あらゆる言動が炎上することから、いまや「国民的ヒール」とも呼ばれる安田大サーカスクロちゃん。だが、ことアイドルに関しては真面目そのもので、自身が作ったグループ「豆柴の大群」のアドバイザーとしても神懸り的な采配を連発している。
そして今、「芸人」「アドバイザー」のほかに3つ目の顔がクローズアップされるようになった。「作詞家」としての一面である。

 ヒャダイン(前山田健一)や川谷絵音(ゲスの極み乙女。/indigo la End)といったミュージシャンからも絶賛される歌詞世界は、極めて独創的かつ個性的。いつもは圧倒的にアンチコメントが多いが、クロちゃんの作詞のMVには「悔しいけど、作詞の実力だけは認めざるをえない」とのコメントも。こうした作詞家としての側面に迫るべく、ENTAME nextはクロちゃんを緊急直撃。「ようやく世間も僕の才能に気づいたかと半ば呆れる気持ちです」と不遜な態度を取りながらも、作詞家としての「原点」から語り始めた。

【写真】本邦初公開、独創的な歌詞が並ぶクロちゃんの作詞ノートの中身

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「なにもいきなり作詞に取り組んだわけじゃなくて、もともと僕はポエムを書いていたんですよ。書き始めたきっかけですか? 中2の夏にかかった盲腸ですね。それまで経験したことないような猛烈な激痛が走ったから慌てて病院に行ったら、『これはすぐ手術をしなくてはいけない』ということになりまして。そのまま即入院ですよ。このとき、生まれて初めて“死”というものを意識しました」

 盲腸で死ぬなんて大袈裟では? という疑問がないわけではないが、本人の口調はいたってシリアス。
そして未体験の激痛に追い打ちをかけるように、さらなる悲劇が中2のクロちゃんを襲ったのだという。

「当時の僕はバレーボール部に入っていて、Bチーム……つまり2軍のエースだったんですよ。1軍に上がれるかどうかのまさに瀬戸際で緊急入院ということになったから、ショックは大きかった。『もう俺の人生は終わりかもしれない』と思い詰めましたね。そんな絶望の気持ちを抱えつつ、病院の窓から外をぼんやり眺めていたら、ふとポエムが降ってきたんです。それは『鬼』という作品でした。ちょうどこんな感じで……」

鬼って優しいんだよ
鬼って本当に優しい生き物なんだよ
人に蔑まれ嫌なことされても グッと我慢する
本当は優しい生き物なんだよ
僕はそんな鬼になりたいと そっとうつむく

「『桃太郎』に代表されるように、日本の物語だと鬼って悪い生き物とされているじゃないですか。でも鬼の立場になって考えてみたら、どうでしょう? 自分たちは悪いことなんてしていないのに、たまたま漂流した場所に人間がいて、その人たちに怖がられているだけなのかもしれない。そういうことが頭に浮かんできたんです」

 鬼は怖い存在ではない。心優しい面にも目を向けるべきだ。なんだったら、鬼になりたいと願う自分もいる──。このコペルニクス的転回は、現在に至るまでクロちゃんの考え方の基本形となっている。
そこには自身を“鬼”に見立てなくてはいけない悲しい事情もあった。

「生まれ持ったこの甲高い声のおかげで、いろんな人から好奇の目で見られてきたんですね。でも、当時は僕だって多感な年頃じゃないですか。自分がダメージを喰らわないようにするため、無意識のうちに物事の見方を逆転させ、発想を変える癖がついていたと思うんです。『鬼=悪者』と決めつけるのではなく、『鬼だっていいところがあるんじゃないの?』って」

 陰湿ないじめとは言わないまでも、声に対する嘲笑は絶えることがなかった。だが、それを真に受けて、マイナスのイメージを引きずっていたら自分の身が持たない。そこで中学生のクロちゃんは「この声なら、いつまでも大好きなアニメの曲が歌えるな。ラッキー!」と発想を逆転させたのだという。

「今は『水曜日のダウンタウン』(TBS系)に出るたびに嘘つき呼ばわりされて炎上していますけど、僕の場合、芸能界に入ってから急に注目されたわけじゃないですからね。生まれたときから注目されていたというか、『何、あいつ?』って冷やかされていた。そのへんは筋金入りなんです。だから人生そのものが逆転の発想というか、物事の見方を転換させる癖が骨の髄まで染みこんでいるんですよ。
この視点が今の作詞に活かされているのは間違いない」

 声のコンプレックスとバレーボールでの挫折から始まったクロちゃんの作詞道。芸人としてキャリアを積みながら、同時にアイドルを熱心に研究することで、独自の言語感覚に磨きをかけていくこととなる。

【中編】ヒャダイン、川谷絵音もその才能を称賛、作詞家・クロちゃんの天才性 「パンティーライン」に込められた真の意味はこちらから
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