井上 私は今、19歳なんですけど、稲田さんが同じ歳のときは早稲田大学に通う大学生だったと聞いています。どんな学生だったんですか?
稲田 ボーッとした学生だったと思います(笑)。井上さんと違って政治にはまったく興味がなかったし、とにかく初めての1人暮らしが楽しかったですね。京都の高校から東京の大学に進んで、下宿して。
井上 えっ、1人暮らし楽しかったんですか?
稲田 うん。楽しかったです。どうして?
井上 実は私、昨年の4月から1人暮らしを始めていて、今はちょっとさみしいなって思う日もあるんです。
稲田 私と逆なのね。例えばどんなとき?
井上 基本的に自炊しているんですけど、だんだん1人の食事が栄養補給のように感じられちゃって。たまに人とごはんを食べると、“ああ、食事している”と感じるんです。そういうことってなかったですか?
稲田 なるほどね。
井上 可愛いですね(笑)。先ほど政治に興味がなかったとおっしゃっていましたが、政治家になったのは、何がきっかけだったんですか?
稲田 大学を卒業して、弁護士になってからも政治には本当に関心がなかったんですね。だけど、結婚した夫が産経新聞と『正論』という雑誌を購読していて。それを私も読むようになったんですね。そしたら、日本のこういうところがおかしいんじゃない? と思うようになって少しずつ政治に興味が出てきたんです。その後、子どもが産まれて、子育てのために仕事をセーブしていたので、空いた時間に新聞や言論誌に投稿を始めたんですよ。
井上 ニュースを観て、自分はこう思うのになぁとか、政治についての疑問とか、ですか?
稲田 そうですね。そしたら投稿を読んだ東京の高池勝彦弁護士(「高」は「はしご高」が正式表記)から連絡があって、南京虐殺に関する裁判(「李秀英」裁判)を一緒にやりませんか? と言っていただいて。それからですね、政治に目覚めたのは。
井上 新聞と雑誌を読んで興味を持って、子育て中に投稿をして。それがなかったら……。
稲田 政治家にはなってなかったですね。
井上 弁護士のお仕事されていたときと今、どっちが楽しいですか?
稲田 弁護士から政治家に転身する直前は「百人斬り報道」名誉毀損訴訟に携わっていて、今から考えると政治活動そのものだったんですね。講演をし、執筆をし、その延長線上に今の政治家の生活があるんだなと思います。弁護士の仕事はすごく楽しかったんですけど、政治家になってから視野が広がりましたね。それはLGBTの問題だったり、外国人労働の問題であったり、もしかしたら政治家になっていなければ、こういう考え方にはならなかったかもしれないと思うこともあります。
井上 政治の世界に入って驚いたことはありますか?
稲田 それは選挙や地元での活動など、政治家としての生活に入っていったときはカルチャーショックがありました。選挙に向けて、自分の顔を大写しにしたポスターを街中に貼るなんてね(笑)。弁護士だったら考えられないし、やっぱり恥ずかしさはありましたよ。
井上 こうやって議員さんに取材していて、びっくりしたのが国会議員には年金制度や退職金がないということでした。
稲田 私も最初の頃は、ちょっとした批判記事を見かけるだけでものすごく落ち込んでいました。でもね、もう慣れました。ここまで批判されると(笑)。もちろん、うれしくはないですよ。今も嫌だなと思うことはたくさんあるし、いつ失職するか分からないということも考えます。一寸先が闇ですからね、この世界。職業として考えると、非常に不安定な面もあります。それでも、一弁護士で発言することと、一衆議院議員として発言することでは、重みがまったく違います。問題意識を持ち、問題を提起したことについて社会を変えていける力があること。議員の仕事にはそういう意味でのダイナミックさ、やりがいがあると思います。
井上 政治家になったことを後悔はしていませんか?
稲田 それはまったく。
井上 政治の世界に入ってから、何かを変えていくことができた、こうやって変わっていくんだ、と実感されたのはどんなときですか?
稲田 印象的なのは、2014年に自由民主党政務調査会長を務めたときですね。自分がこれをやるべきだと思うことの会議体を党内に作ることができました。例えば、LGBTの当事者の方々が自分らしく、人として尊重され、活躍できる社会を実現するため、「性的指向・性自認に関する特命委員会」を設置しましたし、慰安婦問題を念頭に「日本の名誉と信頼を回復するための特命委員会」も立ち上げました。右も左も両方と思われるかもしれませんが、私はまっとうな保守政治家でありたいと思っていますから。保守の政治というのは、多様性を認めることです。LGBT問題以外にも、歴史問題や外国人労働などについて自民党内で議論する場を作れたのは、政治家としてやりがいを感じました。
井上 LGBTについて、杉田水脈議員の発言や論文が問題になりました。考え方は人それぞれありますが、少なくとも言い方が良くなかったんじゃないかなぁと思います。その点は同じ自民党の女性議員として、どう見ていますか?
