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カンヌに愛された細田守監督 熱狂的な歓迎をもって受け入れられた『竜とそばかすの姫』について現地で訊く

(C)Yukinobu Shuzui

劇場内に再び明かりが灯されると、人々が方々から立ち上がり、拍手の渦は劇場中央に座った細田守監督を激しく包み込んだ。

今年7月15日、第74回カンヌ国際映画祭「カンヌ・プルミエール部門」にて『竜とそばかすの姫』が公式上映された。2018年に行われた同映画祭「監督週間」へのノミネートから3年ぶりの舞台。2020年は新型コロナウイルスの感染拡大により、カンヌ国際映画祭はいつも通り開くことができなかったため、実質2シーズンぶりの開催である。

アニメ映画がカンヌに選ばれることは珍しい。フランスには、毎年6月にアルプスの保養地アヌシーで開かれる世界トップのアニメ映画祭「アヌシー国際アニメーション映画祭」があり、「アニメはアヌシー」が暗黙の了解のようになっている。そのなかで細田監督はカンヌに好かれた。

カンヌに愛された細田守監督 熱狂的な歓迎をもって受け入れられた『竜とそばかすの姫』について現地で訊く
(C)Yukinobu Shuzui

2018年は細田監督の『未来のミライ』が唯一のアニメ作品として映画祭「監督週間」に出品。今年はコンペティション外部門に『Where is Anne Frank?』、監督週間に『不安な体』といったアニメ作品はあったものの、それでもアニメ作品は珍しくカンヌ・プルミエール部門では、『竜とそばかすの姫』が唯一のアニメである。

カンヌ国際映画祭にて『竜とそばかすの姫』の公式上映が行われる前日、カンヌ市内の海岸に沿って走るクロワゼット通りに面した高級ホテル、JWマリオット・カンヌの一室で、個別インタビューに応じてくれた細田監督はこう答えた。

「アヌシーはアニメーションというジャンルのなかでの映画祭。それに対してカンヌは、アニメという枠を取っ払い、作品としてその価値を問う。カンヌに僕らの作品を作家主義として捉えてもらったのだと思います」(細田監督)

カンヌに愛された細田守監督 熱狂的な歓迎をもって受け入れられた『竜とそばかすの姫』について現地で訊く
(C)2021 スタジオ地図

アニメ映画に対して、まだまだ偏見はある。日本のポップカルチャーへの理解度が高いフランスにおいても、全てのフランス人が色眼鏡なしでアニメ作品を評価してくれることはない。

「カンヌで日本のアニメを上映することに抵抗ある人もいるでしょう。そういう価値観のせめぎあいの中で、結果的にバイアスを打ち破って上映することになったというのは、アニメに対する理解が進んだ証なのかなと思います」(同)

社交辞令ではない心からの拍手が会場を包む


カンヌに愛された細田守監督 熱狂的な歓迎をもって受け入れられた『竜とそばかすの姫』について現地で訊く
(C)2021 スタジオ地図

公式上映当日、太陽がジリジリと照りつける暑い日だった。上映は20時から。緯度が高いヨーロッパでは、この時間帯でも陽は高い。観客は、体中から汗を玉のように吹き出しながら、カンヌ国際映画祭の会場として使われている複合見本市会場パレ・デ・フェスティバル・エ・デ・コングレのドビュッシーホールの前に並んだ。同ホールは会場内でも2番目に大きな劇場である。

上映時間が来た。約1000人の観客で満たされた場内に、レッドカーペットを歩いて館内へと入ってきたタキシード姿の細田監督が姿を現す。大きな拍手が細田監督を迎え入れた。

カンヌに愛された細田守監督 熱狂的な歓迎をもって受け入れられた『竜とそばかすの姫』について現地で訊く
(C)2021 スタジオ地図

2時間後、エンドロールが流れ始めると入場時以上の拍手が起きた。劇場内が明るくなった。そこでさらに拍手が地鳴りのように湧き上がると、それは14分間にわたってスタンディングオベーションと共に、細田監督を包んだ。

「本当にびっくりしました。あんなに長い時間のスタンディングオベーションをいただくということは今までありませんでした。皆さん手が痛くなるんじゃないかなというくらい、作品を気に入ってくれたことがガツンと伝わってきました。本当に感謝の気持ちでいっぱいです」(同)

喝采を浴びた『竜とそばかすの姫』だが、じつはとてもギリギリのスケジュールでカンヌへの出品が決まった。コロナ禍の影響もあり完成が遅れ、今年7月5日が初号試写だったのだ。そこから10日後にはカンヌでの公式上映。駆け足だった。

カンヌに愛された細田守監督 熱狂的な歓迎をもって受け入れられた『竜とそばかすの姫』について現地で訊く
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「映画祭の公式出品作はすでに発表されていたのですが、カンヌは作品が出来上がるのを待ってくれた。そしてカンヌ・プルミエール部門で上映するという連絡をいただき、日本公開の前日である7月15日に、カンヌでプレミア上映されることになりました」(同)

夏のフランスと日本の時差7時間を考えると、カンヌでのプレミア上映から半日も経たずに日本で封切られるスケジュールだ。「プロモーションのために狙ったわけではなく、本当にたまたまだったんです」と細田監督は笑った。

古典を現代に当てはめることで見えてくるもの


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『竜とそばかすの姫』は、フランスでのタイトルが『BELLE』となっているように『美女と野獣(フランス語原題:La Belle et la Bete)』をモデルにしている(「Bete」の1つ目の「e」は「e」にアクサン・シルコンフレックス)。『美女と野獣』とは、田舎町に住む美しくて優しい娘のベルが、ある日、いつまでも家に戻ってこない父親を心配して夜遅くに独りで森へ出かけたところ、辿り着いたお城には恐ろしい野獣が住んでいたというあらすじである。

