HKT48の松岡菜摘が8月31日の卒業公演をもって、グループを卒業する。中学生でHKT48に加入し、1期生として、またチームHのキャプテンとして後輩たちを引っ張ってきた。
なぜこのタイミングで卒業を決意したのか、そして11年間のアイドル人生を振り返って改めて感じる思いや、後輩へのメッセージなど、たっぷりと語ってもらった。

【写真】HKT48を卒業する松岡菜摘【7点】

7月2日、松岡菜摘は劇場公演で卒業を発表した。

1期生として、これまで数えきれないぐらい卒業発表の瞬間に立ち会ってきたし、キャプテンという立場上、泣き崩れてしまうメンバーをフォローしながら、その場を綺麗におさめるようなこともたびたびしてきた。でも、自分が卒業を発表する立場になったら、そんな経験値はまったく役に立たなかった、という。

「まだ卒業する実感も沸いていなかったんですけど、アンコールの1曲目から心ここにあらず状態でしたね。なにをしゃべったらいいのかもわからないし、だからといってソワソワしていたらバレちゃうじゃないですか? そうこうしているうちに発表の瞬間がやってきて……やっぱり泣いちゃうもんなんですね」

その直前、曲の最中に田中美久と見つめ合うシーンがあったのだが「すでにみくりんは卒業に気づいていたのではないか?」とファンが指摘するほど、彼女の視線はいつもと違っていた。
そして、松岡菜摘も無言のうちに返答しているかのように見えた。

「美久は私の変化に気づいていたんでしょうね。あの日は公演前から楽屋で『卒業しないよね?』と話しかけてきたりしたんですよ。で、曲のラストでもじーっと私を見つめてきて、まるで『このあと卒業発表するの?』って聞いてきているようだったんですよ。ここでウソをついても数十秒後にはバレるので『うん、そうだよ』と視線で語りかけました。たしかに配信で見たら、いつもとは違いすぎるシーンだったと思います」

1期生は加入してから約11年、ずっと最前線を走ってきた。


昨年、10周年を迎えるタイミングの前後から卒業するメンバーが増えてきた。いや、他のグループでこんなにたくさんの1期生が10周年まで残っていた例はない。アイドルを10年続けるというのは当たり前のことではないし、卒業するための節目としては申し分ないわけで、多くのメンバーが卒業していくであろうことはファンも感づいていた。そして、松岡菜摘もそこが卒業のタイミングである、と心に決めていた、という。

「いつぐらいからですかね、自分の中でここまで歴史をつくってきたグループの10周年は見届けたい、という気持ちが大きくなってきたんですよ。だから、本当は10周年記念公演が終わってから発表して、今年の年明けには卒業するつもりでいたんです。


ところが10周年記念公演のサプライズで、2021年4月からツアーの開催が決定って発表されたじゃないですか? 私、あの告知映像をステージの上で見ながら『あぁ、これは出たいな』って思っちゃったんですよ。まだ卒業を発表したわけではなかったので、いくらでも変更できるじゃないですか(笑)。それでスタッフのみなさんと話し合って、ツアーが終わってから卒業します、ということに決まったんです」

ツアーがはじまる前に取材をしたとき、すでに松岡菜摘の言動は変わりはじめていた。このツアーではいろいろなことを後輩に任せたい、と言い、さらには「入ったばかりのころの気持ちに戻って心から楽しみたい」とまで断言した。これは卒業を前提にしたものだったのだろうか?

「はい、そうです。まだ発表していなかったので遠回しな表現になっちゃいましたけど、心から楽しみたいというのは、卒業前の『思い出づくり』という意味ですよね。
いままでキャプテンという立場でなかなか自由にできなかったことも多かったので、みんなにお任せてして、自分のために楽しもうって。

たしかに私がコンサートのはじめとおわりの挨拶をしていますけど、それはそういう役回りだからであって、私じゃないとできないというわけではないんですよ。次のコンサートでは、別のメンバーがしっかりとその役回りをこなしているはず。だから、なんの心配もしていないし、安心して卒業を発表できたんです」

MCに関しても春に取材をした時点で「チーム公演のMCは渡部愛加里ちゃんに任せているから大丈夫」と語っていたが、たしかに突然の卒業発表にも混乱することなく、しっかりと公演を締めくくってみせたのは渡部愛加里だった。ツアーでもラストの楽曲前の大煽りは矢吹奈子が担当。序盤は「私、こういうの苦手なんですよ」とグダグダになることが多かったが、途中から「そんなことは言っていられない」とビシッと締めるようになった。
卒業発表後のツアーファイナルでは、確実に「次のコンサートにはもうなっちゃんはいない」と意識していたのだと思うと、いろいろと感慨深いものがある。

「ツアーファイナルで秋のコンサートが発表されたときに、はじめて卒業を実感したというか、あっ、ここにはもう私はいないんだ、寂しいなぁ~って気持ちになりました。ただ、卒業するにあたって後悔みたいなものはないんですよ。11年間、やりきりましたから。ただ、これは後悔とはちょっと違うんですけど、5月に6期生がお披露目されて、ここにきて、一緒のステージに立つようになってから『もうちょっと6期生と一緒にやりたかったな』って。心残りではないんですけど、ああしたい、こうしたいが出てきちゃいましたね。
それを言い出したら、いつまでも卒業できなくなっちゃうんですけど(笑)。

