作家・柚月裕子の同名ベストセラー小説を、かの『仁義なき戦い』に匹敵する熱量で実写化した大ヒット作の続編『孤狼の血 LEVEL2』が絶賛公開中だ。“古きよき東映らしさ”をあえて全面に押しだした当作は映画ファンから絶賛の
コンプライアンスが叫ばれる昨今、さらにコロナ禍の渦中で、暴力と狂気渦巻く衝撃作が誕生した。常に攻め続ける鬼才監督・白石和彌が語る、作品に込めた想いとは――!?(前後編の後編編)

【前編はこちら】『孤狼の血2』白石和彌監督がコロナ禍で攻め続ける理由「今度こそ絶対褒められないものに」

【写真】画面から立ち昇ってくる凄まじさ…松坂桃李、鈴木亮平、西野七瀬ら『孤狼の血 LEVEL2』出演者【8点】

――『孤狼の血 LEVEL2』最大の注目ポイントと言えば、やはり鈴木亮平さん扮するヤクザ・上林の強烈なキャラクター。起用にあたって、監督としてはどんな狙いが?

白石 亮平くんとは、19年の『ひとよ』で初めてご一緒させてもらったんですけど、そのときに彼の仕事への取り組み方に、僕自身もいたく感動しまして。「上林、誰がやるんだ?」って考えたときに、彼ならきっとやってくれるんじゃないかな、と思ったんですよね。

彼自身、いい人のイメージが強いし、実際そういう役柄のオファーが多いのもわかっていたので、このタイミングだからこそ話をしてみる価値はあるのかな、って。不良性感度の高さみたいな部分は、14年の『TOKYO TRIBE』なんかでもすでに証明済みでしたしね。

――ということは、あそこまでの暴れっぷりもある種、想定の範囲内だったと?

白石 脚本を練っている段階から「どうせなら、見たことのないくらいヒドいやつにしたい」とは考えていましたけど、あそこまでの強烈なキャラクターになったのは、やっぱり彼の造形によるところが大きいです。

ただヒドいだけじゃない、上林がなぜあんな人になったのか、というのはこの作品でもかなり腐心した部分。そういう意味では、斜め上をいく仕上がりになっていますし、「鈴木亮平ってやっぱりスゴい役者だ」っていうのは、あらためて感じましたよね。

――完成披露試写の際には、撮影後にホテルまでの帰り道を間違うくらい、鈴木さん自身も上林という役柄には、かなり当てられていたという話もされていましたよね。

白石 そうですね。ただまぁ、上林という男は、やり方こそヒドいですけど、登場人物のなかで実は唯一、いっさい嘘をついていないキャラでもあるんですよね。


誰もが自分の体面や都合で、コロコロと言い分を変えていくなかで、彼だけは最後まで変わらない。嘘をつかずに自己実現をしていくという部分に関しては、鈴木亮平という役者とも非常にリンクしているのかな、って気はします。

――本作を観たあとで、ドラマ『TOKYO MER~走る緊急救命室~』などを観ると、同一人物とは思えないですが(笑)

白石 上林を観たあとだと、ぶっちゃっけ嘘っぽく見えてしょうがないですよね。こんなことを言ったら、ファンの方からは「いや、ホントの鈴木亮平はこっちだわ!」ってツッコまれまくると思いますけど(笑)。

――一方、主演の松坂桃李さんはどうでしょう? 現実世界でも、前作から3年という劇中と同様の時間経過があったわけですが。

白石 賞がすべてとは思いませんが、『新聞記者』のような硬派な作品にも出演して、それがしっかり評価もされたというのが、本人のなかでも自信につながっているところは、少なからずあるんじゃないですかね。

30代前半にして、役者としてもひと通りやりきった感がある。身近に接していても、懐の深さ、余裕みたいなものを感じましたしね。

――それが、前作の役所広司さんが演じた大上亡きあとの日岡というキャラクターの成長ともリンクしている、と。

白石 日岡自身は、大上の後継者として、立場こそその位置にはいるんだけど、“孤狼”と呼ばれるまでには至っていない。

劇中では、冒頭で前作の映像を流用した際にも、あえて大上を演じる役所さんだけは絶対に出さないようにしたんですけど、日岡がまだその亡霊というか、背中を追っかけてる状態だというのは、桃李くん自身もしっかり意識して役作りはしてくれていたと思っています。

