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放送中のドラマ『お耳に合いましたら。』(テレ東系)で「見つかった」と言われているのが、主演の高村美園を演じる元乃木坂46の伊藤万理華だ。
『お耳に合いましたら。』は、美園がチェーン店グルメに関するポッドキャスト番組をはじめたことで人間関係に変化が起きていく作品で、伊藤は嘘のないセリフ回しと万華鏡のような表情で美園を演じている。何より好きなものを「好き」と語るシーンのチャーミングさが素晴らしい。
伊藤を「見つけた」人は、乃木坂46公式YouTubeチャンネルで公開されている『はじまりか、』という映像をぜひ観て欲しい。
すでにたどり着いている人も多いと思うが、乃木坂46のCDには、特典映像として各メンバーを主人公にしたショートムービー“個人PV”が収録されていることがあり、『はじまりか、』はその個人PVの発展型だ。
伊藤は個人PVで、柳沢翔(『ポカリスエット』CMなど)、湯浅弘章(『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』など)、山岸聖太(『スーパーマリオブラザーズ』35周年CMなど)といった監督たちと組んで傑作を連発し、「個人PVの女王」と呼ばれるようになった。
『はじまりか、』は、個人PV『まりっか’17』などを手掛けた福島真希監督による作品で、2017年にグループ卒業を控えた伊藤が開催した「伊藤万理華の脳内博覧会(2017年10~12月)」の京都会場・北野天満宮限定で上映された後にYouTubeで公開された。
伊藤が「乃木坂46での自分史」を歌い踊りながら乃木坂駅周辺を移動して、オーディション会場でもあったソニー本社に到着する内容で、『はじまりか、』を観れば彼女のアイドル人生と飛び抜けた表現力の“さわり”を知ることができるはずだ。
ちなみに、「『はじまりか、』以上の作品はもうできないんじゃないか」と思った福島は、伊藤の乃木坂46卒業を機にCM監督をやめて、現在は香川県・直島に住む専業主婦だ。
筆者も『はじまりか、』を観るために北野天満宮に足を運んだひとりだ。個人的に、乃木坂46卒業後の彼女に望んでいたのは、「メジャーシーンで活躍してほしい」、そして、「誰も見ていないところでもいいから踊っていてほしい」だった。
卒業後の伊藤の活動で意外だったのが、しばらくは「舞台」の仕事が多かったことだ。
過去に『すべての犬は天国へ行く』(2015年10月)や『墓場、女子高生』(2016年10月)といった乃木坂46メンバーが複数出演する舞台で存在感を示したが、生田絵梨花や桜井玲香といった他のメンバーに比べると、グループ在籍時に「舞台」のイメージは薄く、彼女の特性を鑑みても「映像」の方が向いていると思っていた。
そんな伊藤が卒業後に初めて出演した舞台が『仮面山荘殺人事件』(2019年9~10月)。東野圭吾による原作を、キャラメルボックスの成井豊が演出した王道ミステリーで、伊藤は「誰もが惹かれる美人」雪絵を演じた。伊藤はストレートな演技でも観る者を魅了することを証明する。
2019年12月に上演された『今、出来る、精一杯。』は、表現力豊かな伊藤と間違いなく相性がいいと予感させた根本宗子の作品。その予感は的中し、伊藤は篠崎ななみとして、精一杯の愛情を歪な形で表現する。根本とは翌年11月にもタッグを組み、配信限定の舞台『もっとも大いなる愛へ』に出演。上映後にフィードバックの時間があり、いわゆる「ダメ出し」をそのまま観客に見せることで、『もっとも大いなる愛へ』は生き物のような作品になった。
最近のインタビューでは、18~19年は悩みの多い時期だったように述懐しているが、グループを離れて舞台に立ったことで、アイドル時代からの繊細な演技に一本筋が通ったように思う。
8月6日、伊藤の初主演映画『サマーフィルムにのって』が公開された。『お耳に合いましたら。』のメイン監督でもある松本壮史がメガホンをとったこの作品は、高校の映画部でくすぶっている時代劇オタクのハダシ(伊藤)が、個性豊かな7人の仲間と映画作りに没頭するストーリーだ。
登場時こそ鬱屈としたシルエットだが、抑えきれない「好き」を創作に向けて躍動するハダシの姿には愛おしさを感じる。創作の苦悩にリアリティがあるのも、これまでクリエイティブな活動をしてきた伊藤ならでは。
『お耳に合いましたら。』のエンディングで、毎回違ったオリジナルのダンスを踊っている伊藤だが、『サマーフィルムにのって』の見せ場となる「あるシーン」でもまた、彼女が踊っているように見えた。
『サマーフィルムにのって』で、伊藤はさらに多くの人に「見つかる」はず。そして、これからも踊るように演じ続けることだろう。
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