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『プロミス・シンデレラ』芸達者な二階堂ふみに“人生どん底のおばさん”役は小さすぎる気も 第1話
イラスト/ゆいざえもん

キュンはあるのか?『プロミス・シンデレラ』第1話

17歳のときどん底だった桂木早梅(二階堂ふみ)はある少年に差し出された靴を履かず、自力で幸せになった……はずだった。『プロミス・シンデレラ』(TBS系 火曜よる10時〜)第1話は、あれから10年、再び、どん底の人生が幕を開ける。夫・今井正弘(井之脇 海)に浮気され家を出て、無一文のホームレスになっていたところ、出会った10歳年下の高校生・片岡壱成(眞栄田郷敦)に振り回されて……。


『プロミス・シンデレラ』芸達者な二階堂ふみに“人生どん底のおばさん”役は小さすぎる気も 第1話
(C)TBS

壱成の兄・成吾(岩田剛典)こそその昔、早梅に靴を差し出した人物で、紳士的で優秀な兄と意地悪な弟の間で早梅はどうなるのか。ヒロインがふたりのタイプの違う男性にはさまれる構造は火10の恋愛ドラマの鉄板である。

アラサー、バツイチ、無一文、無職で宿無し。人生詰んでるとしか言えない状況の早梅。壱成と彼とつるんでいる高校生たちには「おばさん」と見下される。そんな“おばさん”がお金持ちで年下のイケメンといい感じになるかもなところがこのドラマの肝なのだろうけれど、「おばさん」連呼や、壱成の早梅に対する意地悪の悪質さ、それに負けない早梅の暴力性などが一応コミカルテイストになっているとはいえ、冷静に考えるとかなりギスギスささくれだった印象で。爽快や痛快な感じではない。

『プロミス・シンデレラ』芸達者な二階堂ふみに“人生どん底のおばさん”役は小さすぎる気も 第1話
(C)TBS

原作は週刊少年サンデーから派生したウェブコミック「裏サンデー」で連載中の漫画。少女漫画、少年漫画とカテゴライズはしづらい媒体だが、大まかにいえば大人女子用の漫画だろう。ただ、脚本家が男性ということもあって、これまでの火10で好評だった『恋はつづくよどこまでも』『この恋あたためますか』『着飾る恋には理由があって』のような女性のドリームに徹底的にあふれたキュンものを期待するとちょっとはぐらされそうな予感。原作にはツンデレキュンシーンもあるのだが。

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『プロミス・シンデレラ』芸達者な二階堂ふみに“人生どん底のおばさん”役は小さすぎる気も 第1話
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男性脚本家でキュンサービスもありつつ、かわいらしい感じで、恋愛の生々しい感覚は薄めだった『オー!マイ・ボス!恋は別冊で』や、男性脚本家ながら、レジェンドになった『花より男子』寄りの、すこしカラッとした感じになるのかなあと予想する。
男性脚本家だからといって先入観で見てはいけないけれど。

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テレビドラマにおける二階堂ふみ

第1話で気になったのは、二階堂ふみが「おばさん」と連呼されること。1994年生まれの26歳で、役は27歳の設定である。それでもう「おばさん」? アラサーだからアラサー前半でも「おばさん」なのか。

そして「おばさん」をあえて堂々と声に出すことで、「おばさん」でも若者に負けず、若者と恋もするのだというポジティブシンキング? いやでも「おばさん」と呼ばれる女性が若い男性と互角に暴力で張り合った末、ツンデレ的な恋に落ちるかも?という展開はむしろエイジハラスメントとは言えないだろうか。

二階堂ふみがこういう人生どん底のおばさんを名演します的な感じは、ご本人をはじめとして誰も得しないのではないか。余計なお世話だが、そう感じている。26歳の二階堂ふみが「おばさん」を演じても、こんなふうにパワフルで魅力的な「おばさん」だったらいいなあとは思うものの、そうはなれないリアル「おばさん」の立つ瀬がない。ゆえに切なさは募るばかり。30代は「おばあさん」、40代は……どうしたらいいのか。魔女? 50代は仙人? 

