アップアップガールズ(プロレス)というユニットをご存知だろうか? ちょっとでもアイドルに興味がある方なら、すぐにピンとくるだろう。そう、アップアップガールズ(仮)やアップアップガールズ(2)の姉妹グループで、所属事務所も同じなのだ。
ただ、普通のアイドルとはちょっと違って、彼女たちはその名の通り、アイドル活動だけではなく、プロレスラーとしてリングにも上がっているのだ。今回、アップアップガールズ(プロレス)所属、インターナショナル・プリンセス王座の渡辺未詩を、元『週刊プロレス』の小島和宏記者が直撃。アイドル兼レスラー人生について、話を聞いた(3回連載の1回目)。

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アイドルとプロレスの融合はいまにはじまった話ではない。昭和の時代には人気女子プロレスラーが歌手デビューしてヒットチャートを賑わせるのが定番だったし、平成になると“かわいすぎる女子プロレスラー”が続々、誕生し、写真集がバカ売れした。近年では元アイドルからプロレスラーに転身するケースが急増中。アイドルとしてはセンターを張れなかったけど、チャンピオンとしてリングのど真ん中に立っているプロレスラーの存在はひとりやふたりではない。

ただアップアップガールズ(プロレス)は根本的に違う。最初からプロレスとアイドルを両立したい人材をオーディションで募り、ゼロから育成していくという前代未聞のプロジェクト。東京女子プロレスでのデビューも確約されており、2017年、発足時の煽り文句は「アイドルとして武道館コンサート、プロレスラーとして武道館のメインイベント」。そのオーディションに参加したのが、現在、インターナショナル・プリンセス王座のベルトを腰に巻く渡辺未詩だった。

「ちょうど高3の夏で進路を決めなくてはいけなかったんですけど、とにかくアイドルになりたくて応募しました。
あくまでもアイドルになりたいだけで、プロレスにはまったく興味はありませんでした。ただ、私、ももクロ(ももいろクローバーZ)さんが大好きで、ももクロさんってよくプロレスと関わっていたじゃないですか(コンサートに武藤敬司や天龍源一郎が登場)。だから、ももクロさんがこんなにもこだわっているってことは、きっとアイドルとプロレスって近しいものがあるんだろうなって。それでプロレスに対する不安感はグッと軽くなりましたね」

オーディションに合格した4名でアップアップガールズ(プロレス)は始動。当初はプロレスとアイドルの練習は同等におこなわれる予定だったが、プロレスは基礎が大事、ということになりプロレスの練習が週3、アイドルのレッスンは週1に。さらに週2回のジムワークも追加され、気がついたら、ほとんどの時間がプロレスに費やされるようになっていた。

プロレスラーとしてデビューするには、とにもかくにも地道な練習が必要。しっかりと受け身が取れるようにならないと、リングに上がれない。大技を食らったらケガをしてしまうことは必至なので、絶対に習得しなくてはいけない技術なのである。

もちろんデビュー戦でチャンピオンに、というサクセスストーリーも過去にはあるが、デビュー戦に至るまでは誰もが下積みを経験している。プロレスファンであれば、それはもう常識なのだが、まったくプロレスを知らずにこの世界に飛びこんでしまった渡辺未詩にとっては「?」の連続だった。

「もともとアイドルヲタクだったので、アイドルのレッスンの重要さはわかっていたんですよ。
すっぴんでジャージ姿でやっていても、このレッスンがステージに直結することを知っているから、汗すらもキラキラして見えるんですね。でも、プロレスの練習は……ちょっとホコリっぽいマットにひたすら背中を打ちつけることが、いったいなににつながってくるのかわからない。それに相手の技を受けたときにケガをしないために受け身は大事だって教えてもらったのに、そのあとドロップキックの練習をしたら、私が技をかけているのに、最終的は着地するときに受け身を取らなくちゃいけないじゃないですか? えっ、私、攻めているの? やられてるの? って頭の中がパニック状態で、もうなにをやっているのかわからなくなりました(苦笑)」

そのまま攻守逆転し、練習相手のドロップキックを食らったら、受け身がどうのこうのの前に、その威力と痛みで頭の中が真っ白になった。

プロレスとは、かくも難しい。

アイドルであれば、ものすごくかわいかったら、すぐに注目の存在になれるし、ちょっとしたきっかけがあれば一夜にして国民的ヒロインになれる可能性だってある。それと比べうと、プロレスはスターになるまで時間がかかるし、道場での練習はあまりにも地味で痛すぎる。実際、最初の何カ月かはプロレスを辞めよう、と渡辺未詩は考えた、という。

「辛いからとか痛いからっていうわけでもないんですよ。だんだんプロレスが好きになっていくのはわかったので。ただ、このままトレーニングを続けて、がっつり筋肉がついてしまったら、もうフツーのアイドルには戻れないかなって(笑)。辞めるなら、その前だなって思っていたんですけど、デビューして試合をするようになったら、そういう気持ちは薄れていって、1年が経つころには辞めたいって気持ちは完全になくなりました」

そこにはまったくプロレスに対する知識がない、というプロレスラーとしては不利な要素になりかねないバックボーンがプラスに働いていたのである。
 
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