
11月3日は嵐のデビュー記念日。この日、『ARASHI Anniversary Tour 5×20 FILM “Record of Memories”』が先行公開になる。
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カメラマンは皆、過去に嵐と仕事をした人たちばかりで、彼らをとりまとめる監督は堤幸彦。『トリック』シリーズや『SPEC』シリーズなど人気ドラマや映画を数多く撮っている。圧倒的にカッコいい画と独特のユーモアが人気の監督で、2022年1月7日公開の『truth〜姦しき弔いの果て〜』が映画監督作50作目になる。このライブ映画は49作目の作品になる。
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じつは11月3日は堤の誕生日でもある。嵐のデビューと誕生日が一緒という縁があるのか、堤は嵐のメンバーの出演している映画やテレビドラマも多く手掛けている。ドラマは相葉雅紀と松本潤が出演した『ぼくらの勇気 未満都市』(97年 日本テレビ)、『ぼくらの勇気 未満都市 2017』(17年/日本テレビ)、二宮和也が出た『ハンドク!!!』(01年/TBS)、『Stand Up!!』(03年/TBS)。
映画は、全員が主演の『ピカ☆ンチ LIFE IS HARDだけどHAPPY』(02年)、『ピカンチ LIFE IS HARDだからHAPPY』(04年)、舞台は二宮和也主演の『理由なき反抗』(05年)がある。『ピカ☆★☆ンチ LIFE IS HARD たぶんHAPPY』(15年)では監修をつとめた。堤監督が嵐を撮った名作の数々を振り返ってみよう。
「堤幸彦×嵐」作品を見ていく
■『ぼくらの勇気 未満都市』KinKi Kidsの堂本光一と堂本剛が主演のドラマで、日本テレビの土曜9時枠で主として少年少女を対象にした作品。謎の微生物が発生した地域が封鎖され、そこでは未成年だけが生き残る。大人がいない街で、子供たちだけで自治を行っていくことになり……。未成年の少年たちの物語なので、堂本光一と剛も青葉のような瑞々しさだが、相葉と松本は嵐が結成される前の出演で、さらに連ドラ初出演ということもあってかなり初々しい。
相葉が演じるアキラは最初、主人公たちと敵対するグループにいたが、途中から主人公たちと行動を共にするようになる。2017年版では一級建築士となって大人な雰囲気に。松本は犬を連れた少年モリ役。10歳の設定で、まだあどけなく身体的にも小柄。それが次第にたくましく成長していくところが見どころのひとつ。その後、実際の松本も嵐のライブの演出を手掛けるほど頼もしくなっていくと思うと感無量。2017年版ではモリはイタリアンレストランを経営し、かつての仲間たちとの再会に乗り気ではないという設定だった。
■『ハンドク!!!』
TOKIOの長瀬智也が主役の医療もの。
■『Stand Up!!』
高校2年の夏、DTを卒業しようと躍起になる男子たちを、二宮、山下智久、成宮寛貴、小栗旬が演じた。この4人、どう考えてもイケてるわけだが、彼らに堤が愛らしく笑える、イケてない感じのキャラづけをしている。
山下演じるケンケンは鉄道マニアで「拙者」と自分を呼び、成宮演じるウダヤンはバンドをやっているがなんだかファッションがださく、小栗演じるコーくんはサッカー部のキャプテンで一見カッコいいが「オラ」と自分を呼ぶ素朴なところがあり、女性にも弱い。二宮演じるショーちゃんは先生・いすず(釈由美子)に憧れている。
第6話では、なぜかショーちゃんとケンケンがひとつ布団の中に……という流れに。堤監督は山下に二宮の顎をさするように指示を出したりしたりしてあやしいムードを演出していたことが当時の番組サイトに記されている(今でもまだ見ることができる)。
終盤はメガネっ娘チエ(鈴木杏)とのピュアな心の触れ合いが描かれて、その年公開された蜷川幸雄が監督した映画『青の炎』の切ない兄妹役とはまた違う、繊細なやりとりは惹きつけられた。
二宮の屈折した魅力を生かしたクリエーターは蜷川幸雄、倉本聰、堤幸彦の3人だと筆者は思っている。堤は舞台『理由なき反抗』(05年)で二宮がかのジェームズ・ディーンが演じた屈折少年の代表格の演出も担当した。『ハンドク!!!』『Stand Up!!』『理由なき反抗』と二十歳前後の少年から大人になっていく間の二宮の魅力を撮っているといえるだろう。
その後、二宮はクリント・イーストウッド監督『硫黄島からの手紙』(06年)や山田洋次監督『母と暮せば』(15年)など落ち着いた芝居を見せて名優としての確固たる地位を築いていく。
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■『ピカ☆ンチ LIFE IS HARDだけどHAPPY』
嵐5人が主役の映画は、他に『黄色い涙』(犬童一心監督)があるが、オリジナルでシリーズ化した貴重な作品。井ノ原快彦が原作で、彼の自伝的作品。巨大な八潮団地に住んでいる5人の青春群像劇。相葉は普通棟に住むシュン、松本はリッチ棟に住むボン、二宮は貧乏棟に住むタクマ、大野は普通棟に住むハル、櫻井はヤンキーのチュウ役。
堤監督は『ピカンチ』のテーマを著書『堤っ』(KADOKAWA)の鴻上尚史との対談のなかで「青春映画ってのは、やっぱり敵に囲まれているべきだ、と」と語っている。団地のそばの運河を通る屋形船が社会のシステムの象徴で、団地に暮らす5人組のひとりは、閉鎖的な町から出るための儀式として屋形船を転覆させる作戦を考える。映画には堤のそんな狙いが密かに仕掛けられているのだ。
嵐の5人を撮影してきた堤監督は『ARASHI Anniversary Tour 5×20 FILM “Record of Memories”』であえてバックステージを見せず、ライブの魅力を隅々まで切り取った。それはまるで観客が様々な角度からステージを見て、見た人の数だけ画があることを映画にしたように見える。
近い席から見えるもの、遠い席だからこそ見えるもの、ふとした瞬間、見つけてしまった貴重な表情、動き、等々……。ライブを観た人たちの集合知のよう。だからこそ、映画だけれど今この瞬間、ライブを観ているような生の感覚がある。125台ものカメラが映し出す画を大量のモニターから見続けた監督の動体視力の良さは堤幸彦のこれまでの積み重ねでもあるだろう。
木俣冬
取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。
@kamitonami