成田凌主演で話題の青春映画『くれなずめ』が、5月12日(水)から、テアトル新宿ほかにて公開される。“男子”6人、結婚式の披露宴と二次会の間に起こる短い物語。
高校時代の“しょーもない”思い出と、認めたくなかった“友の死”…なぜ今この映画を撮ったのか、またドラマと映画の撮り方の違いについて監督・松居大悟に話を聞いた。(前後編の後編)

【前編はこちら】映画『くれなずめ』の松居大悟監督が語る、成田凌を主演に抜擢した理由「あまり日本にいない俳優」

【写真】成田凌、若葉竜也、浜野謙太ら出演・映画『くれなずめ』場面写真

――松居大悟監督がシーズン3まで制作されたドラマ『バイプレイヤーズ』(テレビ東京系)の映画版『バイプレイヤーズ ~もしも100人の名脇役が映画を作ったら~』が現在公開中ですが、ドラマと映画で撮り方の違いはありましたか?

松居 ドラマはとにかくスポーツでした(笑)。みんなが健康なのが一番で、台本から離れれば離れるほどいいと思って撮っていました。いかに台本から離れて、本当かウソか曖昧なところを狙っていたんです。だからドラマの現場はめちゃめちゃ巻くんですよ。でも映画で描こうとしたものには、ちょっと切なかったり、グッときたりと、フザけるだけじゃ成立しないところもいっぱいあったので、頭を使いながらやってました。
シーズン1,2、3があっての集大成なので、時間もかかりましたね。

――これまで舞台、ドラマ、映画と、それぞれ手掛けていて、共通するテーマはありますか?

松居 まだ見たことのないもの、作られてないものを作りたいという気持ちと、言語化されていない感情に観ている人を連れて行きたい気持ちがあって、それが全部を通じてのテーマです。

――舞台中心にやっている監督は、映画にも舞台っぽさが出がちですが、松居監督にはそれを一切感じないです。

松居 僕自身、映画に舞台を持ち込むのがすごく嫌なんですよね。僕が舞台を愛し過ぎてないからだと思うんですが(笑)。舞台を愛する演出家が映画をやると、画角を信じられないというか。
逆もしかりで、映画監督が舞台をやったときに、映画を愛し過ぎていると空間を広げられないことが多いんです。

――舞台、映画、ドラマそれぞれを撮る上で、どういうアプローチの違いがあるのでしょうか。

松居 今回の『くれなずめ』もそうですが、舞台ではざっくり「死生観とは?」「愛とは?」みたいな何となくのテーマがあって、それを劇団員と話し合いながら作っていくので、ゴールがないまま、疑い続けた果て、というイメージです。でも映画は、あるテーマを描くために最強のチームを組んで、最強のものを目指します。ドラマは『バイプレイヤーズ』しかやっていないですが、わりとスケジュールがタイトなので、いかに今日が幸せに終われるかというスポーツみたいな瞬発力が大切です。

――『くれなずめ』で高良健吾さん演じる演出家の欽一と、若葉竜也さん演じる役者の明石が、先輩の演劇人に舞台でコメディばかりやっていることをバカにされて、明石が反論するシーンがあります。
あのシーンは松居監督の気持ちを代弁しているのでしょうか?

松居 明石が言っているだけです(笑)。だた、もうちょっとコメディが認められたらいいのになという気持ちはあります。

――松居監督のコメディは、役者さんにマンガのような、これみよがしのコメディ演技をさせていないのが印象的です。

松居 そういう笑いは単純に僕が笑えないからですね。コスプレや変顔をそのままやると表面的になってしまうので、僕の映画デビュー作『アフロ田中』(2012年)でも、田中が変顔をするときは、世間との常識がズレてしまって、そのときに葛藤した感情が表情に零れ出てしまう、みたいな意味があるんです。

――ちゃんと変顔が感情に紐づいているんですね。


松居 田中みたいに、ズレだったりギャップだったりが面白かったり、愛しかったりして、そういう人間の感情が好きなんです。

――『くれなずめ』はシリアスとコメディの配分が絶妙です。

松居 僕は『くれなずめ』のように何気なく優しい話が好きで、もっとやりたいんですけど、なかなかオファーがないんです。『アフロ田中』と『バイプレイヤーズ』のイメージが強いので、コメディの話がくるんですけど、コメディは自分の中から生まれたものじゃないとできないですし、求められていることと、やりたいことにズレを感じてしまうことが多いです。同じような内容にしかならないと申し訳ないので、そこの折り合いも難しいところです。
――今後どんな映画に挑戦したいですか。


松居 家族の話、恋愛、サスペンスなど、ど真ん中をやりたいんですけど、振り返ってみると僕の映画はどのジャンルにも入らない変な作品ばかりなんですよね(笑)。