が来たので、それが本当に正しいのか試したいと思って実際にやってみました。そうしたら、視聴率でも、玩具(の売上など)でも、わりと良い感じの結果が出たんです。だから、自分の自信にも繋がった作品ではありますね。

──『どれみ』で試したのは、具体的にはどのようなことだったのですか?

佐藤 魔法の呪文とかの決まったワードを声に出して叫ぶことが大事な要素であるのは、『セーラームーン』の頃から感じていたんです。子供たちのストレス発散になっていたのかもしれません(笑)。それで、『どれみ』にも呪文を取り入れました。


例えば、(主人公の春風)どれみの魔法の呪文は「ピリカピリララ ポポリナペペルト」だったのですが、その呪文を普通に読むだけだと、『どれみ』を観ていない大人でも、呪文の文字列を読むだけで、アニメと同じように呪文を言えるわけです。

でも、どれみ役の千葉(千恵巳)さんには「ちょっとひねって」とお願いしたんです。すると「ピ〜リカピリララ ポポリナペ〜ペルト」というイントネーションで読んでくれた。そうやって少しひねることで、アニメを観ている子供たちにしかアニメと同じようには読めないという状況が生まれる。それは、子供にとって優越感に繋がるんじゃないかなと思っていたんです。お父さんが『どれみ』の絵本を読んで(普通に)「ピリカピリララ」って読んだら、「お父さん、それ違うよ。
知らないの? 『ピ〜リカピリララ』なんだよ」って子供が親に勝てる瞬間を生み出せるんじゃないかなと(笑)。

公開直前『魔女見習いをさがして』 佐藤順一監督「作品から大事なものを得た経験がある人には届く映画」
『どれみ』ゆかりの場所で偶然出会ったソラ、ミレ、レイカの3人はお互いが『どれみ』のファンだと知り意気投合。レイカが人気グッズだった魔法玉を見せると、ソラとミレも自分の持っていた魔法玉を取り出した

──たしかに、大人のできないことを自分ができるのは、子供にとって嬉しいことだと思います。

佐藤 そういうことも含めて楽しんでもらえるような作り方をしたいなと思っていました。まあ、実際にそんなやり取りがあったかどうかはわからないんですけれど(笑)。

最初は「どうやるのが正解なんだろう? 難しいな」と思った

──『どれみ』の20周年記念に新作の劇場アニメを作るという企画について、最初に聞いた時の率直な感想を教えてください。

佐藤 最初にプロデューサーの関さんから「そろそろ20周年で、馬越君もやってくれそうだから、やりたいよね」みたいな話を聞いた時は、全然ピンと来ませんでした。『どれみ』が当時の子供たちに楽しんでもらえていて、今でもいろいろな機会に(主題歌の)『おジャ魔女カーニバル!!』が歌われていたりすることも知っていたので、たくさんの人に受け入れてもらえたことはわかっていたんです。
でも、新作の映画としてどういうものを作れば、その人たちに届くのかがすぐにはわからなかったんですよ。アニメとしては、「もう魔法がなくても、ちゃんと自分たちの力で歩いていけるよね」という当初予定していたところに着地して、綺麗に終わっているものなので。

そこで、もう一回、小学生のどれみたちの知らなかったお話をやることが、『どれみ』を観ていた人たちにとって楽しいことなのか。あるいは、どれみたちもあなたたちと同じように大人になって、社会の中でいろいろな悩みを抱えながら頑張っていますよ、という姿を見せることで楽しんでもらえるのか。そういったことがわからなくて、「どうやるのが正解なんだろう? 難しいな」と思いながら、関さんの話を聞いていたというのが正直なところです。

──では、そこから、どのような経緯を経て、子供の頃に『どれみ』が大好きだった3人の女性の現在の姿を描くという方向性が決まっていったのですか?

