【関連写真】乃木坂46 真夏の全国ツアーライブ写真
2022年12月31日は乃木坂46にとって大きな転機となる一日になった。1期生として11年間活動してきた齋藤飛鳥がNHK『紅白歌合戦』の出演をもってグループでの活動を終了したからだ(今年、卒業コンサートを開催予定)。
飛鳥の卒業後、最初の歌番組になる『CDTVライブ!ライブ!年越しスペシャル!2022→2023』(TBS系)で乃木坂46は『好きというのはロックだぜ!』を披露。飛鳥のポジションに久保史緒里が入り、センターの賀喜遥香を挟んで山下美月とシンメ(シンメトリー)になったことで、SNSに「くぼした」の文字が踊った。乃木坂ファンは、3期生の久保と山下のシンメという「現在の答え」に明るい希望を見出したのだ。
17年2月、前年9月に加入した3期生は舞台『3人のプリンシパル』で最初の試練を迎える。『3人のプリンシパル』は、二幕に出演する3役を獲得するために一幕で公開オーディションを受けるという形式の演劇公演だ。千秋楽までの15公演中、久保が11公演、山下が10公演に出演。くぼしたがトップ争いを繰り広げた。
しかし、8月にリリースされた18thシングル表題曲『逃げ水』で3期生からセンターに選ばれたのは、大園桃子と与田祐希だった。久保と山下は同シングルに収録された3期生曲『未来の答え』でWセンターを務めたものの、この時期は2人で朝まで泣きながらしゃべり、何度も励まし合ったという。
「秘めた可能性」を持つ与田と大園と比べて、『プリンシパル』で結果を出した久保と山下が「すでに完成されている」と見られることに、当時の山下は「まだまだ成長できるのに」と劣等感を抱えていた。
久保は「いま活躍されている先輩方にはそれぞれのストーリーがあるじゃないですか。どこかのタイミングで弾ける方もいるし、少しずつ積み上げていく方もいる。3期生だからといって誰かと同じ道を辿ろうとするのは違うのかもしれない」(『EX大衆』17年10月号)と、独自のストーリーを模索し始める。
そのひとつが、山下とのライバル物語だった。久保は「以前からシンメだった2人が、『プリンシパル』でさらに関係性ができたっていうのは、ずっと前から決められていたことなんじゃないかなって」(同『EX大衆』)と、その関係に宿命を感じていた。
山下も「『プリンシパル』を観たファンの方たちが『久保史緒里と山下美月はバチバチで、追って追われる関係なんだ!』と想像してくれて(笑)。私たちのこれからの長いアイドル人生を考えると、それってひとつの面白い出来事なんだろうなと思うんです。アイドルってエンタテインメントじゃないですか!」と語り、「2人はライバルなんですか?」と聞かれると「ライバル意識を持ってお互いを高め合っていける関係がいいと思って。でも、卒業したら親友になることができたらいい」(同『EX大衆』)と答えた。
久保と山下は、18年4月リリースの20thシングル表題曲『シンクロニシティ』で初めて選抜メンバーに入った。しかし、久保は体調不良によって『真夏の全国ツアー2018』を欠席し、21stシングルの活動を休止。
当時、山下に久保との関係について聞くと、「私もファンだった時はシンメになるメンバー同士の関係が好きでした。ひとりでも輝けるけど、シンメがいることで輝きが倍になることがあるじゃないですか」(『EX大衆』18年10月号)と、シンメの不在に寂しさを見せた。
久保は『真夏の全国ツアー2018』千秋楽(9月2日/ひとめぼれスタジアム宮城)のアンコールで復帰。22ndシングルはアンダーメンバーとして活動し、23rdシングル『SingOut!』で選抜復帰を果たす。しかし、そこに山下はいなかった。ドラマ撮影との両立が困難なため、23 rdシングルに参加することができなかったのだ。
24 thシングルで山下が戻ってきたが、久保は「逆に私が『お待たせ!』と言えるくらい自分を確立していることがベストだったんですけど、まだまだ足りなくて。私のやりたい映像のお芝居を経験して戻ってきた山下はめちゃくちゃキラキラしていたんです。また離されてしまって、『悔しいな』と思いました。もっと頑張らなきゃいけないですね」(『EX大衆』19年9月号)と話した。山下とシンメであり続けるには、自分が山下に追いつかなきゃいけない、と考えていたのだ。
その頃、山下は「久保ちゃんと私は正反対の人間なんだと思います」と話している。自身のことを「アイドルより芸能界のほうが向いてるんじゃないか」と分析する一方で、久保のことは乃木坂46(アイドル)に向いているが「優しすぎて『芸能界がツラい』と感じることがあるかもしれない」(『OVERTURE』No.020)と、まわりの言葉を受け止めすぎる久保を気遣った。
20年1月リリースの26thシングル『僕は僕を好きになる』は山下がセンターを務め、その隣には梅澤美波と久保がいた。
久保と山下は、意識しすぎて互いに一歩踏み込めない状態が続いていたが、コロナ禍に配信リリースされた『Route246』(20年7月)で距離が縮まる。山下から久保に「久しぶりのシンメだね。うれしい」と連絡したという(センターは齋藤飛鳥)。
「ずっと追いかけてきたやま(山下)からのメッセージに、『私も頑張らなきゃ』と思うことができました。あの連絡がなかったら、シンメになっても『比べられてしまうんだろうな』とネガティブな感情になっていたかもしれません。それからグッと仲良くなって、楽屋でもたくさん話しているんです。でも、今もやまの活動に悔しいと感じることはあるし、いつか追いつきたいと思ってます。ライバルじゃなくて、やまが原動力になっているんです」(久保史緒里/『EX大衆』21年10月号)
21年4月に山下がドラマ『着飾る恋には理由があって』(TBS系)に出演すると、6月には久保が舞台『夜は短し歩けよ乙女』に主演、10月には山下が『じゃない方の彼女』(テレビ東京系)と、それぞれのフィールドで活躍した。
22年5月14日、15日に行なわれた「10th YEAR BIRTHDAY LIVE」(日産スタジアム)の2日目、『今、話したい誰かがいる』で久保と山下のWセンターが実現。
久保は『乃木坂46のオールナイトニッポン』(ニッポン放送/22年5月18日)で、「(曲中)山下美月ちゃんがニコッとしてくれたんです。感動しちゃってウルッときちゃったんです。彼女もすごくこのWセンターを喜んでくれている気がして。私にとってものすごい思い出の一曲になりました」と素直に喜んだ。
山下は「10th YEAR BIRTHDAY LIVE」が終わるとすぐ大阪に向かった。NHK連続テレビ小説『舞いあがれ!』の撮影があるからだ。10月から『舞いあがれ!』が放送されると、山下は「久留美ちゃん」として広く知られる存在となった。
久保も9月に舞台『桜文』で主演すると、11月には主演映画『左様なら今晩は』が公開され、観る者を魅了した。12月20日、NHK大河ドラマ『どうする家康』に久保が出演することが発表されると、SNSでは祝福の声に加えて、「くぼしたが紡いできたストーリー」に対する賞賛が溢れた。
6年前の『3人のプリンシパル』を観たファンからの期待を、久保と山下はアイドルに必要なストーリーと捉えて、まさに“大河”にしてみせた。その“大河”は、彼女たちの一滴一滴の努力が成し遂げた結果なのだ。
2023年、くぼしたが乃木坂46を新しいフェーズに進めることだろう。
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