【前編はこちらから】「多忙で学校でもボロボロ泣いていた」家庭科教師を変えたプロレスとの出会い【スターダム レディ・C】
【写真】家庭科教師時代のレディ・C、試合中のカットほか撮り下ろしカットも【12点】
──「プ女子」という言葉もあるように、今はプロレス好きな女性も増えています。しかし実際に自分もプロレスラーになろうとするファンは少ないですよね。
レディ・C もちろん私も最初は自分がプロレスラーになるなんて考えていませんでした。なにしろリングの上の選手たちは、私から見ると超人。自分は応援グッズを作ったりコスプレしたり、ファンとして応援することがすべてだと思っていたんですよ。ただ今は多くの女子団体がワークショップを開いていて、一般の方にリングを開放しているんですね。内容的には軽い筋トレとかマット運動とかフィットネス感覚のものなんですけど。私も友達からワークショップの存在を教えられ、スターダムは家から近かったこともあって通い始めたんです。
──もともとスポーツは得意じゃなかった?
レディ・C まったくダメでした。ワークショップに通い始めても、最初は腕立てや腹筋すらまともにできませんでしたから。でも、そのうちスクールボーイといった丸め込みの技やロープワークも教えてもらえるようになりまして、徐々にのめり込むようになったんです。
──ロープに振られるのも、実際にやられてみると痛いんですよね。
レディ・C ビックリしました! ファンとして応援しているときは当たり前に見ていたけど、自分でやってみたら背中が痛い痛い(笑)。ロープって綱みたいなものかと思っていたんですけど、実際は硬いワイヤーですからね。もうアザだらけ。それと同時に「やっぱりプロレスラーってすごいな」って感動しました。よりプロレスを深く観戦できるようになったんです。グラウンドの攻防とかって、見ているだけだとよくわからないですからね。そのへんは勉強と同じで、仕組みや原理がわかってくると「もっと知りたい!」という思いが強くなる部分がありました。
──教師という安定した職業を捨ててプロレス入りするにあたっては、ご両親に土下座して懇願したとか。
レディ・C 母親はまだ理解があったんですよ。キツかったのは父ですね。プロレスラーになると告げる前に、母親に対しては免疫をつけていたんです。「今、ワークショップに通っているんだ」とか「プロレスってすごく楽しいんだよ」と言って。母親はまったく興味なさそうでしたけど(笑)。当時の私は公立学校の教員採用試験というものを毎年受けていて、毎回、最終で合格点に届いていなかったんですよね。周りの「当然、今年も受けるよね」という無言の重圧の中、その年も最終までは順調に進んでいたんですけど、「待てよ? 今年は本当に受かっちゃうかもしれないな。そうしたらプロレスラーになれなくなる」という考えが頭をよぎったんです。毎年、受けていたら問題の傾向とかもわかってくるじゃないですか。
──教員になりたくても最終まで進めない人もいるというのに、ひどい話です(笑)。
レディ・C 本当に返す言葉がない(苦笑)。
──当然、そうなるでしょうね。
レディ・C 自分の性格からして、一度、教員採用試験に受かってしまったら一生そのまま教員として過ごしていたと思うんです。途中で教員を辞めることは考えられなかった。だったら教員採用試験の受験そのものを辞退しようと、そう考えたんですね。母親からは「あなたがそこまで言うのなら勝手にすれば? でも絶対にお父さんは許さないと思うよ」と冷たく言われ、いよいよ父親との対面ですよ。
──どう切り出したんですか?
レディ・C 「申し訳ありませんが、どうしても教員採用試験を受けたくありません。ここで受けてしまったら、おそらく教員を続けることになる。教員は免許があればいつでもできるでしょう。でも、私には今しかできないことがある。
──お父さんも度肝を抜かれたでしょうね。
レディ・C 父親はテレビで全盛期のプロレスを見ていた世代なので、「あんな危険なことがお前にできるわけないじゃないか。なんで教員を辞めてまで、そんなことをする必要があるんだ」と取り付く島もない感じでした。まあ意見としては、ごもっともなんですけど(笑)。「何がお前をそこまで駆り立てるんだ?」とも訊かれましたね。そこで私は「3年間、時間をください! そこで芽が出なかったら教員に戻ります! 一生のお願いですから、プロレスをやらせてください!」って大号泣しながら土下座。途中からは父親も号泣していましたね。「なんで自分の娘がプロレスなんかに……」って。こうやって話しているだけでも、当時の記憶が蘇って泣けてきますね。
──その号泣土下座によって父も認めてくれた?
レディ・C まあ渋々ですけど。「応援はできないけど、3年間だけは許す」と言われました。
──生徒からは祝福された?
レディ・C いや、実は生徒にはきちんと伝えていなかったんですよ。特に最初の2年間教えていた高校の生徒はまったく知らないはずで、SNSのDMで「ひょっとして先生ですか? 私、●●高校でお世話になった■■です」みたいな戸惑いのメッセージを何件かもらいました。プロレスラーになったことは仲のいい友達にも伝えていなかったから、「は? 教員はどうしたの? なんで辞めちゃったの?」と驚かれることが多いです。でも、それくらい私がプロレスラーになるというのは誰にとっても想定外のことだったんでしょうね。
▽レディ・C
1994年11月17日生まれ、千葉県出身。スターダム所属の女子プロレスラー。日本の現役女子プロレスラー最長身の177cm。得意技は「河津落とし」「脳天唐竹割り」など。
【後編はこちらから】スターダム レディ・C「反対していた父が堂々と応援できるようなプロレスラーに」