――松坂さんのなかに確固たる日岡像があるからこそ、ぶっ壊れた上林のような存在の輝きも増す、という部分もあるでしょうしね。


白石 それは間違いないですね。実は去年1回目の緊急事態宣言のときに、桃李くんから「やりましょう」って誘われてオンライン飲みをしたんですけど、そのときは「こんなときじゃないとどこまで伸びるか試せない」ってすごいヒゲボーボーで(笑)。

でもその後にあった衣装合わせで久々に会ったら、ちょっとだけオラついた雰囲気をまとっていたんです。話すとすぐにいつもの桃李くんに戻りましたけど、あの感じだと、近所のコンビニに行くときなんかでも、密かにオラついていた可能性はありますよ(笑)。

――それとやっぱり、白石作品に欠かせない存在としては、TEAM NACSの音尾琢真さんにも触れないわけにはいきません。

白石 彼の演じる吉田は、実は脚本の池上(純哉)さんが上げてきた最初のプロットには1ミリも出てこなかったんですよ。

なので、「すみません、そこだけはウチの音尾をなんとか」て無理言って(笑)。おかげで、楽しい感じにはできました。

――意外性のあるキャスティングというところでは、日岡の愛人であるスナックママ役を演じた、元乃木坂46の西野七瀬さんなども。

白石 もともとのイメージとは真逆ではありますけど、彼女のもつ清楚さとそのなかにあるツンデレ感みたいな部分は、役柄にもきっと合うっていう直感は最初からありました。

本人は、前作を友達と一緒に観てくれていたみたいで、「まさかあのなかに自分が入ることになるとは思わなかった」と言っていましたけど、もともとあれだけの立ち位置にいた人ですから、役を自分のものにする術は、ちゃんと持ってる。結果的にも起用自体は、わりと成功だったんじゃないかな、と思ってます。


――序盤で無慈悲に殺される筧美和子さんや、“極妻”かたせ梨乃さんの贅沢すぎる使い方など、他にも見どころはテンコ盛りで。

白石 かたせさんなんて、僕が言うのもなんですけど、「なんで受けてくれたんだろう」って思いましたもんね(笑)。ただ、ご本人は現場でも大喜びで演じてくださった。大ベテランはやっぱり懐の深さが違いますよ。

今回はあえて、余韻をいっさい省いた描き方をしていますが、人の死にざまなんて本来それぐらい呆気ないものだったりもしますしね。

――鈴木さんや西野さんのファンなど、ふだんヤクザ映画に縁遠い方も、きっと映画館には足を運ぶと思います。最後に監督としては、どんなことを感じてもらいたいですか?

白石 基本的に映画は、若い人に観てもらいたくていつも作っているので、こういう作品を観たことがなかった人が「面白かった」と言ってくれるのが、個人的にもいちばんうれしい。

観終わった人からは「謎に元気が出る」みたいなこともよく言われるので、なかなか自由の利かないこのコロナ禍で、少しでも楽しんでいただけたら、と。自分の作品のなかでは、もっともランニングタイムの長いではありますけど、体感はおそらくいちばん短い。「怖そう」と身構えず、ぜひ観に来てもらいたいですね。

(取材・文/鈴木長月)

▽白石和彌
1974年、北海道生まれ。専門学校を卒業後に上京し、故・若松孝二監督に師事。
長編第2作となった13年の『凶悪』で若手実力派として一躍脚光を浴びる存在となる。『孤狼の血』はじめ話題作を相次いで発表した17年、18年にはブルーリボン監督賞を2年連続で受賞。最新作には、来年公開予定の『死刑にいたる病』など。『仮面ライダーBLACK』のリブート企画でもメガホンを執ることがすでに発表されている。
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