佐藤 『どれみ』の20周年を記念した映画とはいえ、やはり映画を作る以上は、『どれみ』のファンだけでなく、いろいろな人に観てほしいよね、という思いは我々の中に共通していました。
「じゃあ、どうする?」というところから、当時観ていた子たち、映画館に観客として来てくれるであろう大人たちを主人公にした物語にしてはどうだろうという案が出てきて、「あ、それなら」って。そういう話なら、『どれみ』を観ていなかったとしても、子供の頃に何かの作品から大事なものを得た経験がある人には届く映画にできると思ったんです。

公開直前『魔女見習いをさがして』 佐藤順一監督「作品から大事なものを得た経験がある人には届く映画」
主人公の3人を演じるのは、普段は主に実写作品で活躍している役者とアイドル。「3人とも、映画やドラマなどを観て、『すごいな。機会があったら、一緒にやってみたいな』と思っていた人たちです」(佐藤監督)

少しでも自分の得たものをちゃんと残しておきたい

──本作は、佐藤監督と鎌谷監督の共同監督制で制作されています。『HUGっと!プリキュア』『泣きたい私は猫をかぶる』など近年の作品では、佐藤監督からの提案で若手の演出家さんとタッグを組むことも多いようですが、今回もそういった形だったのですか?

佐藤 そうですね。他の仕事の関係などで、僕が現場(制作スタジオである東映アニメーション)にずっと入っていることができないという事情ももちろんあるのですが、次の世代で子供向けのアニメーションをきちんと作れる人を育てなくてはいけないということも思っていて。それって、東映アニメーションみたいな会社は特にやらなきゃいけないことなので、『HUGっと!プリキュア』を受けたのも、そういう理由があったからなんです。生きているうちに、少しでも自分の得たものをちゃんと残しておきたいなって(笑)。

そういう意味で、「誰か若い人に現場に入ってほしい」ということは、今回に限らず、常に言っています。そうしたら、今回は関さんから鎌谷さんの名前が挙がって。僕もいくつか鎌谷さんの作品も見せてもらい、おそらく次の世代を引っ張っていく人でもあるなと思ったので、ぜひ鎌谷さんと一緒にとお願いしました。

──鎌谷監督は、『HUGっと!プリキュア』にも、第33話の演出&コンテで参加されていますが、佐藤監督から見た鎌谷監督の印象をもう少し詳しく教えてください。

佐藤 アニメーションを作る人にもいろいろな人がいて。天才肌の人もけっこういるんですけれど、そういう人たちって周りが見えなくなったりして、現場がしっちゃかめっちゃかになっていても、自分のやりたいことをやってしまいがちなんです。そういう人たちは目立つし、注目もされやすいんですけれど。そういう人がテレビシリーズの監督とかになると、困ったことになるんです(笑)。

──周りが苦労するわけですね(笑)。

佐藤 そういう人は監督ではなく、各話(演出)でやりたいことをやってもらうのが、作品のためにはいいんですよね。でも、これから育てていかなくてはいけないというか、(東映アニメーションに)必要なのは、ちゃんと設計図を描いて、この作品はこういう人たちがターゲットだから、こうやって作るんだよ、といったことを仕事としてしっかりできる人。鎌谷さんは、まさにそういう人で、『HUGっと!プリキュア』の時も「すごいちゃんとした人が来た」という感じがあって。気を付けないと、こっちが怒られるなって思いました(笑)。他の作品を観た時も、きちんと設計図を作っている感じがすごくありましたね。

それに『HUGっと!プリキュア』では、担当回のアフレコとダビングも、各話演出がやるという昔からの東映スタイルだったので、僕はそれを見ている感じだったのですが、ちゃんと自分の言葉で自分の演出や欲しい演技について声優さんに説明できていたんです。意外とそれができない人も多いのですが、鎌谷さんは、自分の作品を責任持って作れるだけのスキルがあったんですよ。

どんな人でも何かしらの引っかかる要素があるんじゃないかな

──栗山緑さんの書かれた脚本は、最初から決定稿に近い内容だったのですか? それとも、初稿からは大きく変化しているのでしょうか?

