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「PPVは売上の相当数が当日。したがって蓋を開けてみないとわからない」と慎重な姿勢を示しつつも「現段階の反響としては、過去のPPVの中でも1番目か2番目。勢いでいえば、THE MATCH 2022に近いのではないかという手応えもあります」そう語るのは、ABEMA格闘chエグゼクティブ・プロデューサーの北野雄司氏だ。北野氏にメイウェザーVS朝倉未来戦のビジネス的展望と、変わりつつある格闘技中継の今を聞いた。
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2018年の大晦日に開催された那須川天心とのエキシビジョンマッチでは、メイウェザーのファイトマネーは11億円だったとも言われる。今回、メイウェザーにファイトマネーを支払うのはRIZINで、その金額がいくらなのかはABEMA側には分からない。
「ただ、その額が高いことは仕事をしていると嫌でもわかるんです。だから責任は感じます。
PPVビジネスはシンプルだ。番組の値段×購買者数=売上。そこから必要経費を引いて、契約書で決められた割合をRIZINに支払う。RIZIN側からすると、他にも会場チケットの売上などがあり、ABEMAから支払われる配分金などは全体のあくまでも一部。だが、相当大きな割合を締めていることは間違いない。
「PPVは直前のムードがどれくらい盛り上がっているかが重要で、そこは我々としても必死で頑張っているところ。広告もかなり出しているし、番宣となるコンテンツも自前で作っている。たとえば通常ならメイウェザーは試合直前に来日するけど、今回は事前に来てプロモーションすることになっている。会見の様子、空港から降り立つ姿、試合当日のホテルから会場入りするまでの光景……可能な限りメイウェザーをカメラが追い、盛り上げていきたい」(北野氏/以下同)
北野氏にこれまでの密着取材を通じて感じたメイウェザーの印象について聞くと「すごく頭がいい人」という言葉が返ってきた。
「世界のPPVの歴代セールスの上位は多くがメイウェザー関連。インタビューでその秘訣について聞いたんです。
一方で朝倉未来に対しても「単なる不良上がりのファイターでは決してない」と北野氏は断言する。自身もプロデューサーという立場でありながら、「朝倉選手のほうがよっぽどプロデューサー」と脱帽している様子だ。
「プランナーとしての能力に長けていますよね。2人とも従来のアスリート像から逸脱しているし、自分できちんと演出できる選手が上に来る時代になっているんでしょうね。今のスポーツ界は完全に“個”の時代。どうやって自己プロデュースするかが選手も問われているんだと思います」
今回のメイウェザーVS朝倉未来戦は「すごく今日的なコンテンツになるのでは」という。これまではボクシングの世界タイトルマッチなど、競技として価値があるコンテンツが格闘技ヒエラルキーのトップにあった。だが……。
「アメリカではYouTuberのローガン・ポールが、世界タイトル戦のあとにメインで試合をしてPPVで大きな売り上げを出している現状がある。コアなボクシングファンからはアレルギー反応が出るかもだけど、『なにか非日常的なものを見てみたい』というピュアな野次馬根性を持つファンがPPVを買っているのは事実です。
変わりつつあるのは、選手側だけではない。中継側も同じだ。これまで格闘技のビッグマッチは「地上波放送ありき」で成立してきた歴史がある。だが、那須川天心と武尊の「THE MATCH 2022」では、開催直前になってフジテレビが中継から撤退。生中継はABEMAでのPPVのみとなったが、蓋を開けてみれば、50万件以上購入され、その売上は単純計算で25億円以上と想像できる。
「THE MATCH 2022」製作実行委員会の榊原信行氏も大会後の会見で「一気に時代が動きました。格闘技界の新たなビジネススキームが誕生したといっても過言ではないと思います」と指摘したほどビジネス的に成功を収めた。
だが、北野氏は「THE MATCH 2022」を機に格闘技放送は地上波からネット配信に主戦場が移ったという見方は違うのではないかと指摘する。
「もともとRIZINの地上波放送は年に2回程度。すでに地上波で格闘技をやる時代ではなくなっているという前提がある。これはボクシングが地上波からネット配信に移行していることも含め、世の景況やメディアのビジネスモデルが栄枯盛衰的に変化しているということで受け止めるのが正しいのではないでしょうか」
「THE MATCH 2022」一夜にして変わったわけではなく、それ以前から変わりつつあり、今もまだ過渡期だというのだ。
「格闘技界全体を見ても、まだPPVで稼げるスターというのは限られていて、たとえばですが朝倉未来選手、那須川天心選手、武尊選手、井上尚弥選手、村田諒太選手……仮にこの5人だとします。でもこの5人のほとんどは地上波で名を成した存在ですよね。5人のPPVが売れているのは、彼らが地上波から来たスターだから。もちろん朝倉選手のYouTubeなどは別に考えなくてはいけないんだけど、ボクシングは地上波の世界戦で存在を知ったという人がほとんどだと思うんです」
PPVの売上を上げられる選手を作ったのは地上波。だからまだ主戦場が移ったとは言えない。
「今は格闘技のスターが引越ししている最中なんですよ」(北野氏)。そんな過渡期でのABEMAとして課題は、いかに自前で新たなスターを作るかだという。
「『どうやって無料粋でスターを作るか?』がテーマですね。ABEMAとして一番頑張らなくてはいけないのは無料の生中継。そこでスターを作りたい。また、選手のYouTubeなんかに対してもサポートは惜しまないつもりです。彼らのストーリーや日々感じていることを積極的に届けなくてはいけない。
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