現在絶賛公開中の映画『愛のまなざしを』で共演している、仲村トオル斎藤工。本作は、カンヌ国際映画祭にてW受賞した『UNloved』、比類なき傑作『接吻』に続き、強烈な自我を持つ女性を軸に狂気ともいえる愛を描いてきた鬼才・万田邦敏監督が描く愛憎サスペンス。
万田監督とは3度目のタッグとなる仲村トオルと、万田作品には今回初出演する斎藤工に、共演にあたり、互いの印象や万田監督について、語ってもらった。(前後編の前編)

【写真】14年ぶりの共演となる仲村トオル&斎藤工

――お二人は過去にも共演経験があるそうですが、初共演作は何だったんでしょうか?

斎藤 僕がデビューして間もない頃に、藤沢周平さん原作の『風の果て』(2007年)というNHKのドラマで、トオルさん演じる杉山忠兵衛の青年時代を演じさせていただいたんです。ちょうどその頃、僕の父親と万田邦敏監督が一緒に仕事をしていたという経緯があったので、初めてトオルさんに会うときにお話しさせていただく動機になるなと思いました。

それを刀代わりに話しかけたら、本当に温かくて奥深い対応をしてくださいました。俳優を始めて初期の段階で、トオルさんという度量の大きい方と出会えたのは幸運でしたし、それから時を経て、万田組でご一緒することができて、今も幸せが続いている気がします。

――仲村さんは、斎藤さんと初めて会話をしたときのことは覚えていますか?

仲村 もちろんです。僕と同一人物を演じているので、同じシーンでの共演はなかったんですけど、一度だけNHKのリハーサル室ですれちがったんです。僕が先にリハーサルを終えて帰ろうとしていたときだったんですけど、そのときに斎藤君が来て、「万田監督が……」と言うので、「万田監督と仕事しているの?」って聞いたら、「父の友人です」と。

――斎藤さんは開口一番で刀を抜いたんですね(笑)。

斎藤 それしか刀がなかったので(笑)。

仲村 少し話は逸れるんですが、『風の果て』のお話をいただいたときに、僕はNHKのプロデューサーの方に「青年期から演じることができます!」と、かなりしつこく言ってたんです。そしたら「キャスト全員が演じられなきゃ困るんです!」と言われて、僕ら大人組には佐藤浩市さんや遠藤憲一さんもいらっしゃったのですが、確かにメンバー全員が十代を演じるのは少々無理があるかもしれないなと納得しました(笑)。


――仲村さん、佐藤さん、遠藤さんが同時に十代を演じるのも見たいですけどね(笑)。

仲村 そんな経緯もあって、僕らの青年期を誰がやるんだろうと気になっていて。そしたら僕の青年期は、ちょっとした縁のある人なんだと知って、「お父さんは何をしている人?」って聞いたんです。ところが、その答えが返ってくる前に、「斎藤さん、お願いします」って呼ばれてしまったんですよ。結局、その後はリハーサル室で会うこともありませんでした。

ところが、その数年後に「私は『風の果て』で仲村さんの若い頃を演じた斎藤工の叔父です」という方と偶然お会いして、いろいろな謎が解けたり、さらなる謎が深まったり(笑)。そんな気になる出会い方をしたせいか、どんどん活躍を目にするようになって。常に気になる俳優でしたし、日に日に輝きが増して存在が大きくなっていく姿を、何となく身近な感じで見ているような気分でした。

初共演から約14年の歳月が流れて、初めて同じシーンにも出るという形の共演で、しかも万田監督の作品というのは本当に感慨深くて。この映画には何かある、いいものになるはずだという予感をさせてくれるキャスティングでした。

――仲村さんは『UNloved』(2002年)、『接吻』(2008年)、そして今回の『愛のまなざしを』と、万田監督とは3度目のタッグとなります。約20年間で万田監督の演出に変化は感じましたか?

仲村 感じました。
『UNloved』のときは、リハーサルの段階で、「3歩歩いて止まって、左から振り返ってください」「顎を引いてください。それは引き過ぎです」という細かさでしたし、セリフに関しても「抑揚はいらないです」「もっと低い声で強く、死ぬ気で言ってください」といった調子で、野球のストライクゾーンで言うと、ボール1個分あるかないかの指示でした。

これでもなく、あれでもなく、「この角度!」みたいな。そのストライクゾーンに関しては、『愛のまなざしを』では広くなった感じはします。ただ、僕の目と耳で感じたことで言うと、表に現れるものから形作っていくという基本の演出は変わらないですね。ここで動く、ここで止まる、ここで座る、ここで何かを持つという具体的な指示はありますが、ほとんど感情とか意味の説明はなさらないんです。そこは昔から変わらないところです。

――他の媒体のインタビューで、仲村さんは「斎藤くんに抱きしめられるシーンは覚えてない」と仰っていたのを読んだのですが、それだけ役に没頭していたということですか?

仲村 今回は、自分の担う部分量が多かったこともあって、万田監督に言われた通りに貴志という役柄を動かすことに懸命になっていて、自分自身で何かを見たり、感じたりする瞬間が少なかったんじゃないかなと。あとは単純に撮影が楽しかったんでしょうね。僕は不安だった瞬間のこととか、ヤバいなって思った瞬間のことは覚えているタイプなので、本番中の記憶がほとんどないというのは、そういうことなのかなと思います。

――斎藤さんは初めての万田監督の演出はいかがでしたか?

斎藤 トオルさんが別の取材で「振付」と仰っていたんですが、歌舞伎や能や狂言に近い気がしました。ロベール・ブレッソンや、最近で言うと濱口竜介さんの作品に通じるものを感じましたね。


――どの監督も厳粛なショットが印象的な作風ですよね。

斎藤 俳優は自分のやりやすい演技に引き寄せてしまいがちですが、それを万田組でやってしまうと、どこかでお芝居を勘違いしている自分が露わになっていくような気になってしまうんです。そこで自然と演技ではない普段の自分の呼吸に寄せていくんですけど、イニシアティブが万田さんにあるから、意識せずとも万田組のキャラクターになっていくんですよね。

かといって万田さんが俳優を好きに動かすのではなく、コックピットから見守って微調整をしてくださるような感覚でした。トオルさんを演出されている万田さんを目の前で見たら、絵の具の色の出し具合を、それぞれのキャラクターで調節している感じがして面白かったですね。(後半へ続く)

【後編はこちら】仲村トオル&斎藤工が“悪女”ヒロインを語る「プライベートでは近付きたくないですけど…」

▽『愛のまなざしを』大阪での舞台挨拶が決定

日時:11月20日(土)

テアトル梅田
1 回目 9:45 の回 上映後
2 回目 12:15 の回 上映前
登壇 :仲村トオル、万田監督(予定)

イオンシネマ シアタス心斎橋
1 回目 12:30 の回 上映後
2 回目 15:10 の回 上映前
登壇 :仲村トオル(予定)

仲村トオル/ヘアメイク:宮本盛満 スタイリスト:中川原 寛(CaNN) 
斎藤工/ヘアメイク:くどうあき、スタイリスト:yoppy(juice)、ジャケット・シャツ・パンツ: Blanc YM / ブラン ワイエム 参考商品
ブランドお問い合わせ:TEENY RANCH / ティーニーランチ 東京都渋谷区神宮前2-19-16HT神宮前ビル5F TEL 03-6812-9341
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