映画化してほしいEテレ番組!昔話法廷「桃太郎」裁判

昔話の主人公たちが訴えられたら……?

突然だが、『昔話法廷』という番組をご存知だろうか。日本でも海外でも、おとぎ話ではしばしば殺人未遂や殺害が行われる。多くの場合、主人公が悪者を半殺しにするか、殺害するかで「めでたし、めでたし、」と決着がつく。


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いや待て、果たしてそれは本当に「めでたい」のか。お菓子の家で魔女を焼殺し、金貨を持ち帰ったヘンゼルとグレーテルは強盗殺人の罪に問われないのか? オオカミを鍋で煮殺した子ブタは正当防衛で無罪か? それとも、計画的犯行で有罪か? 『昔話法廷』は、そんな主人公たちが起訴され、被告人となり、裁かれる法廷ドラマを、裁判員の視点で描いたEテレ番組である。

映画化してほしいEテレ番組!昔話法廷「桃太郎」裁判

一回15分の超濃密な法廷劇

これまでに裁判が行われた昔話は以下の通り。

第1回「三匹のこぶた」裁判…【被告人】末っ子のこぶた
第2回「カチカチ山」裁判…【被告人】ウサギ
第3回「白雪姫」裁判…【被告人】王妃
第4回「アリとキリギリス」裁判…【被告人】アリ
第5回「舌切りすずめ」裁判…【被告人】すずめ
第6回「浦島太郎」裁判…【被告人】乙姫
第7回「ヘンゼルとグレーテル」裁判…【被告人】ヘンゼルとグレーテル
第8回「さるかに合戦」裁判…【被告人】さる
第9回「ブレーメンの音楽隊」裁判…【被告人】ロバ
第10回「赤ずきん」裁判…【被告人】赤ずきん

https://www.nhk.or.jp/school/sougou/houtei/
↑こちらの、NHK for Schoolで視聴できるが、基本15分番組、長くても20分なので、通勤中やランチタイムにサクッと観られる。非常にオススメのコンテンツなのでNHKの受信料を払っている方はぜひ観ていただきたい。

判決は下されない

ツイッターにトレンド入りするほど大人のファンも多い『昔話法廷』だが、何と番組内で判決は下されない。毎回、裁判員の審議に入ったところでプツリと話が終了する。つまり、メチャクチャ良いところで終わるのである。

映画化してほしいEテレ番組!昔話法廷「桃太郎」裁判

まさに、尻切れトンボ。同じことを民放の法廷ドラマでやったら、ツイッターは大いに荒れるだろう。だが、『昔話法廷』は、あくまで教育番組の延長であり、この番組の主題は「この被告人をあなたならどう裁くか?」にある。視聴者自身が裁判員となり、観終わったあと、親子で話し合い、考えることが重要なのだ。

最終章にして、神回「桃太郎」裁判

そんな『昔話法廷』の最終章として、3月29日に放送されたのが「桃太郎」裁判だった。最終章ということで、尺は通常の約2倍、33分。脚本は、『jin-仁-』『おんな城主直虎』『天国と地獄〜サイコな2人〜』の森下佳子
キャストは、検察官に天海祐希、弁護士に佐藤浩市、桃太郎に仲野太賀、殺された鬼の妻に仲里依紗、桃太郎のおばあさんを白石加代子と超実力派が勢ぞろい。たった30分の番組のためにこのスタッフ&キャスト勢。これはもう単なる子ども向けEテレ番組とは思えない豪華さである。

映画化してほしいEテレ番組!昔話法廷「桃太郎」裁判

そして、被告人は昔話の代名詞と言っても過言ではないこの男、桃太郎。ついに彼が鬼殺しの罪で、天海祐希演じる検察官に死刑を求刑されるのである。迎え撃つは弁護士・佐藤浩市。最高のキャスティングである。というか、検察官役の天海祐希に対抗できる役者が佐藤浩市くらいしか思い浮かばない。怪獣対怪獣。超注目の一戦が今始まる。

