『おちょやん』第6週「楽しい冒険つづけよう!」

第27回〈1月12日 (火) 放送 作:八津弘幸、演出:盆子原誠〉

朝ドラ『おちょやん』心に闇を抱えた千鳥と千代 ふたりの闇は引き合っている
イラスト/おうか
※本文にネタバレを含みます

千代、大活躍

公演打ち切りピンチの山村千鳥一座。起死回生を狙って、人気の漫画『正チャンの冒険』を演劇化することになった。

【前話レビュー】千鳥のやりたいという客に媚びない演目とは何なのか考察する

ねずみ3役をもらった千代(杉咲花)
稽古中、セリフ覚えの悪い俳優にプロンプして感謝される。どうやら千代はセリフを覚えるのは得意なようだ。それも、芝居をよく見て記憶する。台本を何回も読んで記憶するという、努力タイプ。でもそれが思わぬチャンスに結びつく――。

「あなただけはあなたの役を愛しなさい」

座長・千鳥(若村麻由美)は『正チャンの冒険』公演を反対し、提案した清子(映美くらら)たちに任せている。千鳥が、自分の世話係の合間に稽古をしている千代に、しばらくは稽古に専念しろと言うと、世話も稽古もすると言う千代。理由はたいした役ではないから。

それを聞いた千鳥は、たとえどんな役でも「ほかの人からどう思われようと、あなただけはあなたの役を愛しなさい」と語気を強めた。そこには千鳥の俳優としての想いがにじむ。そして、主題歌の歌詞<どんな今日も愛したいのにな>とも通じ合うものもある。

千鳥は、高城百合子(井川遥)のような華やかな女優にかなわない忸怩(じくじ)たる想いを抱えていた。「彼女が太陽なら、さしずめ私は夜の暗闇ね」と自虐的。


月ではなく闇。真っ暗な千鳥の人生――妾の娘ながら幸福に育てられたものの(ここは『澪つくし』っぽい)、嫁いだ先で夫も姑にも意地悪され(姑の意地悪は『おしん』ぽい)、結果、別の女が妊娠、家を出た。俳優になったのは、まったく違う自分になって見下した世の中を見下したいからという話を聞いた千代は、自分のこれまでの哀しい道のりを思い出して涙ぐむ。

昭和のころ、『女ののど自慢』という番組があった。苦労話を公開してから歌うという趣向が人気だったのだが、『おちょやん』は女の苦労自慢である。

朝ドラ『おちょやん』心に闇を抱えた千鳥と千代 ふたりの闇は引き合っている
写真提供/NHK

千代と千鳥

四葉のクローバーを見つけるコツがわかった千代は、新聞の誤植の発見もうまくなった。おかげで難しい言葉も学ぶことができたと千代が感謝すると、単なる「嫌がらせ」でやっているだけだと否定する千鳥。素直じゃない。千代は負けん気が強いから、意地悪されてもへこたれない。なかなかいいコンビである。

千鳥と千代は、心のなかに哀しみや苦しみで真っ黒になった闇を抱えている者同士。だから、ちょっと屈折しているのだ。憎まれ口を叩きながら、ふたりの闇は引き合っている。


朝ドラ『おちょやん』心に闇を抱えた千鳥と千代 ふたりの闇は引き合っている
写真提供/NHK

『清盛と仏御前』と『松風村雨』の関係性

前評判が上々の『正チャンの冒険』は、主演の清子が稽古中に捻挫して風前の灯火に。千鳥は『松風村雨』に変更するように言う。

この『松風村雨』は、在原行平が須磨に流され、海女の姉妹・松風、村雨と恋をして、やがて別れる。残された姉妹は尼になる。海女から尼へ、って喜劇かと思ってしまうが……。

それはさておき『清盛と仏御前』と同じパターンである。高貴な男が庶民の女をひととき寵愛し、そのうち捨てると、残された女は尼になる。男女差別、階級差別はなはだしい。世の中見返すと言っている千鳥が、そんな演目ばっかりやっていることが不憫でならない。

もちろん、こういう物語が語り継がれているのは、同じような目にあった女たちの鎮魂であるとはいえ、千鳥が暗闇人生を演劇で晴らすためには、その手の女性が捨てられる話から脱することが肝要かと思う。それが女性の地位向上である。

俳優の力

演目を変えなさいと高笑いして、舞台に上がるときの千鳥の身のこなしのかっこよさを見よ。26回で千代が舞台に投げられたものを舞台に這いつくばって拾うときのみっともない格好(わざとそう演じているのはわかっています)とはまるで違う。

清子は清子で、正チャンを演じて、街を練り歩いているとき、膝を曲げて背を低くして子供っぽさを出している。
舞台では、カーテンコールで挨拶するとき、女性は男性役よりも腰をかがめて小さく見せる。俳優はそういう配慮が身についているのである。
『おちょやん』では名優たちのさりげないプロのワザが煌めいている。

ただ、女性は男性より一歩下がるべしとか、小さくなるべし、というような形式が、ジェンダー差別にも繋がらないとも限らない。舞台は舞台と割り切っていいとは思う。けれど、形式だからで済まされず、そういうものと人間の意識に次第に刷り込まれていく可能性もなくはない。無意識の刷り込みこそが怖いのだから。なんてことを思わせてくれる『おちょやん』。演劇の歴史を通してひそやかに差別問題を考えさせる意欲的な作品となる可能性を秘めている。

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■杉咲花(竹井千代役)プロフィール・出演作品・ニュース
■西村和彦(宮元潔役)プロフィール・出演作品・ニュース
■映美くらら(藪内清子役)プロフィール・出演作品・ニュース
■西村亜矢子(シゲ役)プロフィール・出演作品・ニュース
■若村麻由美(山村千鳥役)プロフィール・出演作品・ニュース
■井川遥(高城百合子役)プロフィール・出演作品・ニュース
■桂吉弥(黒衣役)ニュース


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番組情報

連続テレビ小説『おちょやん

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り

<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)

<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送

<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

:八津弘幸
演出:梛川善郎
音楽:サキタハヂメ
主演: 杉咲花
語り・黒衣: 桂 吉弥
主題歌:秦 基博「泣き笑いのエピソード」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami
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