本来、私は人見知りなので後輩にもなかなか声をかけられないんですけど、6期生に対しては卒業発表からの短い時間で相当、距離を縮めました! 小学生メンバーとLINEしていますからね、アハハハ!」

こうやって1期生が残っているうちに加入できたことは6期生にとって大きな財産である。実際「いまのうちに1期生さんから盗めるものは盗んでおきたい」と語る6期生もいるし、松岡菜摘が距離を縮めたというのも、そういう想いを汲み取ってのことだろう。

7月23日に福岡市民会館で開催されたツアーファイナルでは、卒業していく松岡菜摘と神志那結衣をフィーチャーしたコーナーが設けられただけでなく、サプライズとしてメンバーがふたりだけに曲を贈る一幕もあったのだが、どのメンバーも号泣して、もはや歌うレベルではなかった。特に同期の下野由貴と後輩の松岡はなの泣きっぷりは激しく、当事者である松岡菜摘のほうが冷静に見えてしまった。

「ちょっと! 私だって感動して泣いてましたからね! まぁ、たしかにあのふたりと比べるとおとなしく見えたかもしれませんけど、けっして、意識して涙をこらえていたわけではないんですよ。ただ、みんなが歌っているときに全員の顔を見たかった。全員の表情を目に焼きつけておきたい、という気持ちが強かったから、大泣きしなかったんじゃないですかね? 

はなに関しては泣いている姿を見て、ちょっと安心しました。最近、あの『男梅』と呼ばれるような状態になっているはなの姿、見なくなったじゃないですか? さっしー(指原莉乃)が卒業してから、ずっと気が張っていた部分もあったんだと思うんですよね。ああやって感情を激しく出してくれたことで、あぁ、きっと大丈夫だなって。

逆に心配なのは(下野)由貴ちゃんですよ。後輩といるときはしっかりしているのに、同期だけになると、いままで見せてこなかった『末っ子気質』がどんどん出てきちゃって。同期の数が減るごとにそれがひどくなっている。(本村)碧唯は昔からは想像できないぐらいしっかりしたので安心しているんですけど、とにかく残った1期生にはとにかく楽しんでって言いたいです。あとは自分のために時間を使ってね、と」

ある意味、精神的支柱だった松岡菜摘が卒業することで、少なからずメンバーの気持ちに変化は生じるだろうし、秋のコンサートからは役割や立場もきっと変わってくる。昨年からずっと言われてきたHKT48の「新章」は松岡菜摘がいなくなってからの第一歩目のことを指すのかもしれない。

「私はHKT48に入って、本当によかったと思います。ネガティブで人見知りで根暗な私が変わることができたのはHKT48のおかげですから。正直、私は王道なアイドルじゃなかった。アイドルとしてたりない部分もたくさんあったんですけど、HKT48というグループは個性を尊重してくれるというか『アイドルなんだから、こうしなくちゃダメだ!』と強制するんじゃなくて『このままでいいよ』と自然体でいることを許してくれた。自分の形を見つけるために時間はかかっちゃいましたけど、それは同期に(宮脇)咲良というすごいアイドルがいたから見つけられたんだと思います。全員が同じじゃ輝けない、ということを教えてくれたし『自分は自分』でいいんだ、と。HKT48に入っていなかったら、まったく違う人生だったと思います」

気になる卒業後の進路だが、まだなにも決まっていない、という。

「とりあえず芸能活動はしない方向です。もともとは芸能界に入りたい、タレントさんになりたい、と考えて、そのための近道としてHKT48のオーディションを受けたんですよね。博多に住みながらにして芸能界に近づけるんだって。本当に通過点として考えていたのに、活動を続けていくうちにグループのことが好きになりすぎてしまって。でも、やりたかったことは全部、できたと思っています。私、中学生からHKT48だったので、HKT48じゃない自分がまだ想像できないんですよねぇ~」

このあとの予定がなにも決まっていないからこそ、卒業のタイミングもフレキシブルに移行できた、ということになる。なにかやることが決まっていて、当初の予定通り、年明けに卒業していたら、6期生との交流もいっさいなかったわけで、オーバーではなく今後のHKT48の歴史がちょっと変わっていたかもしれない。グループの立ちあげから関わり、指原莉乃の卒業後はHKT48全体のまとめ役として、コロナ禍での厳しい時間もずっとグループを牽引してきた。きっと苦しい思いもしてきたことだろう。

「いや、苦しいと思ったことはないです。とにかく11年間、楽しかったのひとことですよ、私のアイドル人生は。まだ卒業公演がどんなものになるのかわからないですけど、終わったあとに『楽しかった~』と言っている私の姿だけはハッキリと想像できますから!

ただファンのみなさんには申し訳ないというか、せっかく応援してくださったのに、こうやって私のタイミングで姿を消してしまうのは心苦しいですね。でも、私のファンの方ってまずHKT48が大好きで、その中で私のことを応援してくださっている方も多いので、これからもHKT48を好きでいつづけていてほしいなって思います。この11年間、本当に感謝しかありません。残り少ない時間ですけど、たくさん思い出を作りましょう!」

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