【写真】歳を重ねるごとにより一層美しさを増す南果歩の撮り下ろしカット【10点】
――最新エッセイ集『乙女オバさん』を書いたきっかけから教えてください。
南 以前も2冊エッセイを出しているんですが、いずれも連載をまとめたものでした。今回はプロデューサーの方からフォトエッセイを作ってみませんかというお話があって、書きたいことはたくさんあったので挑戦してみようと思いました。
――出自、2度の結婚、 突然の病、 大切な人との別れなど、赤裸々に過去と現在を綴られています。
南 幼少期から、いろんなことが起こる人生でしたから(笑)。インタビューではなかなか話さないようなことも、文章だったら伝えられるかなという部分と、書くことで心の中を整理する部分もありました。書くことで前を向けるというか、「さあ、ここから!」という新たな自分のスタートというか。今回のコロナ禍で、苦しさを覚えたり、出口を見つけられなかったりしている方が、たくさんいると思うんです。私も時折、そういう状況に陥ったりするんですけど、それでも生きていると面白いことも起きるんだという気持ちが、文章を書く衝動に繋がりました。
――書き始めたのは、いつ頃ですか?
南 去年の春頃です。当時は仕事もストップしていたので、書き出す前から、いろんなことを考える時間が多かったんです。
――南さんが小学2年生のときにお父様の会社が倒産、家が人手に渡ってしまい、一家はお風呂のない文化住宅に住むことになります。その時期に、叔母さんの家で夕飯を食べることになり気が引けたと綴られていますが、小さい頃から周りに気を配るほうだったんですか?
南 すごく気を遣う子どもでした。幼少期の家庭環境もあったと思うんですけど、習性として身に付いてたかもしれないです。
――5姉妹の末っ子というのも大きかったですか?
南 そうですね。4人も姉がいるので、上手く切り抜ける姉もいれば、ちょっと不器用な姉もいる。愛嬌のある姉もいれば、誤解を招きやすい姉もいる。いろんな例を見せてもらえたのが大きかったです。だから小さい頃は、親に怒られるようなこともしなかったです。まあ成長するにつれて、好きなことをやっていたので心配はかけていましたけど。
――昔から読書好きとのことですが、家族が多い中で一人の時間を作るのは難しかったのではないでしょうか。
南 とにかく家の中は人が多かったんですけど、だからこそ周りに人がいても、読書でも試験勉強でも集中できました。
――むしろ周りに人がいないほうが苦手ですか?
南 それはありますね。基本的に外食は一人でできないので、友達か家族を誘います。人が好きなんですよ。たとえば初対面の方でも、「このTシャツはどこで買ったんだろう? 映画のキャラクターがプリントされているけど子どもの頃からファンだったのかな?」とか興味が湧くんです。電車に乗ったときも、とにかく人を見るのが好きですね。
――『乙女オバさん』を読んでいると、南さんは一貫して友達が多いなと感じました。
南 昔から友達は多いです。地元の兵庫にいた頃は、連絡もしないで友達のおうちに行って、友達がいなかったら中に上がって家族と一緒に待っていましたからね(笑)。スマホもない時代で田舎なので、それが普通だったんです。
――家の事情が複雑でも悲観せずに、その環境に合わせた楽しみ方を見つけていくのが印象的でした。
南 子どもだから辛さが分からないんですよ。後で振り返ってみると、大きい家からお風呂のないギューギューの文化住宅に引っ越しをして、絵に描いたような没落なんです。でも、それはそれで楽しくて、お風呂屋さんに行くのも面白かったんです。子どもって柔軟性があると思うんですよ。たぶん当時だって我慢していた部分はたくさんあったと思うんですけど、親に不平不満を言ったら可哀相だし、一生懸命やってくれているのも感じていましたから。
それが苦労といえば苦労かもしれないですけど、小さいときにそういう経験をしているのは強みでもあるんです。余計な苦労はしなくてもいいですけど、何一つ無駄な経験はない、どんな経験も自分の栄養になるんだと思っていて。
――周りの目は気にならなかったですか?
南 やっぱり広いおうちのほうが良かったですけど、そこから母の采配で文化住宅からちっちゃい一軒家、ほどほど大きい一軒家から、さらに広い場所へと、ちょっとずつおうちが大きくなっていきました。そのときに母はすごいなって尊敬の念も湧いてきましたし、そもそも人と比べない性格なんです。この人はいいなとか、あまり感じないんですよ。
――このお仕事を始めてからも人と比べることはなかったんですか?
南 ないですね。それをやってしまうと、自分のマイナス部分ばかり感じるようになるじゃないですか。あの人に比べて私は背が低いとか、目が小さいとか……。ありがたいことに俳優業は、いろんな人がいていいんです。いろんな人がいるべきだし、若ければいいってものでもないし。その年齢に応じた人間を演じる訳だから、ずっと楽しい仕事なんです。素敵な先輩方とも共演をさせていただける機会が多いので、10年先、20年先、どういう風に年齢を重ねて、どういうものができるかと考えただけで楽しみです。次に進もうという気持ちが強いんでしょうね。
――若い俳優さんが、その境地に達するのは難しいのではないでしょうか。
南 私の場合、若いときは必死過ぎて、周りが目に入らなかったのもあって人と比べなかったんです。それに同じ役を演じたとしても、私たちは生体一つで表に出るので、別の方がやったら別物なんですよ。それに究極な話、「役が俳優を選ぶ」と思っています。役との巡り合わせなんです。だから「やりたい!」と思って、やれなかった役もあるんですけど、それは縁がなかったと思って、そこに固執しないですね。(中編につづく)
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