AKB48が今月29日に58枚目のシングル『根も葉もRumor』をリリースする。約1年半ぶりのこの新曲、これまでになかったロックダンスを取り入れ、音楽番組の初披露は好評を博し、公式のダンス動画の再生回数は147万回を突破した。


今のAKB48のテーマは、7月からテレビ東京でスタートした冠番組『乃木坂に、越されました~AKB48、色々あってテレ東からの大逆襲!』のタイトルよろしく、大逆襲。メンバーたちからは「全盛期を超える」という力強い言葉も聞こえてくる。今、AKB48にはどんな変化が起ころうとしているのか。結成当初からグループを見てきたライターの犬飼華氏に特別寄稿してもらった。

【写真】これぞAKB48、98人ダンスも圧巻、青春感あふれる『根も葉もRumor』MV場面カット【25点】

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先月29日、東京・品川プリンスホテル ステラボールにて行われていたAKB48の舞台『マジムリ学園-LOUDNESS-』が幕を下ろした。これは同月20日から14公演開かれたもので、感染症予防対策をとりながら、有観客で行われた。

 通常、AKB48の舞台は初日かその前日、取材陣向けにゲネプロ(本番同様に行われる通し稽古)がある。ところが、今作は感染症対策の余波を受けて、なかった。そのため、最終日の様子を配信で観ることになった。

 大まかなストーリーは、いくつかのグループが対立しているが、最終的には争いをやめて、ひとつになる――というもの。力によって決着をつけるという、『マジすか学園』シリーズの流れとは一線を画すものだった。

 主役を演じた岡田奈々のセリフには、以下のようなものがある。


「喧嘩をやめて、星を見に行こう!」

 争いを好むメンバーの前でこう言い放つのだ。そうすると、メンバーははっと我に返り、団結へと向かっていく。

 この結末についてしばらく考えた。おそらくAKB48というグループそのものの現在の姿を示しているのではないか。そう感じた。

 争いをやめること。それは、選抜総選挙が行われなくなったことを指しているはずだ。AKB48グループは2009年から選抜総選挙を開催してきた。総選挙といえばAKB48。それはこの巨大アイドルグループの代名詞的なイベントと化し、絶対的センターの前田敦子と対抗馬の大島優子のセンター争いは見る者を釘付けにした。メンバーはスピーチで名言を連発した。AKB48の総選挙は世の中に浸透し、「○○総選挙」という番組や企画はすっかり定番になった。
2018年の第10回を最後に総選挙は開催されていないが、「エンターテインメント界に一時代を築いた」としても言い過ぎではないだろう。

 今月29日、AKB48は58枚目のシングル『根も葉もRumor』をリリースする。この曲はAKB48として約1年半ぶりのシングルであり、SKE48NMB48など姉妹グループのメンバーが選抜に入っていない“純AKB48”としてリリースするのは10年9か月ぶりだという。AKB48は数年前から単独での活動に飢えていた。国内各グループの分社化も進み、単独でリリースする環境は整っていた。

 メンバーの士気は高い。自分たちだけのシングルがやっと出せる。それは念願であり、長い間隠してきた本音だった。

 この喜びをメンバーはロックダンスで表現している。メンバーの多くは初挑戦することになったジャンルのダンスだったので、踊るために必要な筋肉を作ることからレッスンは始まった。1日に3時間。これが1か月続いた。
ここまで時間をかけて取り組んだシングルは過去にないはずだ。

 練習で顔を合わせると、自然に関係は深くなる。練習はキツい。だが、乗り越えようと励まし合う。レッスンを通して、以前よりも強固な関係性を手に入れた。

 音楽番組の初披露は好評を博した。「揃っている」「気合いを感じる」といった声が相次いだ。公式のダンス動画の再生回数は147万回を突破した(9月8日現在)。

 最近、そんな話をメンバーの取材で聞いた。そこで感じたのは、『根も葉もRumor』と『マジムリ学園』は同一線上にあるではないかということだ。

 たしかにポジションや役柄はある程度決められたもので、選抜制度もある。センターも主演も岡田奈々だ。
しかし、シングルのMVや舞台から感じられたものは、グループが一枚岩になることだった。

 約10年前、AKB48には神7と呼ばれるメンバーがいた。現役メンバーに神7の知名度があるかというと、それはない。束になっても適わないことは、現役たちは痛いほどわかっているだろう。

 だとしたら、個の力を見せるのではなく、集団の力を示せばいい。間奏のタットダンスなどはまさに集団だからこそなせるわざであり、2021年のAKB48を象徴しているように見えてならない。

「三本の矢」の教えにもあるように、一人の力はたかが知れている。個でテレビに出たとしても、あるいは特定のメンバーのYouTubeチャンネルがバズったとしても、個人が知名度を上げるだけだ。グループが人気を得るためには、グループ自体に魅力がなくてはならない。個人の集合体がグループではない。

 振り返れば、5月23日の単独コンサートも同一線上にあるものだった。その線の始点だったとも考えられる。
どのメンバーも均一なテンションで踊っていた。前列も後列も関係なかった。後日、このコンサートをプロデュースした柏木由紀は、「いい表情の子を抜くよう、スタッフにお願いした」と話していた。そうすれば、メンバーは一瞬たりとも気を抜けなくなる。また、1年以上ぶりに有観客でコンサートらしいコンサートを開くことができた喜びに満ちていた。

 その日、ステージ上にあったものはピラミッドではなかった。AKB48とは、メンバーがシングルのポジションや総選挙の順位で格付けされたピラミッドのことだった。だが、単独コンサートにピラミッドはなかった。

 少なくともしばらくの間、AKB48はこの一枚岩路線で進むだろう。メンバーがきっとそれを望んでいるからだ。スタッフがその空気を感じ取り、線路を敷いてあげたなら、その勢いは増す。

 7月からテレビ東京で放送がスタートした『乃木坂に、越されました』が、この流れに乗ることができれば、さらに大きな潮流になるはずだ。


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