稲田 LGBT理解増進法を作ろうとしたときにも感じたんですけど、党内でのLGBTについての理解はあまり進んでいません。病気や趣味という捉え方をしている人や、少子化につながると否定的な人もいました。しかし、これは人権の問題です。
井上 稲田さんはバラエティ番組など観ることもありますか?
稲田 昔から『探偵ナイトスクープ』(朝日放送テレビ)が大好き!
井上 ええ! 意外です。お笑いがお好きなんですか。
稲田 福井は関西圏ですしね。最近も娘が『М-1グランプリ』(テレビ朝日系)を録画してくれて、「面白いよ」とオススメしてくれる芸人さんをチェックしています。やっぱり笑うと気分転換になりますよね。
井上 好きな芸人さんはいますか?
稲田 リアルタイムで追ってはいないのでちょっと古いかもしれませんが、チュートリアルさん。以前M-1でグランプリを取ったネタがすごく面白かったの。
井上 ちなみに、(この対談の掲載誌)『月刊エンタメ』はアイドル雑誌なんですが、稲田さんにとってのアイドルって誰ですか?
稲田 アイドル! わぁ~アイドルといえば、昔はね、っていう感じですけど、郷ひろみさん好きでした。それから森田健作さん。今は千葉県知事ですけどね。
井上 女性だと?
稲田 松田聖子さん。けっこう長いこと聖子ちゃんカットをしていました。 聖子ちゃんカットって、今の子に分かるのかしら?
井上 分かんないです。
稲田 前髪で眉を隠して、サイドを外向きにして……。
井上 調べます! でも、稲田さんはネイルも綺麗にされていますし、ファッションにもこだわられていて、忙しいはずなのに本当にすごいですよね。時間の使い方がうまいなと思います。
稲田 ファッションは美容室に行ったときに雑誌を読んだり、娘から流行の情報を教えてもらったりしながら、好きなものを自然体で選んでいます。でも、時間を無駄にするのが嫌いなのは確かにあります。時間は有意義に使いたい。例えば、普段のお風呂とかはすごく短いの。さっと済ませて他のことを進めたい。だけど、サウナは好きだから本や雑誌を読みながら入ったり……とか、メリハリは大事にしていますね。
井上 批判にさらされて気分が落ち込んだときは、どうされているんですか?
稲田 2018年の夏からですけど、走ったり、歩いたりしています。朝は特にリフレッシュできますね。
井上 最後に、稲田さんがこれだけは絶対に実現しようと思っている政策はありますか?
稲田 なぜ、自分が政治家になったかと言えば、日本が名実ともに主権国家になるべきだという思いからです。ですから、憲法改正、安全保障政策はしっかりとやり遂げたいと思っています。
「取材を終えて」~井上咲楽の感想~
お会いするまでは、防衛大臣時代の日報隠し問題など窮地に立たされることが多いイメージで、一体どんな方なのかドキドキ。ところが、お会いしてみるととってもチャーミングな方で驚きました。特にプライベートの話になると、関西弁になるところが可愛いらしい! 外国人労働者の働き方については議論が続いていますが、どんな法律になっても稲田さんには変わらず人権を大切にしてほしいなと思います。
(『月刊エンタメ』2019年1月号掲載)
稲田議員が <新たに選挙権を得た若い世代> に読んでほしい1冊

『裏切られた自由』(ハーバードフーバー 著・渡辺惣樹 訳/草思社 刊)
ちょうど明治維新150年でもありますし、最近は歴史の本を読むことが多いですね。それこそ司馬遼太郎さんの幕末を扱った作品も好きですが、最近は渡辺惣樹さんという日本近現代史研究家の本をよく読んでいます。北米在住の方で、明らかになっている米英の史料をもとに〈なぜ、大東亜戦争に突入したのか?〉に迫った『戦争を始めるのは誰か』など、非常に面白く勉強になります。私自身、若い頃にもっと歴史を学んでおいたらよかったなと思うことが多いので、ぜひ、皆さんにも手に取ってもらえたらうれしいです。歴史からは物事の決断に至るまでの過程や思いがけない結果をもたらす不条理さを学ぶこともできますから。
▽井上咲楽(いのうえ・さくら)
1999年10月2日生まれ、栃木県出身。A型。
現在は『サイエンスZERO』(NHK-Eテレ)をなどにレギュラー出演中!
Twitter:@bling2sakura
▽稲田朋美(いなだ・ともみ)
1959年2月20日生まれ、福井県出身。
現在5期目の衆議院議員。防衛大臣や自由民主党政務調査会長などを歴任。
Twitter:@dento_to_souzo