佐藤 最初に書いてもらったのは長めのプロットという形だったのですが、その時点では、どれみたちが20歳になって……というお話でした。でも、山田隆司(栗山緑の別名義)さんにそれを書いていただいた時点では、さっきお話しした僕の迷いみたいものがなかなか晴れなかったんです。

その後、『どれみ』を観ていた子たちの話にしようという打ち合わせがあった後の最初の稿では、おおむね今の形になっていました。そこからは、物語が大きく変わったということはなかったです。ただ、かなり長くて、『どれみ』の懐かしい場所がものすごくたくさん出ていたりはしました(笑)。

公開直前『魔女見習いをさがして』 佐藤順一監督「作品から大事なものを得た経験がある人には届く映画」
飛騨高山、京都、奈良と、『どれみ』ゆかりの土地を巡っていく3人。「観終わってから、一緒に観た人と話したり、舞台になった場所へ行ったりするところまでが、この作品の楽しさだと思っています」(佐藤監督)

──主人公たち3人のキャラクター性はどのように固まっていたのでしょうか?

佐藤 描く時にバランスのいい人数なので、誰が言い出すでもなく主人公は3人になっていました。ただ、3人の年齢の幅やそれぞれの境遇といったところは、関さんや山田さんの意見もあって、今の形に落ち着きました。僕の方から「こうしてほしい」ということは、ほとんど言ってないんですよ。

──では、キャラクター造形に関しては、関プロデューサーと山田さんから出てきた要素が大きいのですね。同じ『どれみ』のファンなのに、27歳のミレ、22歳のソラ、19歳のレイカと年齢に少し差があることで、描かれるドラマにも幅が生まれているのだなと感じました。

佐藤 本放送の時ではなく、放送終了後にビデオや再放送で観た子もいるかもしれないし、(女児向けアニメから)離れるギリギリの年齢で『どれみ』の第1シーズン(無印)が始まったという子もいるかもしれない。そうなると年齢幅はこのくらいかなみたいなことは、関さんから出てきたアイデアです。たぶん、(『どれみ』の視聴者に関する)データから考えたことだと思います。

──そして、それぞれに異なる悩みを抱えているわけですね。

佐藤 自分のやりたい方向に進んだけれど、その会社の中で悩んでいる帰国子女。やりたい方向に進んでいるはずだけど、本当にそうなのかと迷っている大学生。やりたい方向に自信をもって進めていないフリーター。ある意味、わかりやすい3人ではあるのですが、だからこそ、どんな人でも何かしらの引っかかる要素があるんじゃないかなと思っています。
(丸本大輔)

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作品概要

『魔女見習いをさがして』
11月13日(金)全国ロードショー

【STAFF】
原作:東堂いづみ 監督:佐藤順一 鎌谷 悠
脚本:栗山緑 音楽:奥 慶一
キャラクターデザイン・総作画監督:馬越嘉彦
作画監督:中村章子 佐藤雅将 馬場充子 石野 聡 西位輝実 浦上貴之
絵コンテ:佐藤順一 鎌谷 悠 五十嵐卓哉 谷東
製作担当:村上昌裕 編集:西山 茂
録音:川崎公敬 音響効果:石野貴久
音楽構成:水野さやか 美術監督:田尻健一
MAHO堂デザイン:行信三 ゆきゆきえ
色彩設計:辻田邦夫 撮影監督:白鳥友和
プロデューサー:関 弘美
アニメーション制作:東映アニメーション

【CAST】
森川葵 松井玲奈 百田夏菜子(ももいろクローバーZ)
千葉千恵巳 秋谷智子 松岡由貴 宍戸留美 宮原永海
石田 彰 浜野謙太 三浦翔平

公式サイト:https://www.lookingfor-magical-doremi.com/

(C)東映・東映アニメーション