『エール』第23週「恋のメロディ」 114回〈11月19日(木) 放送 作:吉田照幸、演出:吉田照幸、安食大輔、谷口尊洋〉

『エール』リハビリという困難を共に乗り越えて近づいていく霧島と華の心<ネタバレ>
イラスト/おうか

華、夜の街に繰り出す

“朝ドラ送り”とは『おはよう日本関東版』で高瀬アナがはじめた、朝ドラに関するトーク。番組の終わり、朝ドラがはじまる15秒ほどで、朝ドラにつなげるトークをする。

【前話レビュー】華、軽い女になる 『エール』が急に喜劇調になってきた理由

高瀬アナは朝ドラ好きで、特番の司会までやっている。
朝ドラを深く観て、とても楽しんでいる感じが親しみやすい。今朝は「まじめとやさしさが加わると重くなるんですか?」と桑子アナに振った。視聴者の目線に歩み寄ったいい感想だったが、桑子は「え。音さんがですか?」と勘違い。慌てて、かき消しながら『エール』へ――。

桑子アナ、当初は、前任の和久田麻由子があえての朝ドラに興味なしの塩対応だったことに対して、熱心な朝ドラウォーッチャーかとして登板したが、最近、そうでもない感じ。忙しいのだろうか。はたまたキャラ変か。

それに比べ、高瀬アナはもうずっと徹底して朝ドラに尽くしている。『あさイチ』の有働アナがそうだったように。彼らは、まじめでやさしい視点を持っているが、けっして重くない。高瀬アナの軽やかな誠実さはじつに魅力的だ。


さて、華である。
113回の「華、軽い女になる」の予告どおり、華(古川琴音)は、夜の街に繰り出し始めた。この短絡的な感じ、昔、音が『椿姫』をやるためにカフェーで働き始めたことと同じ。さすが、母娘。

そこで出会ったのは、乾杯してすぐ口説く男、手鏡を見ている男、マザコンの男、自慢話とアメリカンジョークを言う男とろくなのがいない。

手鏡といえば、池田二郎(北村有起哉)――。

霧島のリハビリをはじめる

池田は手鏡で顔についた傷を見ていたことがある。ひとりの女性に決めず、複数の女性の間を渡り歩いている軽い人物であることが匂わされている。

筆者が取材したところ、手鏡を見る動きは北村有起哉のアイデアだった。これは、113回の場面と呼応させようとしていたのかもしれないと想像できる。

華は、アメリカンジョークを言う外科医・城畑(本多力)の話から、リハビリを導入することを思いつき、院長(谷川昭一朗)に相談して、霧島(宮沢氷魚)のリハビリをすることになった。

『エール』リハビリという困難を共に乗り越えて近づいていく霧島と華の心<ネタバレ>
写真提供/NHK

ここで気になるのは、院長は院長なのに、ちょっと出のアメリカンジョークの外科医には城畑と名前がついている。たとえば『まんぷく』ではほぼ全員フルネームをつけていたが、『エール』ではまちまち。
城畑、名前があるのだから、まだ出るのではないかと期待したい。

話を戻して。霧島は気安く引き受けるが、「ちゃんとした知識もってやってる?」と意外と正論を言う。それに奮起した華は、軽い女計画を早々に終了。医学の勉強に励みはじめる。
そして――

「運命の人、見つかりましたー!」

共にリハビリをしているうちに、華と霧島の心は通じ合っていく。もともと霧島は華に好意的。華は、入院患者の付添・松宮チエ(山口果林)に霧島をおすすめされ、頑なな心を徐々に和げていく。

霧島は、華の両親に「娘さんをください」と言いたいと言い出す。展開早っ。当時は、付き合う=結婚 という感覚も普通だったからそれはいい。霧島は軽そうに見えて、根はまじめなのだろう。

ただ、ウインクなどの女性へのアピールが久志(山崎育三郎)とかぶり、チャラ男の表現のパターンが類型的過ぎる。
NHKのスタッフは優秀で真面目なのだろう。なぜなら、リハビリという困難をふたりで乗り越えて、遠くから、華のもとに歩いて近づいてくるところなどは、じつにいい感じに撮っているからだ。

真面目に歩く霧島の顔、すごいと微笑む華の表情、とてもいい。短い期間で、ふたりが協力し合うことで、近づいていく心を「リハビリ」と重ねて見せるアイデアはいい。

みかんの白い筋をむく霧島の美しい指のサービスカット。大きな木の根本でアイスを食べる場面も爽やかだった。

「一緒だと楽しいわよ」

華の話を聞いた音(二階堂ふみ)は、二十歳の頃から裕一(窪田正孝)と一緒に生きてきて、喜びも哀しみも共にしてきたと振り返り、「一緒だと楽しいわよ」と微笑む。じつにおだやかに。

最終週の1週間前、華の恋を描くのと同時に、裕一と音がいかに喜びと哀しみを共有してきたか、ふたりの主観でなく、華の未熟な恋と比べることで、その強さを客観的に噛みしめるようになっている。たぶん、最終回で、もう一回、ふたりでがっつり噛みしめるのだと思うが。

音はすっかり落ち着いた妻になり、帝劇の楽屋へ、艶やかな着物を着て、差し入れを持っていく。有閑マダムっぽい。

帰宅して「指揮者のお父さん、カッコよかったわよ。
惚れ直した」とさらりと華に言う。このさらりとした感じが、長年連れ添った夫婦であり、唯一無二の妻・音の余裕を感じる。

楽屋に、木枯(野田洋次郎)廿日市(古田新太)からの花が届いていて、生存確認できてよかった。

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Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami


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『エール』リハビリという困難を共に乗り越えて近づいていく霧島と華の心<ネタバレ>
写真提供/NHK

番組情報

連続テレビ小説「エール」 

【放送予定】
2020年3月30日(月)~11月28日(土)

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り

<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)

<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送

<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

原作・原案:林宏司
脚本・作:清水友佳子 嶋田うれ葉 吉田照幸
演出:吉田照幸ほか
音楽:瀬川英二
主演: 窪田正孝 二階堂ふみ
語り: 津田健次郎
主題歌:GReeeeN「星影のエール」

制作統括:土屋勝裕 尾崎裕和
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