柳楽優弥・有村架純・三浦春馬『映画 太陽の子』時代に翻弄されながらも懸命に生きた若者の煌めきが全て
(C)2021 ELEVEN ARTS STUDIOS / 「太陽の子」フィルムパートナーズ

広島平和記念日に公開『映画 太陽の子』

太平洋戦争時、京都帝国大学物理学部研究室で原子の力を利用した新 型爆弾原爆の研究をしていた若き科学者とその家族や親しい人たちの青春グラフィティ『映画 太陽の子』。2020年8月15日にNHK総合で特集ドラマとして放送されたパイロット版とも呼べる映像に、異なる視点と結末を加えて完結。76年前、広島に原爆が落ちた日である8月6日に公開された。
完結した映画はドラマ以上に見応えがあった。

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映画公開にあたり筆者は黒崎博監督に『キネマ旬報』8月下旬号で取材する機会に恵まれた。そのとき知ったことは、もともと120分の映画が先に出来ていて、あとからドラマを作ったことだった。これはもうオリジンである映画を観るべきだろう。

柳楽優弥・有村架純・三浦春馬『映画 太陽の子』時代に翻弄されながらも懸命に生きた若者の煌めきが全て
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戦時中、京都で母・フミ(田中裕子)と暮らしている若き科学者・石村修(柳楽優弥)の家に、建物疎開で家を失った幼なじみの朝倉世津(有村架純)が祖父・清三(山本晋也)と共に身を寄せる。さらに修の弟で出兵していた裕之(三浦春馬)が一時帰宅してきた。ありあわせの食材で混ぜ寿司を作って裕之を喜ばせるフミ。修、世津、裕之は久しぶりに一緒の時間を過ごす。

ひとときの幸福な生活と平行して修は京都帝国大学で原子核爆弾の研究に勤しんでいる。長引く戦争を終結するためにも原爆の開発が秘密裏に急がれていた。

柳楽優弥・有村架純・三浦春馬『映画 太陽の子』時代に翻弄されながらも懸命に生きた若者の煌めきが全て
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ドラマと映画では視点が異なる

1939年、アインシュタインが未知なるエネルギーを発見すると、世界中の科学者が研究をはじめる。日本でも京都と東京の2箇所で研究が進められていた。

京都でそのプロジェクトに関わっている修は濃縮ウランを作るための硝酸ウランを求め、陶器屋の主人・澤村(イッセー尾形)から釉薬を分けてもらう。
陶器に色をつける釉薬の黄色には硝酸ウランが使われているのだ。

柳楽優弥・有村架純・三浦春馬『映画 太陽の子』時代に翻弄されながらも懸命に生きた若者の煌めきが全て
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戦争によって陶器づくりの仕事は骨壷をつくる仕事ばかりになって、それには色は必要ない。戦争は色のない世界、一方、日常生活は鮮やかな色に包まれている。ところが修が実験に夢中になったのは実験で見た緑色の美しさに魅了されてのことだった。見たことのない美しい色に惹かれて作る原爆が世界の色を奪ってしまう不合理がやがて修の前に立ちはだかる。

人間は今ある自分を越えようとする。それが生きる証しだったりするわけだが、修が原爆の研究をするように、未知なるものを獲得するとき、引き換えに失うものもある。この矛盾は常につきまとうのか。その難問に真摯に向き合う姿勢はドラマも映画も変わらない。

柳楽優弥・有村架純・三浦春馬『映画 太陽の子』時代に翻弄されながらも懸命に生きた若者の煌めきが全て
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ただ、ドラマと映画は視点が違っている。ドラマは世津の視点で進行し、生活者の視点を重視している。冒頭は軍の紡績工場で世津がはちまきした少女たちと共に石炭をくべている場面である。
そして都度都度、世津のナレーションが入り、戦争で不自由を感じながら粛々と生活をしている女性のたくましさが強調されていた。

映画は、修が陶器屋を訊ねるところからはじまり、そこから原爆の研究が一本軸になっているように見える。そのため、日常生活のかけがえのなさを綴るのと同時に、修たち研究者の行いに対しても白黒つけるのではなく、ひたむきな行為として映る。世津がドラマでナレーションする「私たちはただただ今を一生懸命生きていました」ということと同等のように感じるのである。

