9月に入っても厳しい暑さが続いている。気象庁は9月1日、今年の夏3カ月(6~8月)の全国の平均気温が平年より2.36度も高く、これまでの最高記録だった昨年、一昨年の記録を大幅に更新し、1898年の統計開始以降で最も暑い夏であることを発表した。


 これだけ暑いと、人間はもとより、様々な生き物にも深刻な影響が出ている。


 例えば、最近、熊の大量に出没して被害が連日のように報道されているが、これも猛暑による餌不足が原因の一つと考えられている。一方、海でも全国の漁場でアサリやカキなどの壊滅的な大量死が報告されており、これも水温上昇による影響が大きいとみられている。もちろんこれだけではなく、この異常気象は動植物の生理機能への直接的な影響に加え、生息地の破壊、食物連鎖の乱れ、病原体や外来種の増加などを引き起こしており、生態系の多様性の低下や種の絶滅リスクを高める恐れが懸念されている。


 その中でも、特に注目すべき生き物がミツバチだ。


 ミツバチは、花の蜜を集めるだけでなく、植物の受粉という、生態系にとって非常に重要な役割を担っている生き物だ。リンゴや玉ねぎ、アーモンドなど、世界中で栽培されている作物の多くが、ミツバチによる受粉に依存している。さらにその作物を食料とする牛や豚などにも深刻な影響が出る。高名な物理学者であるアインシュタインも「もしミツバチが地球上からいなくなったら、人類は4年しか生きられないだろう」という言葉を残したといわれているほどだ。実際に言ったかどうかは定かではいが、ミツバチが生態系の維持においていかに重要な存在であるかを物語っている。


 そして、このミツバチは、通年を通して巣箱の内部の温度を35℃に保ち続ける必要があるという。


 そのため、猛暑が続くと、ミツバチの専門家である養蜂家たちも、ミツバチの負担を少しでも減らせられるように工夫をしているそうだ。


 養蜂業大手の山田養蜂場に話を聞いてみると、気温が高すぎると、ミツバチも体力を消耗して、女王蜂が卵を産みにくくなったり、幼虫の発育が悪くなったりと人間同様に夏バテ症状になってしまうこともあるという。


 通常、ミツバチは巣箱の前で翅を震わせて、自ら扇風機になって、熱くなった巣箱の中の空気を換気するために働くという。また、巣箱内では働き蜂同士がお互いくっつかないように距離をとったり、巣の外に出たりして巣箱内の温度の上昇を避けている。しかし、それでも追いつかないほど巣箱内の温度が高いと、養蜂場近くの水場で水を頻繁に集めて、巣の内部に水をかけて翅で煽いでその気化熱で温度を下げている。そうすると、働き蜂が蜜の収集や育児などの仕事よりも巣を冷やす仕事を優先するため、生産性が低下してしまう可能性があるらしい。


 そこで同社をはじめ養蜂家たちは、ミツバチの負担を少しでも減らすため、涼しい場所に巣箱を移動させたり、直射日光が当たらないように巣箱の上に断熱材を置いたり、ひさしを設置するなどして対策しているという。


 近年、健康意識の高まりともに蜂蜜やローヤルゼリーなど、ミツバチ産品の需要が増している中、気になるのは蜜の収穫量と暑さの関係である。暑さの影響だけとは言い切れないものの、今年度、巣箱によっては、蜂蜜の収穫量が例年の1/2~2/3ほどに減少してしまった巣箱もあるという。


 ちなみに、山田養蜂場は、世界的に悪化が進んでいる自然環境を少しでも回復したいという願いから、1999年より植樹活動を国内外でつづけており、今年6月にも中国雲南省麗江市の世界遺産である玉龍雪山のふもとにて4万本の苗木を植樹する新プロジェクトを始動させている。同社のこれまでの累計植樹本数は236万本以上、累計敷地面積は東京ドーム約16個分の78万m2以上になるという。


 気象庁によると、今年は10月頃まで暑さが続くかもしれないそうだ。熱中症対策には十分に気を配りながらも、ミツバチをはじめ、多くの動植物が安心して安らかに暮らせる地球環境を取り戻せるよう、環境に優しい生活を心掛けたいものだ。

(編集担当:藤原伊織)

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