【写真】カンヌ席巻『ドライブ・マイ・カー』で好演、女優・霧島れいか&『ドライブ・マイ・カー』場面写真
――霧島さんの演じる主人公・家福悠介の妻・音は、原作でもそのパーソナリティがほとんど語られていない謎多き女性です。役作りという部分ではかなり難しかったのではないですか?
霧島 実は、濱口(竜介)監督が脚本にはない悠介と音のサブストーリーを詳細に書いてきてくださったので、役自体にはすんなりと入れました。撮影前には、西島(秀俊)さんと二人でそれを本読みしながら、実際に演じてっていう時間も、丸3日間ぐらいは取っていただきましたし、渡されたテキストには、音が答えたという設定のアンケートも用意されていていました。なので、私自身はそれらをしっかり読んで、あとは自分のなかに落とし込むだけでよかったんです。
――夫婦の過去のエピソードから、個別のアンケートまで!! 映像にはならない裏側にも、そこまでの作り込みがあったとは驚きです。
霧島 アンケートを書いているのは濱口監督ですけど、そこにある言葉は、彼女そのものでした。今日の取材に合わせてぜんぶ読み返してみましたが、本当にすごい。「音ってこういう人なんだな」ってあらためて彼女への理解が深まった気がします。映像には映っていないにせよ、私自身が腑に落ちるためにもこれは必要なプロセスだったんだなと思いました。
──劇中では、戯曲『ワーニャ伯父さん』の台本を朗読する音の“声”が吹き込まれたカセットテープも重要な役割を果たします。
霧島 テープの声に関しては、練習する時間はあまりありませんでした。
──物語の前半部分でフェードアウトしてしまう霧島さんとしては、西島さんや岡田将生さんらが織りなす後半の濃密なお芝居には、複雑な想いがあったりもしますか?
霧島 羨ましいな、という気持ちはやっぱりありました。濱口監督の現場に長くいられて、たくさん経験できていいなと。でも、音がいなくなってからの物語には、それこそ目を見張るものしかない。そこに私自身は出ていなくても、いなくなってからも離れずに、悠介にくっついて回る彼女の存在は、なかなか強烈でした。むしろ、主張しすぎていましたね(笑)。
──ご自身のなかに落とし込んだ音は、撮影のあとすんなりと出ていってくれました?
霧島 これまで役を引きずるみたいな感覚はほとんど経験がなかったんですけど、今回に関してはしばらくあったかもしれません。近くに彼女を感じると気持ちもつらくなっちゃうので、美味しいものを食べたり、ちょっと近くを散歩したり。アップしてから数日間は、なるべく普段と同じ生活を送れるよう心がけてはいました。
――ちなみに、村上春樹作品への出演は、『ノルウェイの森』(10)以来、2度目。
霧島 初めて読んだのが『ノルウェイの森』だったので、やっぱり思い入れはあります。当時は私もまだ若かったですし、登場人物も同年代。胸にズシンと来てしばらく立ち上がれなかったというか、モヤッと感が満載すぎて放心状態になっていた記憶があります(笑)。
――今回の原作でもある短編集『女のいない男たち』はいかがでしたか?
霧島 出てくる女性にとりわけ謎が多いので、なかなか見せてもらえないベールの下を覗きみたいっていう衝動だったり、モヤッとだったり、いろんな感覚が渦巻きました。表題作だけでなく、そんな複雑な作品のいろんな要素が散りばめられているのも、今回の映画のすごいところだと思います。原作を読んで、初めて脚本に目を通したときは「素晴らしい」を通り越して、「濱口監督って何者なんだ?」って心底思いました。
(取材・文/鈴木長月)
▽Hair&Make 面下伸一(FACCIA)
Styling 安竹一未(kili office)
▽『ドライブ・マイ・カー』
8月20日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー
キャスト・西島秀俊 三浦透子 霧島れいか/岡田将生
(C)2021『ドライブ・マイ・カー』製作委員会
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