『アウトポスト』が伝える現実「戦争は戦闘のみならず生活も地獄」
(C)OUTPOST PRODUCTIONS, INC 2020

アフガニスタンで実際に発生した激しい戦闘を題材にした戦争映画の力作『アウトポスト』。その内容は、戦闘だけではない前線基地での地獄めいた暮らしにまで迫った濃厚なものである。


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実話を元に、強烈に不利な戦闘を徹底再現した『アウトポスト』

『アウトポスト』で題材となっているのは、2009年10月3日に発生した戦闘前哨基地"キーティング"での一連の戦闘である。アフガニスタン北東部の山岳地帯の中に作られたキーティング基地と駐屯するおよそ50人のアメリカ兵は、この日300人以上のタリバンから襲撃を受け、大損害を受けつつも激戦の末に基地を守った。

『アウトポスト』が伝える現実「戦争は戦闘のみならず生活も地獄」
(C)OUTPOST PRODUCTIONS, INC 2020

キーティング基地は、2006年から米軍がアフガニスタン北部に集中して建設した一連の前哨基地のひとつ。その目的は、パキスタンからのタリバン兵流入を防ぐためだった。しかしキーティング基地が作られたのはすり鉢のような地形の一番低い場所。周囲を囲む山地から断続的にタリバンの襲撃を受ける立地は、お世辞にも基地として望ましいものではない。

映画は、そんなキーティング基地にクリントン・ロメシャ2等軍曹らが赴任してくるところから始まる。劣悪な条件の基地に驚くロメシャ軍曹らは、早速基地の周囲の山地からのタリバンたちの攻撃を受ける。小競り合いが続く中、基地と地元部族との会談も設けられ、なんとか米軍は治安を安定させようと躍起になっていた。しかし険しい山地での事故で輸送車両とキーティング大尉を失い、さらに連続して基地の司令が交代したことで基地の中は不安定に。兵士たちの行動も荒み始める。

『アウトポスト』が伝える現実「戦争は戦闘のみならず生活も地獄」
(C)OUTPOST PRODUCTIONS, INC 2020

そんなある日の朝、基地の全周をタリバンの兵士が埋め尽くし、巧妙に連携した攻撃を開始するという事態が発生。ちょっとした小競り合いだったら慣れっこになっていたアメリカ兵たちも、攻め込んでくるタリバンの人数と米軍側の重火器を早めに潰してくる戦術、そして続出する死傷者に混乱し始める。
そしてついに基地の中にタリバンが侵入してしまう最悪の事態に。ロメシャ軍曹らはこの事態に対応するべく、基地の人員のみで必死の抵抗を開始する。

とにかく凄まじい戦争映画である。前半1時間は基地の兵士たちの緊張と弛緩を繰り返す普段の暮らし、後半1時間はキーティング基地での激闘というペース配分だが、特にこの後半は全編戦いっぱなしの撃ちっぱなし。アメリカ兵たちが必死で善戦するも多くの死傷者を出すに至った流れを、納得できる形で描いている。

『アウトポスト』が伝える現実「戦争は戦闘のみならず生活も地獄」
(C)OUTPOST PRODUCTIONS, INC 2020

「低地の基地に対して、全周から攻撃を加えられる」という状況が特徴的な映画なので、その状況の怖さを描くことにステータスを全振り。「前も後ろも左右も全部の方向に敵がいる」「一歩遮蔽物や建物の外に出ればあらゆる方向から攻撃を受ける」という状況なので、思いもよらない方向から撃たれて兵士が死に、とんでもない角度からRPGが飛んでくる。マジでおっかない……。

タリバン側の攻撃の巧妙さをうまく説明しているのもいい。基地には唯一敵を砲撃できる迫撃砲、基地の電力を全てまかなっている発電機、重機関銃を取り付けた移動銃座として使われているハンヴィーといったウィークポイントがあることがまず戦闘前に説明され、そこをタリバンがどう狙ったのかが後半の戦闘で描かれる。先に説明がすんでいるので、アメリカ兵側がどのくらいピンチになっているのかがわかりやすい。大変壮絶な状況であるにも関わらず、複雑な状況をスルッと説明する手際は、現代の戦争映画らしいスマートさだ。


『アウトポスト』が伝える現実「戦争は戦闘のみならず生活も地獄」
(C)OUTPOST PRODUCTIONS, INC 2020

前哨基地での暮らしは、戦闘以外だってキツいんです

後半のキーティング基地での戦闘はもちろんすごいのだが、個人的にグッときたのはむしろ前半の基地での暮らしの様子である。なんせキーティング基地はアフガニスタンの山の中にポツンと建てられた前哨基地だ。周囲にコンビニやスーパーどころか電気も水道も来ておらず、そんなところに立てた掘っ建て小屋のような兵舎や司令部に、50余人の兵士たちが詰め込まれている。おまけに周囲の山には突然タリバンが現れ、銃弾やロケット弾を撃ち込んでくる。想像したくもない状況である。

