年に1度、結成15年目までの芸人コンビが、漫才日本一を決める賞レース、「M-1グランプリ2022」が、12月18日(日)に開催される。毎年お笑い好きたちが注目する祭典であり、年々国民的イベント級の盛りあがりを見せている。
今回、M-1グランプリ2015~2018年連続ファイナリストであり、M-1をこよなく愛する“M-1ご意見番”かつ“M-1に取り憑かれた男”の異名を持つスーパーマラドーナの武智を直撃。大会を例年見たり見なかったりのライトユーザーや、「全然見たことないです」というM-1素人の視聴者に向けて、今年のM-1が何倍も楽しめる術を聞いた(前後半の前編)。

【写真】M-1に取り憑かれた男・スーパーマラドーナ武智

まず前提として知ってほしいのは、M-1の一番の面白さは、芸人にとっての本当の真剣勝負だというところです。スポーツに近いかな、今ならそれこそワールドカップとか。競技漫才には競技漫才の楽しみ方があって、しかもM-1はめちゃくちゃシビアに点数まで出して、上下を決める。真剣さ、ヒリヒリ感みたいなのを楽しんでもらいたいなと思います。

やっぱり、優勝したら人生が変わるんで。例えば2019年に優勝したミルクボーイなんて凄かったですよ。優勝するまでは、大阪のなんばグランド花月っていう吉本の劇場で、漫才や新喜劇の本公演の前説で、セーラー服を着て踊ったりしてたんです。ただ場を温めるだけ、もちろん本公演で漫才なんかさせてもらえるわけもなく、安いギャラで踊って家に帰る。それがミルクボーイの日常やった。でも優勝して、全国ネットだCMだと活躍してて。
今では大阪でもレギュラーを抱えて、安定した生活を送っている。一撃必殺ですよ。

僕自身もそうでしたけど、M-1に出る出ない以前に、結婚して嫁子供がいるってケースもけっこうあるんですよ。家族のためにバイトもせなあかんかったり。そういう生活では、チャンスらしいチャンスはなかなか巡ってこない。でも、唯一自分の力でつかめるチャンス、それがM-1なんです。それは力が入りますよね。だからみんな、自分たちの一番いいネタをぶつけてくる

ネタは、直前でポッとできて「このネタで行けるわ」みたいなことには絶対になりません。磨きに磨かないと、決勝に進めるようないいネタはできない。だから、たとえば今年のオズワルドなんか、下馬評では本命視っされながら準決勝敗退だったのは、去年より一気に忙しくなって、そういうネタ磨きの時間が以前より取れなかったのが影響したんじゃないかなとも思います。

僕らも15年から4年連続で決勝に出させてもらいましたが、最後の年はけっこう忙しくて、仕事で朝から晩まで働いて、帰って晩から朝までネタを考える、みたいな感じでした。ネタを考える時間が相当削られていた。
オズワルドなんて、忙しさは僕らの比じゃないと思うんで、相当苦労したんちゃうかな。もちろん彼らも、敗者復活に向けて諦めずにやって来るとは思いますけど。

どれくらい芸人たちがM-1にかけているか、そういうヒリヒリした感じを知りたければ、今年の放送までに過去のM-1決勝を見返すのがいいと思います。今の時代、「Netflix」や「Amazon Prime」で、過去回のアーカイブが見られますから。「忙しくて2時間も3時間も見てられへんわ!」っていう方は、オープニングの10分間だけでもええんで。特に最近の大会のオープニングは作りこんでいて、芸人の真剣さがよく伝わる映像になってますから。

時間がある方には、2003年(優勝=フットボールアワー)、05年(ブラックマヨネーズ)、09年(パンクブーブー)あたりをお勧めしたいです。あとは15年(トレンディエンジェル)、16年(銀シャリ)かな。特に16年に関しては、僕らスーパーマラドーナがいい成績だったので、ぜひ見ていただきたい(笑)。ただ、ミルクボーイの19年だけは、M-1の歴史上で一番の「神回」なんで、先にそれを見ると他の年や今年の大会が物足りなくなるかもしれない。気になる他の年の後で見るといいでしょうね。あの年の決勝は展開から何から完璧な、ドラマだらけの極上のドキュメントなので。


M-1という賞レースや、出場コンビの歴史。あるいは、視聴者にとってはただの年末の特番でも、当事者にとっては1年間ここを目指してやってきた晴れの舞台であること。そういうことを知ってもらったうえで放送を見ると、ネタの出来以上に、よりM-1を楽しむことができると思いますね。

【後編はこちら】“M-1ご意見番”スーパーマラドーナ武智が予想する今年の優勝候補は?「敗者復活枠がかき回してほしい」
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