桃太郎はなぜ罪に問われたのか

そういえば、子供の頃に読んだ桃太郎は「悪い鬼どもを退治しに行ってきます!」と高らかに宣言し、犬、猿、雉という鬼相手の戦力としてはいささか心もとない仲間を、団子一つで勧誘し、鬼ヶ島に乗り込み、鬼を退治(殺傷、もしくは半殺し)し、財産を奪って悠々と帰還していた。

鬼=悪い奴らという大前提だったが、鬼が何をしたのか、なぜ人里すぐ近くではなく、わざわざ岩だらけの島に住んでいたのか。そこは全く説明がなかった。
子供心にそういうものだと思っていた。今回の『昔話法廷』では、絵本では描かれなかったその空白部分が、これでもかと肉付けされている。

なぜ鬼は、鬼ヶ島に住んでいたのか

島にコミュニティを築いているだけに、鬼たちにも家族と生活があったはずだ。では、なぜ鬼は人里から離れ、辺鄙な岩だらけの島で生活していたのか。そして、なぜ鬼は犯罪行為を生業としていたのか。この『昔話法廷』では、その物語の欠落部分に、「人から鬼への差別があった」という目から鱗の衝撃的新解釈が導入された。

肌の色の違いと見た目で、人間から差別された鬼たちは、島へ追いやられた。しかし、岩だらけの痩せた土地では生活できず、しばしば犯罪行為をして糊口をしのいでいたというのである。そもそも人が鬼を差別しなければ、鬼も略奪行為をすることなく、平和に暮らせたのだ。

だが、そんな時ネット上に鬼からの犯行予告が流れる。「追われた土地を取り返すため、人間に対して無差別攻撃をしかける」というのだ。育ててもらった恩義を返す。命の使いどころは今この時だと決心した桃太郎は、鬼ヶ島に乗り込み、刀で1人を惨殺、30人以上に重症を負わせた。


映画化してほしいEテレ番組!昔話法廷「桃太郎」裁判

超斬新! ただ、正直この時点では、やや飛躍が過ぎるのではないのかと思った。

仲野太賀の桃太郎が凄い

しかし、凄いのはむしろココからだった。番組の折り返し地点、検察側の反対尋問から、桃太郎の出自と、彼が島を襲撃するに至った動機、そのきっかけになった一つの証拠をめぐって、物語は怒涛の急展開を見せる。そして、仲野太賀演じる被告人桃太郎が衝撃的新事実を吐露する。この時の仲野太賀の桃太郎が本当に素晴らしい。本当にコレはEテレの30分番組なのかと、目を疑いたくなるような迫真の演技。まるで一本の映画を観ているかのようであった。

映画化と、再放送を熱烈希望

近年、世界的にレイシズムが公然かつ、声高に叫ばれるようになった。差別は今までも存在していたが、ここまであからさまにではなかったように思う。この「桃太郎」裁判は今まさに全国民、全世界の人間に観てほしい作品である。

差別というものがいかに根拠がなく愚かなものか、差別はする方、される方、両者共に不幸のどん底に陥る凄まじく愚かな行為であり、その先に幸福が待っていることは決してないという、超ストレートかつ重厚なメッセージをガツンガツンと脳天に打ちこんでくる。教育番組なので、いっそ全国の小中学校、高校の全校集会で一斉上映してほしい。

ネタバレになるので、ここから先は番組を観てほしいと言いたいところだが、残念ながら「桃太郎」裁判はまだNHK for School にUPされていないので再放送を願うばかりである。

https://www.nhk.or.jp/school/sougou/houtei/origin/pr_momotaro.html
https://www.facebook.com/watch/?v=146075004092206

しかし、私は思う。このキャスト陣の熱演。30分じゃもったいない! 映画に! 尺増やして映画にしてくれ! レビュー書くから!

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Writer

ウラケン・ボルボックス


東京から福岡に移住した映画好きのイラストレーター。主な著書『なんてこった!ざんねんなオリンピック物語』JTBパブリッシング、『侵略!外来いきもの図鑑もてあそばれた者たちの逆襲』PARCO出版。

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