『おちょやん』第15週「うちは幸せになんで」
第73回〈3月17日(水)放送 作:八津弘幸、演出:小谷高義〉

「みんなみんなあいつのせいなんやけ」
千代の子役・毎田暖乃が登場。父テルヲ(トータス松本)のことを「心のなかに妙に冷たい干からびたもんしか残ってませんのや」と冷めたことを言いながらもどこかで引っかかっている千代(杉咲花)のもうひとつの心として語りかける。【前話レビュー】千代はもう他人の妻なのだと思い知らされるテルヲの後ろ姿が切ない
「ええやんけ。
それを聞いて、思いきれずにすすり泣く千代。
思い出すのは、第2週の最後、千代(毎田)が道頓堀に奉公にでるとき、脱兎のごとく追いかけてきて、引き止めてくれるのかと思いきや、母との写真を渡し、出発を後押しした場面。哀しくて悔しくて、「うちは捨てられたんやない。うちがあんたを捨てたんや」と強がりを言う。『おちょやん』屈指の名場面である。この頃は、千代がちゃんと堂々と主役だった。
それから成長した千代は、苦労に苦労を重ねて、俳優となり、千之助(星田英利)に「あいつはな、自分こうからギラギラ輝くような役者やないねん。せやけど、なにゃこう妙にあったこうて、優しい。なんちゅうかな…… う〜〜ん……お月さんのような役者やなあ」と評される、相手を輝かせる名脇役の道を歩んでいた。
名脇役だからってドラマのなかでも主役っぽく描かない必要はない。さだまさしが「主人公」のなかで歌っている。
ただ、前述の、少女時代の自分を思い出しすすり泣くところは、舞台だったら、ピンスポが当たる名場面になっていると思う。ところが、ドラマだと、ほかのエピソードのほうが目立ってしまうのである。73回でいえば、一平(成田凌)がテルヲの写真を撮る場面。こっちのほうのドラマ性が強く見える。どうしてそうなのかその理由は、千代は最後の最後に自分の物語の主人公になるコンセプトになっているのだと考察しておく。
一平とテルヲ
テルヲが千代の家にいくと、一平がカメラをいじっていた。昔、一回だけ家族で写真館に行ったことがあると懐かしむテルヲの写真を撮ることにする。「千代のこと、よろしうたのんます」
「わしができんかったことをあいつにしたってほしいんや。千代を幸せにしたってきれ、頼む」
頭を深く深く下げて頼むテルヲ。
「笑ってください。もっとや。もっと。もっとや!」
まるで厳しい演出家のようにテルヲを煽り、笑わせる。
テルヲの大きな笑顔はすこし泣いているようにも見える。
父から夫へ、バトンを託すセレモニーのようだ。が、しかし、千代のモデルの浪花千栄子と、一平のモデルの渋谷天外の顛末をあらかじめ知っていると、けっきょく、一平もテルヲのように千代を不幸にすることが想像できるのだが、これだけ執拗に、そのいやな予感を描くのは、違う世界線を描くつもりなのではないかとも思える。


大河ドラマ『麒麟がくる』もこれまでにない明智光秀、本能寺の変の意外な真実、みたいな感じで煽っていったのと同じく、実話をもとにしたドラマのネタバレを逆手にとった、先が気になる戦略が功を奏するといいのだが……。
けっきょく借金取り
千代のまわりをうろつき続けるテルヲ。東京の有名な演劇雑誌から家庭劇が取材を受ける晴れがましい日にもテルヲはやって来た。さらに、そこにテルヲを追って借金取りもやって来て、稽古場の外で騒動が起こる。外で何かが起こっていることを察して、ルリ子(明日海りお)や香里(松本妃代)が記者の気をそらそうとするなど、劇団の結束が麗しいが、それも無駄に終わりそう。テルヲのせいでせっかくの記事がだめになったらどうするのか。
借金がまだある自分がつきまとうと、千代に迷惑が及ぶことがわからないテルヲが哀しい。千代の涙もつらい。
借金取りはテルヲが払えないのなら千代から取ると言い出す。この繰り返し、見ていてあまりいい気持ちがしないけれど、金曜日にきれいにまとまるのが『おちょやん』なので、そのためにわざといやな展開にしているのだろう。
仮にそうであっても、テルヲが借金取りにボコボコにされる場面も、まじめに生きている千代に借金がくっついてくることにもお腹いっぱい。ちょっと悲しい朝だったが、実際にこういう人たちもいるのだと思いをいたした。
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番組情報
連続テレビ小説『おちょやん』<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送
作:八津弘幸
演出:梛川善郎
音楽:サキタハヂメ
主演: 杉咲花
語り・黒衣: 桂 吉弥
主題歌:秦 基博「泣き笑いのエピソード」
木俣冬
取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。
@kamitonami