「『美女と野獣』は18世紀のフランスで書かれた物語です。今回はインターネットの世界の中で、その『美女と野獣』をモチーフにした世界を繰り広げます。同じ物語が約300年後の現代に蘇った時に、どのエッセンスが残って、どの部分が違う形になっているかということを、フランスの人々にも観てもらいたいです」(同)

細田監督にとって、インターネットを舞台にした世界を描くことは、定期的に取り組んできたテーマでもある。約20年前に公開された『デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム』(2000)、約10年前に出した『サマーウォーズ』(2009)、そして今回の『竜とそばかすの姫』である。

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20年前と今ではインターネット環境がずいぶん変わった。ネットの世界と現実が限りなく近づき、そのなかで私たちの生活や世界の見方は変わってきている。コロナ禍により、コミュニケーションの取り方がより変化している最中でもある。

「『美女と野獣』に出てくる野獣というのは、二面性あるキャラクターです。そしてインターネットにも二面性があります。例えば、インスタで作り上げている自分と現実の自分が、とても異なっている人もいるかもしれない。だから『美女と野獣』の物語をネットの世界に当てはめるのは、相性が良いのではないかと考えました。今日性のあるテーマのなかで、非常に古典的な『美女と野獣』をやることの面白さがあります」(同)

カンヌに愛された細田守監督 熱狂的な歓迎をもって受け入れられた『竜とそばかすの姫』について現地で訊く
(C)2021 スタジオ地図

スクリーン・インターナショナル誌は、公式上映後のレビューで「細田監督は『美女と野獣』をリメイクしたいだけのように当初は思えるが、がっかりさせない驚きが隠されている」と評した。その『竜とそばかすの姫』において「野獣」の役割を担っているのが、佐藤健が声優を務めた「竜」だ。

「全く立場の違う二人が出会うという物語は、時代によってさまざまです。『マイフェアレディ』や『オペラ座の怪人』、『101回目のプロポーズ』もそうですね。だから『美女と野獣』といっても、必ずしも野獣をそのまま野獣でデザインする必要はないと思いました。その結果が竜でした」(同)

しかし、これにはちょっとした裏話もある。

「じつはもう一つ理由もあって……竜をデザインした秋屋蜻一さんがね、こっちが野獣って言っているのに竜を描いてきたんですよ(笑)。そのデザインが素晴らしくて、最終的にデザインもタイトルも秋屋さんの竜に引っ張られました」(同)

嘘のような現実のなかで『竜とそばかすの姫』の歌声が響く


カンヌに愛された細田守監督 熱狂的な歓迎をもって受け入れられた『竜とそばかすの姫』について現地で訊く
(C)Yukinobu Shuzui

カンヌでの公式上映の後、翌日から日本で公開された『竜とそばかすの姫』は、好調を続けている。この記事を書いている8月2日時点では、全国映画動員ラインキング(興行通信社調べ)で3週連続の首位を獲得。累計動員236万人、興収33億円を突破した。

一方で、コロナ禍と緊急事態宣言による影響は依然大きい。今日本では、映画館は感染対策のため平常時の50%の座席数でしか公開ができない地域もあり、時短営業も各地で行われている。世界的にも映画は大きな打撃を受けており、特に昨年は映画館が開けられない状況が長い間が続いたり、映画祭はどこも中止や延期に追い込まれた。そのなかでの今年のカンヌ国際映画祭の開幕だった。

公式上映の前日、細田監督はこう答えた。

「コロナ禍によって、映画は危機に晒されています。ただ、そういうものに負けないで、人間にとって映画というのは、とても大事なものなんだということをアピールする必要があります。今回のカンヌ国際映画祭は、完全ではないですが、昨年の中止から復活したことに意味がある。『映画文化の火は途絶えないのだ』という場所に来ることができて、自分たちが作った映画を見せることができた。『映画は死んでない。みんなと共にやるんだ!』ということをアピールしたい」(同)

映画界への逆風はまだ続くだろう。その空想のようだが現実であるコロナ禍の世界で、『竜とそばかすの姫』はカンヌで受けた賞賛と日本での好調な興行成績を後ろ盾にしながら、少しでも遠くまでその歌声を響かせようとしている。
(守隨亨延)

作品概要

全国東宝系にて大ヒット公開中
『竜とそばかすの姫』

監督・原作・脚本:細田守

キャスト:中村佳穂
成田凌 染谷翔太 玉城ティナ 幾田りら
森山良子 清水ミチコ 坂本冬美 岩崎良美 中尾幸世
森川智之 宮野真守 島本須美
役所広司 / 石黒賢 ermhoi HANA
佐藤健

企画・制作:スタジオ地図
製作幹事:スタジオ地図有限責任事業組合(LLP) 日本テレビ放送網 共同幹事

(C)2021 スタジオ地図

公式サイト:https://ryu-to-sobakasu-no-hime.jp/

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Writer

守隨亨延


ジャーナリスト。愛知県出身、パリ在住。東京で雑誌記者、渡仏後はANNパリ支局勤務などを経て、現在は『地球の歩き方』フランス・パリ特派員。フランス外務省外国人記者証所持。主な取材分野は日仏比較文化と社会、観光。取材等での渡航国数は約60カ国。

関連サイト
@arukikataparis

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