※本文にはネタバレがあります

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『ナイト・ドクター』第9話 「ドナー問題」を題材に価値観の違い描いた試みに3つの疑問
イラスト/AYAMI

賛否両論『ナイト・ドクター』第9話

夜間専門の緊急救命(ナイト・ドクター)に勤しむ若者たちの群像劇『ナイト・ドクター』(フジテレビ系 月曜よる9時〜)第9話は価値観の相違を「ドナー問題」という極めてシリアスな題材を通して描こうと試みる。

【前話レビュー】『ナイト・ドクター』働き方も多様化されていい。本郷が成瀬に刺激を与え、桜庭がいいこと言う

「ドナー」について5人のナイト・ドクターたちの意見が分かれることになるのだが、この回では疑問点が3点あった。
順を追って見ていこう。

深澤新(岸優太)の妹・心美(原菜乃華)の容態が悪化し、深澤はしばらく休職し心美の看病をすることにした。お見舞いに向かった朝倉(波瑠)、桜庭(北村匠海)、高岡(岡崎紗絵)、成瀬(田中圭)だったが、ドナーになりたいと言い出した心美に深澤が猛反対し、揉めているところに遭遇する。

「(前略)おまえの代わりに他の誰かが生きるために、なんでそんなことする必要があるんだよ(後略」と声を荒げる深澤。自身がドナーのレシピエントである桜庭と亡くなった母がドナーだった朝岡の表情は曇る。誰がドナーかは秘密にしないといけない。成瀬だけは桜庭が移植手術を受けていることを知っているが、高岡は知らないからドナーに否定的である。深澤と高岡の反応と、朝倉が彼女の母が桜庭のドナーだったと知ったらどう思うのか気になってしまう桜庭。

ある夜、格闘技の試合があり、大怪我した格闘家たちがたくさん運ばれてくる。イベントは「筋肉祭り」、病院も「筋肉祭り」。体格のいい人たちが続々やって来るが、ちょうど深澤が休職中で男手が足りず、細腕(もやし)の朝倉と高岡に負荷がかかる。ここで成瀬の「筋トレ」が生きてくるとは……。


朝岡と高岡が一瞬、休憩しているところに深澤がやって来て、心美を説得してほしいと朝倉に頼むが、彼女は母親がドナーになっていると明かし、深澤のみならず高岡まではっとなる。次に桜庭が現れ、ドナー問題をめぐって大喧嘩になる。ドナーにお世話になった桜庭としてはドナーを頭ごなしに否定されることが耐え難いのだ。

ここで疑問その1である。ドナーに関する賛否両論をナイト・ドクター5人に容易に代弁させていいものだろうか。一般的な感情が先立つ世論と医者としての学術的な面を踏まえた考えは違うのではないだろうか。にもかかわらずドラマでは医者たちが実に素朴な感情論で語り合い喧嘩までする。

深澤は身内の看病のために休職し、その間、桜庭がフォローしていることを聞かされてはっとなる。そこは実に人間味がある。そこで一般人も医者も別け隔てない。同じ感情をもった人間であるという前提のうえ、患者の側に立って考えることの大事さを説いているのだと考えることも可能ではある。

「告白する。
俺はレシピエントなんだ」と桜庭は深澤と高岡を驚かせる。そして深澤は心美の心の内に秘めたドナーになることでこんな(病弱な)自分でも堂々と生きていきたいーーという気持ちを知った。

じつはブラックなドラマ?

そんな矢先、手術が難しい患者が運び込まれたものの、輸血用の血液が足りない。注文したものが届くのは2時間後。間に合わないので誰かが取りにいかないとならない。白羽の矢を立てられた看護師の舞子(野呂佳代)は手術の受け入れがあるからと拒否する。



タイミングよく深澤が復帰し、お使いにいくことに。めでたしめでたし。ここで疑問その2。舞子の「私? 私はでもオペの準備が」と逃げるようにその場を去る、その態度はいかがなものか。本当にオペの準備があるとしても、言い方ってものがある。看護師のこのような言動で重大事がたらい回しにされることがあるかと思ったら病院が信用できなくなる。

医療従事者とはいえ人間だから、合コンするのもいいし、格闘家狙いでメイクを念入りにするのもいい。
ただ、極めて責任の重い仕事を選んだ以上、プライベートのライト感覚と勤務態度は切り分けてほしく、軽々しくドラマの面白さとして描いていいものだろうか。とりわけ今、命の重さを誰もが等しく実感している時だからこそ、丁寧に向き合ってほしいと感じた。

舞子というキャラクターには罪はなく、深澤の復帰と活躍を描くためにそういう役割を与えられたに過ぎないわけだが、舞子というキャラクターが気の毒になった。


まとめはいつもの屋上。そこで朝岡は母親がドナーだったと明かし、その言葉に桜庭は胸がいっぱいになる。そのしんみりカットのあとが肉の塊のアップ。桜庭が良い肉を持ってきて、成瀬が焼き肉奉行になる。心臓手術の話のあとに肉の塊……。すごいセレクトである。ここで疑問その3。考えてみたら、これまで出てきたスイカ割り、流しそうめん……とどれも血の暗喩のようなモチーフだった。この上なく爽やかなようで、意外とブラックにも見えるのである。

(木俣冬)

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番組情報

フジテレビ 系
『ナイト・ドクター』
毎週月曜よる9時〜

出演:波瑠 田中圭 岸優太 岡崎紗絵 北村匠海
一ノ瀬 颯 野呂佳代 櫻井海音 梶原善 真矢ミキ 小野武彦 沢村一樹、ほか

脚本:大北はるか
音楽:得田真裕
プロデュース:野田悠介
演出:関野宗紀 澤田鎌作

制作著作:フジテレビ

番組サイト:https://www.fujitv.co.jp/NightDoctor/


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami
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