Netflix『返校』はホラー映画の金字塔『キャリー』のような趣 復讐方法もパンチが効いている

台湾で製作され、Netflixで配信中のドラマ版『返校』連続レビュー、今週は物語が結末を迎える7~8話についてご紹介する。

【前回レビュー】Netflix『返校』台湾ホラーゲーム発で描かれる、白色テロ時代の台湾で起こったある悲劇<1〜4話>

『返校』明かされるレイの過去! ユンシアンはループする記憶から脱出できるのか

主人公リウ・ユンシアンは、自分を強姦しようとしたシェン先生とその事件解決の顛末に絶望し、自殺を図る。しかし目を覚ました場所は、この世に強烈な未練と怨念を残して死んだ高校生ファン・レイシン(通称レイ)の記憶の中だった。
何度も同じ高校時代をループするレイの記憶を追体験することで、およそ30年前の1960年代にレイが犯した大きな間違いが明かされる。

一方、ユンシアンと入れ替わる形で現世に舞い戻ったレイ。彼女は一般生徒に混じり、創立記念日を迎えた翠華中学へと乗り込む。30年前から翠華中学に赴任し続け現在でも軍隊顔負けの厳しい統制を敷くバイ教官、そして同じくずっと居座り続ける校長に対し復讐を果たすべく、レイはついに悪霊としての己の力を使い始める。

というわけで、最終2話ではついにレイに隠された悲しい過去が明かされることに。その内容は基本的にゲーム版とほぼ同じではあるのだが、しかし改めて映像の形で時系列順にしっかり見せられると、整合がちゃんと取られているだけになかなかキツい。
ゲーム版では終盤で断片的に途切れ途切れのシーンを見せられるだけだったので、このあたりはドラマならではの変更点と言えるだろう。

一方で、完全にドラマ版オリジナルの展開となっていたのが、過去にレイとの因縁を持つウェイ・チョンティンとその甥チョン・ウェンリアンの存在だ。ウェイ自体はゲームにも登場していたがトゥルーエンドにたどり着かないと詳細までは判明しなかった。ドラマ版ではゲームでもキーアイテムだったラジオを通じ、ついに悪霊となったレイと邂逅を果たす。

また、城隍神を祀った廟での祭事を取り仕切る家庭に生まれたチョンの存在も、物語を動かす上で欠かせないものとなっている。このあたりの改変も、ちゃんと意味があったところには唸らされた。
ゲーム版をやっていてもやっていなくても楽しめる、映像化の意義を感じる追加要素である。

Netflix『返校』はホラー映画の金字塔『キャリー』のような趣 復讐方法もパンチが効いている

さらに、終盤ではホラーとしての『返校』が本領を発揮する。過去の怨念を抱いたレイがバイ教官と校長に復讐を果たそうとするのはけっこう怖いし、その方法もかなりパンチが効いている。創立記念日の全校集会を舞台にレイの復讐劇がクライマックスを迎えるくだりは、まるで『キャリー』のような趣である。

一方で、バイ教官や校長はこれまでユンシアンにつらく当たってきた人物でもあり、視聴者にはそれなりにストレスも溜まっている。そんな彼らが女子高生の幽霊を前に縮みあがり、強烈な方法でリベンジされるところはなかなか痛快。
気づいたら「いったらんかい!」とレイの方を応援してしまった。

過去をエンタメとして振り返ることができる、現代の台湾の自由さ

しかし全話見終わってみて改めて感じるのは、『返校』はやはり非常に政治的な作品だということである。第二次大戦後~冷戦の時期、厳しい軍政が敷かれた北東アジアの国は多い。韓国では北朝鮮との対峙という状況下で長く軍事政権による独裁が続いたし、北朝鮮はいまだに独裁国家のままである。中国にしても共産党による一党独裁と、ネット上にまでおよぶ厳しい言論統制が続いている。

Netflix『返校』はホラー映画の金字塔『キャリー』のような趣 復讐方法もパンチが効いている

台湾にしても、軍による戒厳令下でキツい思想統制が敷かれてきたというのは、『返校』を見てもわかる通りである。しかし、ドラマ版『返校』の終盤ではそんな状況下でも禁書を読み視聴を禁じられたラジオ放送を聞いた人々がいたこと、そして彼らがどのような犠牲を払って自由を求めたのかが描かれる。


また、ドラマ版『返校』における政治的なモチーフの使い方も、自由そのものである。長らく台湾総統として君臨した蒋介石だが、ドラマの中では言論弾圧で本来は自由なはずの学校の環境を閉塞させた象徴として、蒋の銅像や写真が使われている。かつて台湾では神様のように自分を崇拝させ(現在の北朝鮮の金正恩あたりの感じをイメージするとわかりやすいかもしれない)、台湾全土の住民をバリバリ取り締まっていた国民党政権の親玉とはとても思えない扱われ方である。

とりわけ最終話の展開は、そういった台湾の暗い過去をしっかり見据えた内容と言えるだろう。レイもまた戒厳令時代の犠牲者の一人だったという側面が、あくまで超常的な現象を扱うホラーだからこそ可能な流れで、しつこくなく描かれるのには唸ってしまった。また、見終わった後の後味が悪くないのも、現在の台湾が自由な社会を実現したことにつながっていると思う。


Netflix『返校』はホラー映画の金字塔『キャリー』のような趣 復讐方法もパンチが効いている

すでに映画版も製作され台湾では公開されている『返校』。公開直前には民進党政権の文化部長がSNSで「ぜひ観てほしい」と宣伝し、またその昔は戒厳令を敷いていた側である国民党の議員も映画を観た後で「台湾の映画産業に積極的に投資する」と発言している。

自国の負の歴史を扱ったホラー映画に対して、政治家がここまで開けっぴろげに支持を表明することは、現在の日本では難しいのではないだろうか。このような政治家の行動を見るだけでも、台湾の人々が戒厳令時代以降どれほど自由で活発な社会を築いたのかがうかがえる。台湾の歴史、そして現代の空気感を知るための素材としても、ドラマ版『返校』はうってつけなのだ。

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作品情報

Netflix Nシリーズ
『返校』
2020年 / 1シーズン

監督:スー・イースアン、チョアン・シャンアン、リウ・イー
出演:リー・リンウェイ、ハン・ニン、ホアン・コアンチー、ジャック・ヤオ、シア・トンハン、デヴィッド・チャオ、ルオ・グアンシー、ウー・クンダー、セレナ・ファン、キャロル・チョン、チャン・ハン、ツァイ・ルイシュエ、リン・チーチエン

<ストーリー>
台湾発人気ホラーゲームがドラマ化。
1990年代、山奥の学校で立ち入り禁止の場所に入った転校生リュウは、亡霊となったファンと出会い、過去の惨劇の秘密を知ることに。

◎配信ページ:https://www.netflix.com/title/81329144


Writer

しげる


ライター。岐阜県出身。元模型誌編集部勤務で現在フリー。月刊「ホビージャパン」にて「しげるのアメトイブームの話聞かせてよ!」、「ホビージャパンエクストラ」にて「しげるの代々木二丁目シネマ」連載中。プラモデル、ミリタリー、オモチャ、映画、アメコミ、鉄砲がたくさん出てくる小説などを愛好しています。

関連サイト
@gerusea