『おちょやん』第16週「お母ちゃんて呼んでみ」

第76回〈3月22日(月)放送 作:八津弘幸、演出:盆子原誠 〉

朝ドラ『おちょやん』千代が30歳に 人生最大の障害・父テルヲが亡くなり、新たなターンへ
イラスト/おうか
※本文にネタバレを含みます

あれから5年――千代、30歳

千代の人生の最大の障害である父・テルヲ(トータス松本)が亡くなって、新たなターンへ。

【前話レビュー】テルヲを最後まで良い人にさせなかった千代なりの優しさ

昭和12年。次世代の少年・松島寛治(前田旺志郎)がやって来た。
実子のいない千代は母のような気持ちで接していく。朝ドラの中盤以降は、主人公が結婚して母になり、子を育む物語になっていくケースが少なくない。親を亡くした千代、これからは親の気持ちを体験していくのだろう。

テルヲが亡くなって、生活の邪魔をされることのなくなった千代。立派なのは、彼の借金を岡安に返済したこと。道頓堀に奉公に出され、年季があけるとき、借金で首の回らないテルヲが千代をさらに新たなもっと過酷な仕事場に売り飛ばそうとやって来た。そのとき千代は京都に逃げたのだが、岡安のシズ(篠原涼子)が道頓堀の仲間たちからお金を集めて返済した。

「お父ちゃんの借りたお金はうちが返すのが筋だす」と義理堅い千代。しかも、彼女が所属する劇団・鶴亀家庭劇の公演が人気で、それを観に来るお客さんで芝居茶屋・岡安も潤っていた。不景気で芝居茶屋が潰れて、ライバルの福富も喫茶店に商売替えしてしまったが、岡安だけはずっと芝居茶屋を続け、いまや、日本は日中戦争の戦争景気に沸いている。芝居も、戦況を重ねた愛国ものが人気で、「頑張れ!集配婆さん」もそれが人気の理由だった。

昔の千之助(星田英利)万太郎(板尾創路)がやっていた舞台も戦争に合わせた内容で、「万歳!」「万歳!」とやっていたが、「集配婆さん」も「万歳!」「万歳!」とやっている。
このドラマ、「万歳!」が好きだなあ。それはともかく、千之助の付き人だった百久利(坂口涼太郎)がいい役をもらっていて成長を感じる。

日本中が戦争を好意的に感じている描写はみつえ(東野綾香)の子ども・一福(西村竜直)が、おじいちゃんの宗助(名倉潤)と戦争ごっこをしていて、でもそれが遊びではなく、わりと真面目であることから見てとれる。今の日本は敗戦を経験しているので、戦争反対の声が多いけれど、勝つことで日本が豊かになるなら率先して協力していた時代もあったのだ。千代もなんの疑いもなく、芝居が評判であることを喜んでいるふうだ。

千代には子どもはいないけれど……

結婚して8年。千代と一平(成田凌)には子どもができない。周囲に心配されるが、千代は、夫婦も仲良くやっているし、劇団員が子どものようだと笑い飛ばす。もともと、人の世話をしがちな千代だが、すっかり劇団員の世話係のようになっている。

そんなところに、親が亡くなって天涯孤独の少年・松島寛治がやって来た。熊田(西川忠志)に頼まれて、誰かが彼を居候させないといけない。家庭劇のそれぞれの家庭事情が語られる。漆原(大川良太郎)は親と同居して面倒をみているらしい。


そんななかで、小山田正憲(曾我廼家寛太郎)を「ちょっと不安やん……」と一平と語りあう。ぽりぽりと何か食べている小山田のアップ。いったい何が心配なのか、気になるワンカット。
朝ドラ『おちょやん』千代が30歳に 人生最大の障害・父テルヲが亡くなり、新たなターンへ
写真提供/NHK


朝ドラ『おちょやん』千代が30歳に 人生最大の障害・父テルヲが亡くなり、新たなターンへ
写真提供/NHK

けっきょく、一平と千代の家に居候することに。松島寛治のモデルは、松竹新喜劇を代表する名喜劇俳優・藤山寛美らしいが、ドラマの設定はまるで違う。親は新派の俳優だったが、当人は役者ではない、雑用係だと言う。だが、一平の台本に「おもしろそう」と興味を持ち、一平を喜ばせるし、うそ泣き演技もなかなか巧く、千代は注目する。

寛治のモデルの藤山寛美は役者をやるべく生まれてきたかのように、6歳のときに初舞台を踏み、子役として活動はじめる。藤山寛美の著書『みち草 わき道 しぐれ道』には、千之助のモデル・曾我廼家十吾を「日本一のおばあちゃん役者」と評し、「敬愛してやまない」と書いている。彼は道頓堀のさまざまな劇団に子役として駆り出され、いつしか一平のモデル・渋谷天外とも仕事するようになる。松島寛治がこれからどんなふうに描かれるか、ここでは結論を急がず、展開を待つとしよう。

千之助の婆さん演技は相変わらず絶好調。
星田英利は表情と声は婆さんぽいが、腰だけ曲げて、膝を曲げずに真っ直ぐすらりとしているため、全身で見ると老けて見えない。かくしゃくとした婆さんもいるから、それでいいのだとは思うが。

白い洗濯物が清々しい

千代は昔の古い家に住んでいて、なんとなく画面が茶色っぽいのだが、76回は白い手ぬぐいをたくさん干すことで画面がすこし明るくなった。レフ板代わりにもなっていいのが白い洗濯物。それを千代がピチピチと叩いてシワ伸ばし。こういう動きも手持ち無沙汰のときに役に立つ。ちょっと長いこと叩きすぎていた気もするが……。生活のお芝居は本当に難しい。

寛治のために、豪勢な料理でもてなした千代(でも昔の料理なので色味が茶色っぽい)。寛治はご飯をよそる手伝いをして食卓に運ぶが、転んで真っ白いご飯を床にこぼしてしまう。ほんのちょっとしかなくなったご飯を「よかったら食べ」と育ち盛りの寛治に譲る千代。一平にも譲るように促す。きっとヨシヲを思い出したのであろう。
ヤクザ者になったヨシヲはどうしているのやら……。

寛治がひとり加わっただけで、千代と一平の食卓が賑わった。音楽も軽快で、ドラマがみるみる躍動しそうな予感がする。

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番組情報

連続テレビ小説『おちょやん

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り

<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)

<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送

<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

:八津弘幸
演出:梛川善郎
音楽:サキタハヂメ
主演: 杉咲花
語り・黒衣: 桂 吉弥
主題歌:秦 基博「泣き笑いのエピソード」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami
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