長濱ねるさんの欅坂46卒業が発表された。
ねるちゃんはとても優等生で、想像力と創造意欲のある優等生で、優等生だからって誰かの気持ちを無視したり優位を押し付けたりしない優等生で。
ねるちゃんの憧れのアイドルは元乃木坂46の伊藤万理華さんと、おそらく建前的にあまり発言することはなくなったが、初期にはLADYBABYの金子理江ちゃんが好きで同じ美容室に行ったと発言していた。
その2人とも、自由で、人間に対して分け隔てなく接することができる、素晴らしい女の子で、この2人がいなかったら一体何人の女の子が女の子をすることに対して臆病だっただろうと思う前衛的でアーティスティックな存在である。
その2人に憧れ、こんな子が女の子を貫くなんて最強すぎるなというねるちゃんが、「アイドルになりたい!」と何のてらいもなく笑ったその地元の長崎で撮影したVTRを『欅って、書けない?』という番組で見たときに、私は恋をした。
愛する要素しか見当たらないこんな子が、愛を求めてくれることの必然性。「愛されたい」という欲動のまま生きてくれることに興奮した。
学校でも優等生だったねるちゃんは、なんだかんだ言って先生は問題児の方に手をかけるので、そういう子に嫉妬していたとブログに書いていたことがある。
欅坂46というグループは、この問題児的な感情を拡張して表現している部分があり、メンバーが秋元康さんにインスピレーションを与え、そうして完成した楽曲もまた若いメンバーの心に影響を与え、禍々しくも美しい、DOPEなアイドルを作り上げた。
それは私の理想にも少し似ていて、なおかつ私の活動より途方もなく大規模で、幾つの孤独を肯定しているのだろうと羨ましくもなり、「私の活動って意味あんのかな?」まで思った。
そんなグループの中に長濱ねるという人間がいることが、どれほどの救いであったか分からない。 問題児的な感情の渦中で、その感情に嫉妬しながら抱擁する存在が光っている。
頑張ってることがダサい、という今の若者の風潮がある。「アイツやってんな~」と自分を過剰に魅せる人を嘲笑する。
ねるちゃんは、“頑張ってる”をあたりまえにこなすことによって、その今っぽい風潮の中ですら、頑張ってる感なく死ぬほど頑張り続けたメンバーだ。だからいつだって完全に信頼して応援できた。頑張ってないことや、納得いってないことをやってるのを、心から支持しようとはやっぱりなれないから、頑張ってる人を見ていたいっていう気持ちがどうしてもある。
でも頑張ってない人だって、そりゃ面白いんだよなあ。こだわりの頑張りどころが違うだけだったりもするし。その面白さが消えないのも望んでいて、その上で応援もしたい。ねるちゃんの存在が欅坂46というグループを心から応援させてくれた。
アイドル、お疲れさまでした。世界平和が目標のねるちゃんは欅坂46の活動を通して、どんな平和を好きになりましたか。いつかまた見せ合いっこしたいです。
おおもり・せいこ
1987年生まれ、愛媛県出身のシンガーソングライター。重度のハロヲタ。最近は欅ヲタとしても活動中。道重さゆみとコラボしたニュー・シングル『絶対彼女 feat.道重さゆみ』が発売中!
(『月刊エンタメ』2019年5月号掲載)