湊かなえ氏の同名小説を、廣木隆一監督が映画化した『母性』が現在絶賛劇場公開中だ。ある未解決事件の語り手となる母娘を戸田恵梨香永野芽郁が演じており、その2人の演技力と存在感は圧倒的。
エンドロールが終わったあと「母性とは何だろうか」と考えずにはいられなくなる、この衝撃作に込められたメッセージとは?

【写真】戸田恵梨香と永野芽郁の新境地・映画『母性』場面写真【12点】

人間や動物には、「母性本能」というものがある。それを当たり前のように、受け入れて私たちは生活し、当たり前のようにそのワードを発しているわけだが、そもそも「母性」とは何だろうか。

全ての人間、動物が同じ母性を持つことなどありえない。それは生活環境や価値観によって、独自のものに形成されていくはずだ。その過程で屈折し、母性と信じているものが、他者から見た場合に「異常性」を感じないとも限らないのではないだろうか。

またその「母性」というものはデリケートなものであり、ちょっとしたこと、何気ない言葉が大きな影響を及ぼすことだってあるのかもしれない。


当たり前のように使っている言葉の意味を改めて考えてみると、見えなかったもの、見ようとしていなかったものが見えてくるだけではなく、その根底にある闇も浮き彫りにされてしまう。

映画『母性』では、「母性」というものに葛藤し、押しつぶされてしまう主人公を戸田恵梨香が恐ろしいほどに体現していて、その演技は戸田恵梨香出演作品の中でも極致に達している。どんどん顔が痩つれていく様は、その表情の中に、愛しているのに愛せない……そんな狂気と悲しみが共存しているようだ。怖いというよりも切ない。何が彼女を変えてしまったのだろうかと思うと、胸が締め付けられる思いに駆られる。

そこに追い打ちをかけるように、子の視点して説得力をさらに加えるのが、『そして、バトンは渡された』(2021)や『マイ・ブロークン・マリコ』(2022)など、話題作にひっぱりだこの永野芽郁の存在だ。


母を愛しているのに、愛してもらえない……。心の底では愛してくれていることはわかっている。しかし、それを表に出せない母の姿を見るのも辛いし、自分自身も母の境遇を理解していながらも、ときにはわかりやすい愛で包んでほしいと願ってしまう。

そんな様々な葛藤がにじみ出るような役どころを永野は見事に演じている。主演映画『マイ・ブロークン・マリコ』でも新境地を切り開いたばかりなのに、この短いスパンで更なる境地を見せつけてくれた永野の演技の幅にも驚かされるばかりだ。

今作が特徴的なのは、子と親の目線を交互に描いていることだ。
それによって子が考える「母性」と親が考える「母性」のすれ違いを繊細にも残酷に描きながら、また親もかつては子だったわけだと感じさせる。

そんな生命のサイクルをサスペンステイストで描いているものの、それは私たちの周りにある、ごくごく普通の光景であるのかもしれない。そう考えれば、考えるほど、私たちにとって、一番身近な闇であるとしか思えなくなってくる。

人間や動物にそなわる「母性」とは一体何なのかを改めて考えさせられると同時に、「母性」の構築において、教育と価値観の重要性も秘めた重圧で濃厚な作品。それでいて、今作を観た後では、「母性」という言葉を簡単に使えなくなってしまうかもしれない……。

▽『母性』作品情報

女子高生が自ら命を絶った。
その真相は不明。事件は、なぜ起きたのか?普通に見えた日常に、静かに刻み込まれた傷跡。愛せない母と、愛されたい娘。同じ時・同じ出来事を回想しているはずなのに、ふたりの話は次第に食い違っていく。母と娘がそれぞれ語るおそるべき「秘密」。2つの告白で事件は180度逆転し、やがて衝撃の結末へ。
母性に狂わされたのは母か?娘か?この物語は、すべてを目撃する観客=【あなたの証言】で完成する。

▽クレジット
監督:廣木隆一
脚本:堀泉杏
出演:戸田恵梨香、永野芽郁、三浦誠己中村ゆり山下リオ高畑淳子大地真央ほか
原作: 湊かなえ『母性』(新潮文庫刊)
主題歌:JUJU「花」(ソニー・ミュージックレーベルズ)
音楽:コトリンゴ
製作:映画「母性」製作委員会配給:ワーナー・ブラザース映画
公式サイト:bosei-movie.jp
(C)2022映画「母性」製作委員会公式
11月23日(水・祝)全国ロードショー

【あわせて読む】戸田恵梨香が『VOCE』表紙で圧巻の美貌を披露「美しさを育むのは知識だと思う」