ビートたけし原作、劇団ひとりが監督・脚本を務め大ヒットとなっているNetflixの『浅草キッド』。幻の浅草芸人と呼ばれた深見千三郎と、その下で修行をはじめたビートたけしの師弟関係、そして芸人・ビートたけしの誕生秘話を描いている。
この作品で、ビートたけし役を演じた柳楽優弥の所作指導を努めたのが、たけしのモノマネでおなじみの芸人・松村邦洋だ。今回、『浅草キッド』に携わることになった経緯と、松村邦洋から観た本作について、話を聞いた。(前後編の前編)

【写真】『浅草キッド』について熱弁する松村邦洋

――Netflix映画『浅草キッド』で、若き日のビートたけしさんを演じる柳楽優弥さんに所作指導をすることになった経緯を教えてください。

松村 川島くん(劇団ひとり)が『浅草キッド』を撮ると聞いて、「たけしさんの声が必要なら、いつでも協力しますよ」とショートメールを送ったら、「ありがとうございます。でも、大丈夫ですよ。柳楽さんもいい役者ですから」と返ってきたんです。その数日後、「すみません。やっぱりお願いします」という連絡があって。

――それで松村さんが所作指導することになったんですね。

松村 撮影までの準備期間中に教えることになって、まずはゆっくりしゃべってもらいました。「バカヤロー」じゃなくて「バ~~カ~~ヤ~~ロ~~」って。走っている車からは景色がちゃんと見えないけど、散歩をしていると「ここにお寺があるんだ」「こんなところに公園があるんだ」と気づくじゃないですか。
モノマネもゆっくり話せば発見があるんです。あとは、柳楽くんの心をほぐしてあげるブルペンキャッチャー的な役割が大きかったと思います。

――心をほぐす、というと。

松村 川島くんはストイックなので、監督として納得のいかないものは出せないと、かなり厳しく“ダメ出し”していたんです。この空気を和ませることも僕の役割なのかなと思ったんです。土は柔らかいほうが芽は出ますし、コンクリートの下から草は生えません。関根勤さんが(モノマネで)「面白いね~」と言ってくれると、若手芸人は伸びますから。

――あとは、柳楽さんにたけしさんのことを好きになってもらって。

松村 そうですね。「好きこそ物の上手なれ」という言葉通り、僕もたけしさんのことが好きでモノマネができるようになりましたから、柳楽くんにも「たけしさんを好きになってください」と話しました。好きになると「その人になりたい」という気持ちが強くなるんです。野球でも、掛布さんが好きだったら掛布さんの打ち方になるし、田淵さんが好きだったら田淵さんの打ち方になるし、クロマティが好きだったらクロマティの打ち方になって……。
どんな世界でも「学ぶ」は「真似ぶ」から入ると思うんです。

――ひと口にたけしさんのモノマネといっても、年代ごとに違うわけですよね。

松村 『浅草キッド』の時代は、漫才ブームの頃のたけしさんですよね。(たけしのモノマネで)「赤信号、みんなで渡れば怖くない」「私たち、足立小学校よ~」「(川俣)軍司のパンツはグンゼのパンツ」という感じで。『浅草キッド』を観たら、「現在のたけしさん」を教えすぎたかな、というのはありました(笑)。

――『浅草キッド』を観て、柳楽さんの演技はどうでしたか?

松村 いやぁ、上手かったですよ。子役の時代から培ってきた能力の高さを感じました。昔だったら子役は子役のままで終わるイメージがありましたけど、今は子役が大成する時代ですね。加山雄三さん主演の『かたぐるま』に子役時代の坂上忍さんが出ていて、おばあちゃんが「この子は大人になっても売れるよ」と呟いたことを思い出しました。おばあちゃんに「僕はどうかな?」と聞いたら、「おねしょを直せ」と言われましたけど(笑)。

――作品として『浅草キッド』はどう見ましたか?

松村 たけしさんは「もっと悲惨だった」と話してますけど、美しい師弟愛にスポットを当てたのがよかったと思います。コメディもわかってる大泉洋さんが、たけしさんの師匠である深見千三郎さんを上手く演じてましたね。
居酒屋の客が気を遣って、ツービートの漫才からナイターにテレビのチャンネルを変えようとしたら、深見さんが「いいから見せろよ!」と怒ったシーンにはグッときました。

――松村さんは、深見千三郎さんと接点はないんですよね。

松村 僕らの世代で接点のある芸人ってTAKE2の東(貴博)さんくらいじゃないですか? 深見さんと銭湯に行ったことがあると聞きました。東八郎さんの息子さんですからね。深見さんは舞台にこだわり続けた方なので、映像が残っていないと言われているんです。だけど、『驚きももの木20世紀』(テレビ朝日系)で深見さんの映像が流れたことがあって。それこそ驚きました。

――深見さんのような生き方に憧れはありますか?

松村 板の上で戦うってすごいことですよ。テレビはタダですから。木戸銭をとって客前で芸を見せるのがホンモノの芸人だと思います。僕だって、すべてを捨てて舞台だけで生きるくらいの覚悟を持ったほうがいいんじゃないか、という考えが頭をよぎることがあるんです。(後編へつづく)

【後編はこちら】『浅草キッド』・松村邦洋が語る恩師ビートたけし「俺のマネをするならいい服着ろ、バカヤロー」
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