『やんごとなき一族』での怪演、『復讐の未亡人』でのクールな姿と、多彩な演技で魅了する女優・松本若菜。昨年、大ブレイクを果し、充実の日々を過ごす彼女が2月25日の自身の誕生日に初のフォトエッセイ集『松の素』(KADOKAWA)を出版する。
好きなものとこれまでの足跡を詰め込んだ「おもちゃ箱」のような1冊だという本著について話を聞いた。

【写真】多彩な演技で話題、松本若菜の撮りおろしカット【10点】

変顔から替え歌まで駆使して土屋太鳳演じるヒロインを徹底的にいびり倒す『やんごとなき一族』での“松本劇場”と称された怪演、初主演ドラマ『復讐の未亡人』で見せたクールで妖艶な姿……松本若菜の作品ごとに魅せる多彩な姿は、視聴者に衝撃を与えると同時に、世界観へと惹きこんでいく。

昨年は地上波ドラマ9本、配信ドラマ4本と数多くの作品に出演。その活躍ぶりに、「2022年最もブレイクした女優」の呼び声も上がったほどだ。

今年に入ってからも『夕暮れに、手をつなぐ』(TBS系)、映画『マリッジカウンセラー』、『みんな生きている ~二つ目の誕生日~』の主要キャストを務める。今年で39歳、まさに今この瞬間が最盛期。しかし、当の松本は今の活況に驚きを隠せないようだ。

「確かに昨年は本当にいろいろな方たちに、一気に“松本若菜という人物”を知っていただけたうれしい1年になりました。毎年、少しずつステップアップしてきたことが形として表れてきはじめてくれた、というのでしょうか。様々な積み重ねの結果、たくさんお声かけをいただけたのかなって。

ただ、今もこうして取材の機会をいただけたり、バラエティ番組に出演した際に共演者の方から、『ドラマ拝見しました』という声をいただくと、私を知ってくれている!?ってビックリしちゃいます。注目していただけることが、まだ信じられないというか戸惑いを覚えてしまって……」

と、苦笑いを浮かべる。
目まぐるしいほどに風景と環境が変わり続ける日々。驚きの連続の中、自分を見失いそうになることはあるのだろうか? そう問うと、「いいえ」と首を横に振る。

「『一歩、一歩、前に進む』という目標を、もう10年以上大切にしてきました。昨年も今までの私も、仕事に対する姿勢や心構え、大切にしている部分は何一つデビューの頃から変わっていません」

デビューは2007年、今春で芸歴17年目を迎える。陽の当たるときも、当たらないときも、止まることなく地道にコツコツとその一歩を踏みしめ続けてきた。とはいえ、世間はこの1~2年でやっと松本を“見つけた”状態。

いまだにその人物像が伝わりきっていないのだろうか、ネット検索のサジェストには「松本若菜 何者?」という結果が上位に現れる。そのことを告げると、「おもしろ~い!!」と笑い伏せた。

「『やんごとなき~』の劇中で歌ったこともあったからか、私も一度自分の名前を調べたら『松本若菜 宝塚』という結果が出てきたんですよ。確かに歌劇的な歌い方を意識したので、その影響からでしょうけど、そう見られているとは思ってもみませんでした。一方では『ミステリと言う勿れ』での女性刑事の印象からか『松本若菜 クール』という結果も出てきて、本当にイメージがバラバラ。たくさんの方が『この人はこれまで何をしていた人なんだろう?』と、疑問に思っているということですよね……“謎の人”なんでしょうか、私って(笑)」

彼女の良い意味での謎が人を惹きつける中、2月25日、松本の39歳の誕生日に初のフォトエッセイ集『松の素』(KADOKAWA)が発売される。
タイトルのとおり1冊に松本の“素”、全てを注ぎ込んでいる。

「とある調味料からステキなひらめきをもらい、私に色々な味付けをしてくれる要素たちを集めました!という意味をこめ、松本……松素、『松の素』がいいんじゃない?と(笑)」

20代の頃に写真集を2冊発売しているが、こうして自分の想いのたけを綴るのは人生で初めての経験だ。

「『松本さんの本を出したい』とお声かけしてくださった、担当の方の名前が“わかな”さんで。もうその瞬間に、『これは運命だ!!』と、勝手にシンパシーを感じ『やりたい!』となりました。とはいえこれまでの私は、改めて自分の想いの丈や心の内を喋りでも書くことでも形にする機会はなく……なんなら出したいとすら思ったこともなかった。どちらかというと自分の内を曝け出すことは、演技や役にマイナスの影響が出てしまうのでは?という、どこか古い考えを持っていたんです。様々なSNSをやっていますが、これまで自分の私生活や胸の内という“素”はほとんど出してきていません。

ただ様々な経験を経たことで、表現の一つとして、自分の趣味や思考をただ淡々と書いて、それを見ていただいた方に思ったまま自由に捉えていただけたら、それはすごく面白いことだし、私も新鮮な気持ちになれるのかな?と思いはじめて。そう決まったらとにかく、これ好き!あれも好き!あれやりたい、これやりたいという、私の頭の中身全てを表現してみようとアレコレ提案しました。だいぶ無理も言ったのですが、そのムリすら実現してくださって。たくさん手厚い助けをいただき、一切手を抜かずに“松本若菜という人間”を表現しました」

中身はまさに遊び心満載。消しゴムハンコや刺繍・裁縫、DIYなどの多彩な趣味から、愛猫の“もんちゃん”への深い愛情、これまでの歩みを凝縮したページから真剣な想いを綴ったエッセイ。
さらには、女優魂が炸裂した“なりきり変身”、編集も驚いた松本による美麗なイラストに、まさかのシールに塗り絵の“ふろく”もセット……。松本の言葉を借りるなら「大切なおもちゃ箱」の一冊に仕上がっている。

「完成したページを眺めていると、『なんと一貫性のない中身!』と、自分でも驚きます(笑)。私が驚くんですから、読んだ方はページをめくるたびにコロコロと変わる中身に、『この本は何!?』とさらに驚かれるはず。けど、それが松本若菜という人間の中身なんです。常に笑っていたいし常に冗談を言っていたい、けれども締めるとこは締めたい人でもある……こうありたい人間像やオン・オフを文でも写真でも表現したかったんです。何もかも私の好きなことを、ひたすら詰め込んで。その詰め込まれたものが全て宝物に見えるような造りにしていただきました。

ちょっとずつ自分の中の引き出しを開けていき、その中身をちょっとずつ見てもらう。そこで面白い人だなと思ってもらえたら嬉しいし、『変な人!!』と思ってもらえても嬉しい。なんならフォトエッセイじゃないじゃん!と思ってもらってもいい。見る人たちによってそれぞれ、意見がわかれるようなそんな本になっている気がしています」

プリズムのように、見る人の目を通して多面的な輝きを放つというのだろう。
ページをめくるたびに「松本若菜 何者?」という一人ひとりの疑問に、それぞれの想う松本若菜像を浮かび上がらせていく。『松の素』の誌面でも“松本劇場”の開幕だ。

「この一冊で、新たな松本若菜の一面を知っていただけるのかなと。あまりに色々とありすぎて、余計に『松本若菜 何者?』と調べたくなるかもしれませんが(笑)。ぜひ、胃もたれしないように味わっていただければ幸いです」

(取材・文/田口俊輔)
▽松本若菜(まつもと・わかな)
1984年2月25日生まれ、鳥取県出身。2007年に『仮面ライダー電王』で女優デビュー、以降『愚行録』『復讐の未亡人』『やんごとなき一族』などに出演。
Twitter:@wakana_ma
Instagram:matsumoto_wakana
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