朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第1週「1925-1939」
第2回〈11月2日(火)放送 作:藤本有紀、演出:安達もじり〉

※朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第3回のレビューを更新しましたら、Twitterでお知らせしています
ふっくら幸せな空気
幸せを感じる言葉といえば? と問いたとき「ふっくら」という言葉も脳裏に浮かぶのではないだろうか。【レビュー一覧】朝ドラ『カムカムエヴリバディ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜2回掲載中)
『カムカムエヴリバディ』第2回の冒頭は「ふっくら」という言葉が浮かんできた。小豆を煮ている丸い鍋に「EPISODE 002連続テレビ小説」とテロップが出て、寝ている橘安子(子役:網本唯舞葵)のふっくらした頬が印象的なアップ。
起きて階下に下りると再び、小豆。ぐつぐつと煮立つ音。「おいしゅうなれ。おいしゅうなれ。おいしゅうなれ」と唱えながら小豆を煮る杵太郎(大和田伸也)。ふっくらしてあたたかな甘い香りが漂ってきそうだった。これが橘家の朝の風景。今で言うモーニングルーティーン。
夜、仕事が終わると、杵太郎が買ったラジオを家族と従業員がそろって聞いて腹を抱えて笑っている。流れてくるのは人気漫才師:エンタツ・アチャコの漫才「早慶戦」。声は中川家が担当していて、「あさイチ」で博多華丸大吉が反応していた。
ラジオを聞きながらのおやつは算太(濱田岳)が作った大福。
算太「ん〜ん〜軍隊じゃねえんじゃからそねん足並みそろえんでも」
金太「なんじゃと」
算太「人間だってちょっとはみ出すぐれえが味があろうが」
金太「そ…」
菊井「名言なだけに、始末が悪いな」
こんな気の利いた会話にアチャコの「あほう! 早慶戦になんで法政が出るんや」がかぶさる。世の中の常識からはみ出たことはとがめられがち。第1話から薄々わかってはいたことで、算太は菓子職人の跡継ぎという立ち位置からはみだしている。菓子づくりには興味がなく、小豆を煮る秘訣を杵太郎が伝授している時もひとり立ったままうとうとしていた。
菓子作りよりも映画(活動写真)が好き。桃山剣之介(尾上菊之助)を観て興味を持つ。「桃から生まれた剣之介」のキャッチコピーの新人俳優に対して算太は「優男」「阪妻やアラカン(当時のスター俳優たち)にはなれん」と批評する。算太も菓子屋としては杵太郎にも金太(甲本雅裕)にもなれそうにない。剣之介をどこか自分と重ねているのではないだろうか。
一方、安子はお菓子作りに興味がある。でも厨房には入れないので庭で泥おだんごを作って遊ぶ日々。
「好きな人?」安子が首をかしげたところに、少年たちが「たちばな」の店舗に乱入してくる。雉真勇(藤原詩音)がいさましく野球のポーズをしている姿をちらと見る安子。この雉真勇はのちに村上虹郎が演じるのだが、この時の安子のちら見が意味をもつ日がくるだろうか。
おはぎのダンス
菓子作りに興味のある安子と興味のない長男・算太。ふたりが逆だったらよかったのに。安子の前でおはぎに箸を立て動かしはじめる算太。その身振り手振りは小さなエンターテイナー。おはぎが黒い靴。箸が細長い足のように見える。
算太はダンサーになりたいと言い出すが、杵太郎は「ダンサーはおなごの仕事じゃ」と猛反対する。
安子も雉真勇も子役ながら兄の算太は年が離れているとはいえ成人そのものの濱田岳が演じている意味はここにあるだろう。喜劇王チャップリンの映画にあるフォークとパンでダンスをする名パフォーマンスをこれだけ見事に再現するには濱田岳くらいの能力がないと難しい。チャップリンの動きは軽妙、でも視線は決してドヤ顔でなくやや伏し目がちで哀愁漂う雰囲気を濱田岳は見事に再現している。
これを子役に期待したら荷が重い。おはぎのダンス、そして安子に自らの身体を駆使してダンスをして見せる濱田岳の身振りと目線は軽やかで生き生きして「好き」が詰まって見えた。
上白石萌音、登場
こうしてあっけないほどすぐに算太は大阪へダンスの修業に出ることになる(朝ドラ名物展開早っ)。橘家はラジオも反対したけどすぐ買うし、子どもに甘い。菓子屋だけに?
杵太郎もラジオから流れる音楽でダンスをしてみたら腰をやられて隠居し、金太が菓子屋の後を引き継ぐ。そして、あっという間に安子14歳(上白石萌音)。朝、小豆を煮る香りで起きてきて、とろけるような笑顔で「おはようございます」。階段から廊下を駆ける白い裸足はまるで白花豆のようにふっくら柔らかそうで幸せそのもの。足の先まで幸せを感じさせる上白石萌音のパワー、すごい。
エンド5秒は『おかえりモネ』の清原果耶が登場。百音から萌音へ、ヒロインのバトンタッチとなった。第1話のBKでAKに続いてさりげなくシャレている。
(木俣冬)
番組情報
連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』
2021年11月1日(月)~<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送
制作統括:堀之内礼二郎 櫻井賢
作:藤本有紀
プロデューサー:葛西勇也 橋本果奈 齋藤明日香
演出:安達もじり 橋爪紳一朗 深川貴志 松岡一史
音楽:金子隆博
主演:上白石萌音 深津絵里 川栄李奈
語り:城田優
主題歌:AI「アルデバラン」
木俣冬
取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。
@kamitonami