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5人それぞれの道へ『ナイト・ドクター』最終回
『ナイト・ドクター』(フジテレビ系 月曜よる9時〜)最終回。第10話の終わり、ようやく軌道に乗り始めたナイト・ドクターだが、解散が決定したと本郷(沢村一樹)の不穏な発言があった。それは後ろ向きな解散ではなく、前向きな解散。【前話レビュー】『ナイト・ドクター』これまでで最もカタルシスのあった第10話 いよいよ次回最終回!
やけに事故が多い夜。本郷は成瀬(田中圭)に病院内での指揮を任せて、ふらりとどこかにいってしまう。朝倉(波瑠)、深澤(岸優太)、高岡(岡崎紗絵)はそれぞれ事故現場に赴く。
病院に残った桜庭(北村匠海)は院内のトイレで容態が急変した患者を発見する。病院にも仕事中に突然倒れた患者が運ばれてくる。みんなこんな夜中に働いている人たちである。
ゴミ処理場の作業、列車の点検、エスカレーター整備、水道管工事……。列車の下敷きになったり、コンベアに足をはさまれたり、エスカレータから転落したり……それぞれかなりヘヴィーな状況をたったひとりで乗り切っていく。第1話の頃の彼らと比べたらずいぶんたくましくなった。
深澤は成瀬の電話アドバイスを聞きながら処置を行い、被害者の右足を切断することになる。その時の外野のうるささったらない。被害者の同僚で心配しているわけだが、現場を離れてもらうことはできないのだろうか。
彼らをきっと見る深澤。「彼に生きていてほしいと思うなら黙っていてください!」と毅然と言って、切断の処置を進めるのだった。この外野の中に見た顔がいると思ったら、前田旺志郎。彼が演じる被害者の同僚が、救急車で病院に運ばれるとき同乗し、ごみ処理場は嫌われるがいつか素敵な場所になることを夢見て働いていたことを深澤に伝える。
朝倉は列車の下敷きになった人の手を握り続ける。ここで主題歌。それはそれで素敵な話なのだが、「それだと患者さんがもたない」と患者のいる前で不安を煽る言葉を発するところはいかがなものか。脚本の問題だが。あとで「絶対に助けますからね、 頑張りましょう」と声をかけるということは重体でも耳は聞こえているかもしれないわけで、マイナスな言葉は患者の前で絶対に発してはいけないのではないだろうか。
といってここだけいきなり心の声になったらおかしいから説明しないと話が進まないのだが、ここをなんとかポジティブに言い換えることはできないものだろうか。そう思うと「絶対にもたせる」「絶対に助ける」みたいな根拠ない強気な言葉もギリギリの現場においてはひたすら前向きな言葉を発し続けるべきだと思えてくる。
どこにいたってひとりじゃない
3人は現場での処置を終えて病院に戻ると、そのまま淡々と粛々と仕事を続ける。なんとか落ち着いた時、朝倉は屋上に上がり、空を見上げて黄昏る。黄昏時はとっくに終わって、これから来るのは暁であるが。そこに5人が集まって、今回の体験によって「私たち以外にもいるんだよね、夜に働く人たちは」ということに気づいたことを語り合う。ゴミ処理場、線路、エスカレーター、水道管工事……と今回一気に登場した、 昼夜問わず働いて、でも決して目立つことのない裏方的な仕事をしている人たち。
『ナイト・ドクター』では第1話からずっとホームレスだとか生活保護だとかそういう社会の問題と医療を結びつけてきた。朝倉たちナイト・ドクターは現代日本で注視するべき問題の象徴なのである。月9ドラマがこういう人たちを主人公に据えるようになったことが隔世の感である。
バブルでお金に困ってなくて広い部屋に住んで高価な服やバッグや時計を身につけ、毎晩美味しい店に集まって飲み食いして、恋に浮かれていた主人公たちは何処へ……。そういう人たちはテレビ局のえらい人になってしまったか、もう辞めてしまったか。いまは貧しくなった日本で、未来に希望がもてず、それでも諦めることはなく堅実に生きている若者たちを主人公にドラマが作られる。
ばらばらになることは不安だったが、「べつに俺はどこにいたってひとりじゃない」と思い直す桜庭。こうして5人、一人ひとり各地で働こうと決めた時、朝焼けが彼らの体を染めていく。「この当たり前にあるはずの毎朝をきっと守ることなんだ」と朝倉がつぶやいた時、よる9時41分。これがラストシーンでもいいくらいだが、まだ10分ほどある。
『おかえりモネ』との共通点
そこから1カ月後。それぞれの地域で働き始めた5人がグループ通話している。あさひ海浜病院では本郷が医療支援ワーカーの設置や下り搬送などを取り入れていく提案をしている。下り坂搬送の担当として、この数回、やたらと熱心に患者の搬送を朝倉に依頼してきていた星崎(泉澤祐希)を雇うことになる。まさに働き方改革、若者たちの労働環境が改善されていく予感に満ちたいい感じの終わり方である。では、最後に「私たちは受け入れる」という朝倉のセリフについて考えてみたい。単純に考えたら、どんな患者も受け入れるというナイト・ドクターの矜持であろう。それのみならず、「受け入れる」に今がどんなに厳しい現実でも「受け入れる」意思を筆者は感じた。
受け入れて前向きに改善していく。
経済が貧しくなってみんなで手を取り合って改革していこうとしていた矢先、コロナ禍によって私たちは団結すら阻まれている。今はただ離れて一人ひとりが頑張るしかない。でも見上げれば同じ空、同じ月、同じ月。決してひとりではない。夜はやがて明ける。そんなふうに観ている者に語りかけているように感じるのだった。
余談だが、夜から朝にかけての仕事と最終的に日本各地にエキスパートが分かれて働くことが朝ドラ『おかえりモネ』とかぶっている。『モネ』は朝の報道番組のために夕方6時に寝て深夜2時に起きる生活を送っている主人公が、気象予報士を全国に派遣し各地の特性を生かした気象予報を行う企画をプレゼンしているところである。
これは偶然なのだろうか。
(木俣冬)
【関連レビュー】田中圭×小島聖×黒羽麻璃央『もしも命が描けたら』たった3人で大劇場の空間を見事に満たす意欲作
番組情報
フジテレビ 系『ナイト・ドクター』
毎週月曜よる9時〜
※放送終了
出演:波瑠 田中圭 岸優太 岡崎紗絵 北村匠海
一ノ瀬 颯 野呂佳代 櫻井海音 梶原善 真矢ミキ 小野武彦 沢村一樹、ほか
脚本:大北はるか
音楽:得田真裕
プロデュース:野田悠介
演出:関野宗紀 澤田鎌作
制作著作:フジテレビ
番組サイト:https://www.fujitv.co.jp/NightDoctor/
木俣冬
取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。
@kamitonami