10年前の2011年、園子温監督の『ヒミズ』で世界的な映画賞であるヴェネツィア国際映画祭 マルチェロ・マストロヤンニ賞(新人俳優賞)を染谷将太と共に受賞した二階堂ふみ。映画の仕事に軸足を置いている印象があったが、テレビドラマにもよく出ている。そしてテレビドラマの彼女はなぜか「無駄遣い」されている印象を受けるのだ。


『プロミス・シンデレラ』芸達者な二階堂ふみに“人生どん底のおばさん”役は小さすぎる気も 第1話
(C)TBS


近いところで、朝ドラ『エール』(2020年度前期)。昭和のヒットメーカー・古関裕而をモデルにした主人公・古山裕一(窪田正孝)の妻役をオーディションに応募してまで獲得した二階堂。最初はあえて騒がしくコミカルに演じていたが、やがて結婚するとすっかり大人しくなり、天才作曲家の夫に尽くして自身の声楽家の夢を諦める、わきまえある人物を演じた。

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その演技は全く申し分ない。コミカルなところもシリアスなところも求められていることの表現がじつに適切だった。でも主人公が男性だったとはいえ、夢を諦めた専業主婦の役ってなんだか時代にそぐわない感じがしたものだ。

『プロミス・シンデレラ』芸達者な二階堂ふみに“人生どん底のおばさん”役は小さすぎる気も 第1話
(C)TBS

二階堂ふみにはもっとはつらつとしてほしいと筆者は思ってしまうのだが、なぜか彼女はさかのぼって見てもおとなしい役が多い。例えば『そして、誰もいなくなった』(16年 / 日テレ)は藤原竜也演じる主人公の婚約者役。ドンデン返しがあるかと思ったら何もなく最後まで従順な恋人だった。

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『フランケンシュタインの恋』(17年 / 日テレ)では、綾野剛演じる人間とは違う生き物と心を通わせる、勉強家だが体の弱いヒロインで、お嬢様ふうの衣裳を着てピュアさを振りまいていた。

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『プロミス・シンデレラ』芸達者な二階堂ふみに“人生どん底のおばさん”役は小さすぎる気も 第1話
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なぜか、二階堂ふみは主人公の男性を立てる役が多い。大河ドラマ『西郷どん』(18年 / NHK)の西郷隆盛(鈴木亮平)が島に流刑されたときの妻は島のロケーションと相まってスケールが大きくのびのび演じていたように感じるが、役割としては本土の本妻に対して日陰の存在でいる役。


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抑圧された役ばかり演じずに、もっと主体となって生き生き活躍するドラマがあっていいのに……と長らく思っていたところ、ようやく『プロミス・シンデレラ』である。どん底の人生、「おばさん」ではあるが、それに負けずに立ち向かっていく。第1話では、壱成に食べさせてもらったカレーをめぐる攻防戦で、華麗なアクションのあとで掛け軸にカレーをぶっかけるまで鮮やかであった。

『プロミス・シンデレラ』芸達者な二階堂ふみに“人生どん底のおばさん”役は小さすぎる気も 第1話
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どん底の状況でも惨めに見えない強さや明るさも彼女だからいいのであろう。それでもまだやっぱり役が二階堂ふみのサイズにしては小さすぎるように思えてならない。あり余る元気な役とスケールが大きい役とではちょっと違う。もっと彼女が圧倒的な力を発揮する場があるのではないか。

いいなあと思ったのは、舞台が老舗の大旅館。コロナ禍のドラマでは海や屋上など、風通しがよく風景が癒やされるロケ地が増えている。旅館も広いし、庭の緑や池が瑞々しい。早梅はここで働くことになる。働く人、宿泊客が交錯し、人間ドラマがビビッドに立ち上る旅館ものもドラマのジャンルとしては人気の部類である。

(木俣冬)

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番組情報

TBS
火曜ドラマ『プロミス・シンデレラ』
毎週火曜よる10時〜

出演:二階堂ふみ
眞栄田郷敦 松井玲奈 井之脇 海 松村沙友理 堺 小春 
高橋克実
友近 森カンナ 金子ノブアキ
三田佳子(特別出演)
岩田剛典

原作:橘オレコ「プロミス・シンデレラ」(小学館「マンガワン」連載中)
脚本:古家和尚
音楽:やまだ豊
主題歌:LiSA「HADASHi NO STEP」(SACRA MUSIC / Sony Music Labels Inc.)
演出:村上正典(共同テレビ) 都築淳一(共同テレビ) 北坊信一(共同テレビ)
プロデューサー:橋本芙美(共同テレビ) 久松大地(共同テレビ)

制作著作:共同テレビ TBS

番組サイト:https://www.tbs.co.jp/promise_cinderella_tbs/


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami
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