ドラマには時空を超えて原爆ドームの中から空を仰ぐ修の姿や、今現在の広島の街の映像が挿入されているが、映画にはそれはなく、太平洋戦争時だけが描かれている。そのことからも時間が経過してからの価値観ではなく、その当時のことだけに視線が注がれているように感じる。

柳楽優弥・有村架純・三浦春馬『映画 太陽の子』時代に翻弄されながらも懸命に生きた若者の煌めきが全て
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緑の光に匹敵する美しい光を放つ3人の若者たち

修は自分の実験欲のために夢中で原子爆弾の研究を続ける。もちろん悩みもあり、途中、研究チームの仲違いもあり、研究をやめてお国のために兵役につこうとする者もある。この研究を率いている日本の原子物理学の第一人者・荒勝(國村隼)の思惑も……。

それでも何があっても研究に邁進していく修。研究に魅入られていくにつれ、徐々に顔つきが変わっていく様を柳楽優弥が迫真で演じている。それはまるで彼が夢に見る龍のような形相にも見える。

一方、修の弟・裕之はお国のためと戦いに身を投じる。
彼にも迷いはある。兄と世津と3人で海に遊びに行き、楽しんだあとに裕之から溢れ出す本音。世津は修と裕之を大きな懐で包み込む。いろんな想いを飲み込んで忍耐するような三浦春馬の笑顔が切ない。

柳楽優弥・有村架純・三浦春馬『映画 太陽の子』時代に翻弄されながらも懸命に生きた若者の煌めきが全て
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彼の演技はもはやバイアスをかけずに見ることができないのだが、その笑顔は常に全身全霊で、ぎゅっと命を絞り出すような、一滴しか抽出できない貴重な栄養素みたいだ。言ってみれば、修が研究しているちょっとしか採れない濃縮ウランのようなものだろうか。少ないけれど威力が絶大で、究極に美しい。そういうものを修は求め、世津は憧れ、裕之はそれを携え空へ翔ぶ。

黒崎監督があるとき読んだ実在する研究者の日記の断片から構想を得て、10年以上もの間、関係者への取材や膨大な資料を読み解きながら作りあげた作品だけに歴史的に重要な事実や示唆がこもっている。その歴史的視点も大事ながら、それよりもなによりもこの映画には瞬間瞬間の人々の行動の煌めきがある。

その煌めきの最たるものが海の場面であり、ドラマと映画の違いの最たるものもまた海の場面である。映画には海の場面がドラマ以上に印象的に使用されている。
それがこの映画の青春群像の面に光を強く当てているように見える。『キネマ旬報』で監督に聞いたら、そこにはやはり想いがこもっているようだった。

柳楽優弥・有村架純・三浦春馬『映画 太陽の子』時代に翻弄されながらも懸命に生きた若者の煌めきが全て
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修と裕之の生家にかかった3匹のうさぎの描かれた紅い暖簾。3匹のうさぎは原子のようでもあり、3人の仲睦まじい姿のようでもあり。3人こそが緑の光に匹敵する美しい光を放っているのである。
(木俣冬)


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作品情報

『映画 太陽の子』
絶賛上映中

柳楽優弥・有村架純・三浦春馬『映画 太陽の子』時代に翻弄されながらも懸命に生きた若者の煌めきが全て

出演:柳楽優弥 有村架純 三浦春馬
イッセー尾形 山本晋也 ピーター・ストーメア
三浦誠己 宇野祥平 尾上寛之
渡辺大知 葉山奨之 奥野瑛太 土居志央梨
國村隼 田中裕子

監督・脚本:黒崎博
音楽:ニコ・ミューリー

制作:KOMODO PRODUCTIONS
配給:イオンエンターテイメント
製作:「太陽の子」フィルムパートナーズ
Presented by ELEVEN ARTS STUDIOS / NHK

公式サイト:https://taiyounoko-movie.jp/
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Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami
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