『アウトポスト』の特徴が、この基地での生活のイヤさ加減をきっちり描写するところである。何もすることがなくてヒマかと思えば断続的に命に関わる戦闘が発生するという精神を削られる状況に加え、上司がコロコロかわって指示や方針がその度に切り替わる。赴任してきた時はまだまともだった兵士たちも時間の経過とともに疲弊し、ついには「水を使った拷問ごっこ」のようなムチャクチャな遊びを始めるまでに……。

『アウトポスト』が伝える現実「戦争は戦闘のみならず生活も地獄」
(C)OUTPOST PRODUCTIONS, INC 2020

単純に熾烈な戦争を描いた映画なら世の中にたくさんあるが、「アフガニスタンの前哨基地で生活するとは、一体どういうことなのか」という点まで踏み込んでいるのが『アウトポスト』の大きな見所だろう。その暮らしは戦闘と生活を簡単に切り分けられるような単純なものではなく、緊張し戦闘することが生活そのものと不可分なのである。

『アウトポスト』が伝える現実「戦争は戦闘のみならず生活も地獄」
(C)OUTPOST PRODUCTIONS, INC 2020


『アウトポスト』が伝える現実「戦争は戦闘のみならず生活も地獄」
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周囲に住んでいる現地住人の中にタリバンがいるかどうかもわからず、気まぐれな攻撃に神経をすり減らしながらコロコロ変わる上官の指示に付き合い、ずっと同じ顔ぶればかりを眺めて過ごす……。『アウトポスト』によって描かれたアフガニスタン駐留部隊の生活は、このように地獄めいたものだった。

『アウトポスト』が伝える現実「戦争は戦闘のみならず生活も地獄」
(C)OUTPOST PRODUCTIONS, INC 2020

タリバンとの激しい戦闘も地獄、かといって基地でのいつもの暮らしもキツい……。
アフガニスタン駐留米軍の暮らしは、かくのごとく悲惨なものだった。その意味で、『アウトポスト』は戦闘においても戦闘以外においても、見事にアフガニスタンの地獄を描いた作品であると言える。こうなってくると鑑賞するのも半ば怖いもの見たさということになるが、その期待に応えてくれる作品であることは保証する。単純な英雄たちの物語でもなく、かといってただ戦争の悲惨さだけにフォーカスした作品でもない、2種類の地獄を味わわせるべく絶妙な湯加減にチューニングされた戦争映画だといえるだろう。

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作品情報

『アウトポスト』
3月12日(金)より新宿バルト9ほか全国ロードショー

『アウトポスト』が伝える現実「戦争は戦闘のみならず生活も地獄」
(C)OUTPOST PRODUCTIONS, INC 2020

出演 スコット・イーストウッド ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ オーランド・ブルーム ジャック・ケシー マイロ・ギブソン
監督:ロッド・ルーリー
脚本:エリック・ジョンソン、ポール・タマシー
撮影:ロレンツォ・セナトーレ
編集:マイケル・ドューシー
音楽:ラリー・グループ

2020年/アメリカ/英語ほか/123分
配給:クロックワークス
(C)OUTPOST PRODUCTIONS, INC 2020

<ストーリー>
『エクスペンダブルズ』『ハンターキラー 潜航せよ』の製作陣が贈る、リアル・ミリタリー・アクション超大作
アフガニスタンで最悪の戦闘と言われた衝撃の実話を映画化
50人の米軍兵は如何にして300人のタリバン兵に立ち向かったのか!?


圧倒的不利な状況下で、兵士たちは如何にして戦い抜いたのか?2009年10月3日アフガニスタンで、その基地はタリバンの精鋭部隊による総攻撃を受け、14時間にも及ぶ過酷な戦闘が繰り広げられた。その一部始終を、生々しい人間模様と、ひりつくようなアクションで描き尽くす。逃げ場のない、360度全方位からの総攻撃。その日その時、米国陸軍史上最大の悪夢となる激戦が幕を開けたーー。

公式サイト:https://klockworx-v.com/outpost/


Writer

しげる


ライター。岐阜県出身。元模型誌編集部勤務で現在フリー。月刊「ホビージャパン」にて「しげるのアメトイブームの話聞かせてよ!」、「ホビージャパンエクストラ」にて「しげるの代々木二丁目シネマ」連載中。プラモデル、ミリタリー、オモチャ、映画、アメコミ、鉄砲がたくさん出てくる小説などを愛好しています。

関連サイト
@gerusea
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