ソロとして2021年8月にアーティストとして本格的に再始動した、元モーニング娘。
鞘師里保。1月12日に2nd EP『Reflection』を発売、そして15日からは東京・大阪・地元の広島を巡る1stツアーも開催する。そんな彼女に、あらためて「空白の5年間」について聞いた。(前中後編の前編)

【写真】語りかけるような眼差し、鞘師里保の撮りおろしカット【12点】

──今回はソロ歌手として再出発することになった経緯を中心にお伺いできればと考えています。まずモーニング娘。を卒業したのが2015年末。わりと唐突な印象もあったのですが、当時はどのようなことを考えての決断だったのでしょうか?

鞘師 う~ん、とにかく自分の人生を見つめ直したかったんですよね。それまではすごく恵まれた環境にいたので、一度そこから抜け出してみたくて。そこで1人の人間としてどんなふうになるのか、自分でも興味がありましたし。

──アイドルの卒業劇というと、「女優を目指して」とか「モデルになるために」とか次のステップを見据える中で決めるパターンも多いですよね。

鞘師 私の場合、次のビジョンは見えていなかったです。自分でも何をしたいかよくわからなかったけど、でも「パフォーマンスをすることが好き」というのはおそらく間違いなくて……。
うまく言えないんですけど、「その気持ち」が内側から自然に出てくるまで自分を泳がせているような状態だったんですよね。「私はいつか踊らなくちゃいけないんだ」というよりは、気持ちが「踊りたい」という方向に自然に向くのを待っていて、逆にその気持ちが湧いてこないようなら私は終わりなんだと考えていました。

──終わり? そこまで追い詰められていたんですか?

鞘師 いや、終わりというのは「人生が終わり」という意味じゃなくて、あくまでも「表舞台に立つのはやめるべきだし、消えたほうがいい」という意味ですよ。ただ、そういった覚悟みたいなものは確かに持っていました。

──「石にかじりついてでもパフォーマンスするんだ」といった強い意思よりは、「今後のことはわからないけど、とりあえずステージからは離れてみようかな」くらいの感覚?

鞘師 そうですね。なんというか……もっと根本的な話として、自分って殻に閉じこもっているくせに中身がない人間だなって感じていたんですよ。このままだと形だけの人になってしまうという一種の危機感がありまして。それだと結局、パフォーマンスも中身がないものになるということじゃないですか。私は何かを伝えられる立場ではないと考えていました。

──ダンスや歌のテクニックうんぬんの話ではなく、内側が空っぽだと表現すること自体がないという焦りですか。

鞘師 極論すれば、技術だけを考えるなら人間が踊る必要なんてないんですよ。機械にダンスさせたほうが正確じゃないですか。
歌にしたって初音ミクちゃんに頑張ってもらえばいいという発想もあると思うんですね。実際、初音ミクちゃんに関してはエンターテインメントとしてすごく完成されていますし。ただ、それでもわざわざ人間が歌って、人間が踊るのはどういう意味か? そこを突き詰めて考えていくと、やっぱりその人間が持つ内面の話にならざるをえない気がしていまして。

──なるほど。そこは切実な問題ですね。

鞘師 それにプラスして、やっぱり1人の人間としても中身のない人間にはなりたくないという気持ちがありました。どうせなら豊かに生きていきたいですから。

──卒業後、海外留学を決めたのは?

鞘師 理由は2個あって、「今までと違う環境の中で何かを感じたい」というのが1つ。それからもう1つあったのは、モーニング娘。のメンバーとしてニューヨークでライブしたときに「もう一度、ここに戻ってきたい」と感じたんですよ。留学すること自体はかなり強い意志で決めていたし、他の選択肢は自分の中でありませんでした。

──ニューヨークの何が魅力的に映ったんですか?

鞘師 それまで日本で当たり前と思っていたこととは全然違う世界があったので、そこが衝撃的だったんですよね。
強烈なカルチャーショックを受けました。ファンの方の盛り上がり方も違うし、街の雰囲気や空気感も違うし、文化の面も全然違う。本当に自分にとっては新鮮な世界だったので、「ここに住めたら素敵だろうなぁ」ってぼんやりと感じていました。

──ダンス力を鍛えるのって日本ではダメなんですか? やっぱり本場は違う?

鞘師 技術的にも厳密に言えば違うところがあるんですけど、やっぱり一番はマインドの部分じゃないですかね。ダンスに対する気持ちとか取り組み方が全然違っていました。

──国籍バラバラのレッスン生たちが鎬を削るような感覚?

鞘師 いや、それが全然逆なんですよ。お互いの表現を称え合うような雰囲気で、「全員がライバル!」みたいなバチバチした感じではまったくなかったです。そこも大きなカルチャーショックだったんですよね。結局、それまで私は表現というのは正解がひとつ存在すると考えていたんです。「この曲はこういうふうに踊らなくちゃダメだ」みたいな捉え方で。だけどそうじゃなくて、もし正解があるとしたら、それはその人ならではの表現が発揮できたとき。

──ハロプロ研修生にもアクターズスクール広島にもない文化かもしれませんね。


鞘師 もちろんアクターズスクールでも意識が高い子はそこまで広く考えていたのかもしれないけど、私の場合は「上手くなりたい」とか「ミスしたくない」みたいな考えだったんです。ただ一方で幼稚園や小学校の頃の私って、「上手くなりたい」という気持ちと同時に「踊るのが楽しい」という気持ちもすごく強かったんですね。そういう意味で言うと、ダンスの楽しさを再発見できたニューヨークでの生活は自分にとって原点回帰的な部分も大きかったかな。上手さを求めていくと、どうしても楽しさを忘れてしまいがちになるので。やっぱり「踊るのが楽しい」という気持ちは表現する人にとって基本中の基本ですから。

──向こうでは「あれ? モーニング娘。にいた鞘師じゃない?」とか気づかれることもなかったですか?

鞘師 日本人や日系の方から指摘されることは若干ありました。でも、まぁほぼ気づかれなかったですね。モーニング娘。にいたときはコロナなんてまだなかった時期でしたが、一応、普段は顔を隠すためにマスクをしていたんですよ。だからニューヨークではマスクを取って街を歩けることが地味にうれしかったです(笑)。特別扱いされず、他の人たちとまったく同じ条件で練習できることも新鮮でしたしね。


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(取材・文/小野田衛)
▽鞘師里保(さやし・りほ)
1998年5月28日生まれ、広島県出身。モーニング娘。の“絶対的エース”として2015年12月までグループを牽引。ダンス留学を経て2020年9月より芸能活動を再開し、女優や歌手としての活動を本格化させている。
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