【写真】『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』場面写真
『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』(2022)や『アントマン&ワスプ:クアントマニア』(2023)、『リバーデイル』、『リックアンドモーティ』など、マルチバース(多元宇宙)というワードが映画やドラマ、アニメ、コミックにおいて、より身近になってきた昨今。本作も別の宇宙、分岐した未来の自分自身とリンクしながら敵と闘うというコミックのような設定の作品だ。
しかし少し変わっているのはその設定。主人公エヴリンはコインランドリーを経営する中国系移民で夫とも娘とも関係があまり上手くいってない、税務処理にも苦戦している中年女性だということ。
そんな彼女がある日突然、何の前触れもなく、滅亡の危機から世界を救うことになるのだから、ストーリー構成としては違和感を感じるかもしれない。しかしマルチバースという何でもありの設定をゴリ押しし、開き直ることで自分たちの世界観に観客を引きずり込む、巧妙な脚本が全面に活きている。
見る人によっては、「めちゃくちゃな話書くな!」と言われそうな脚本かもしれないが、それを映画化してしまったダイエル・クワンとダニエル・シャイナートによる「ダニエルズ」というコンビ監督はただものではない!!
次々に飛び出す奇想天外で予想もつかない展開の数々。『スイス・アーミーマン』(2016)ではダイエル・ラドクリフにオナラが原動力の死体を演じさせたのだから、もともと常識の通用しないダニエルズが、マルチバースを扱ったとなれば、全てが自由。ダニエルズにはうってつけの題材というべきだろう。
選択による分岐から、さらにまた分岐の繰り返しで、大量のヘンテコなミシェル・ヨーが登場するだけではなく、人間が存在しなかった石だけの世界、手がソーセージに進化した世界、絵の世界などなど、想像を絶する世界が展開される。ちなみに映画スターになった世界での姿は、ミシェル・ヨーの実際のアーカイブ映像を使っていることからも主人公自体がミシェル・ヨーの別宇宙の姿というメタ要素も入っている。
宇宙規模のスケールのはずなのに、描いているのは、ひとつの家族の物語で身内のいざこざになっていて、バカバカしさを全面に打ち出している。確かに宇宙規模として考えてしまうと大きすぎるのかもしれないが、選択によって分岐する無数の未来が存在するという点においては身近な題材といわれれば、実はそうなのかもしれない。エヴリンがコインランドリーを経営しているというのが、選択と洗濯がかかっているのも興味深い偶然だ(日本語だから違うはずだが)。
また今作は『マトリックス』(1999)や『花様年華』(2000)といった多くの作品のオマージュを含んでいる他にも、『マインドゲーム』(2004)や『パプリカ』(2006)といった日本のアニメやカルチャーからも大きな影響を受けていることからも、そういった遊びを見つけるのも楽しい作品だといえるだろう。
【ストーリー】
経営するコインランドリーの税金問題、父親の介護に反抗期の娘、優しいだけで頼りにならない夫と、盛りだくさんのトラブルを抱えたエヴリン。そんな中、夫に乗り移った“別の宇宙の夫”から、「全宇宙にカオスをもたらす強大な悪を倒せるのは君だけだ」と世界の命運を託される。まさかと驚くエヴリンだが、悪の手先に襲われマルチバースにジャンプ!カンフーの達人の“別の宇宙のエヴリン”の力を得て、闘いに挑むのだが、なんと、巨悪の正体は娘のジョイだった…!
【クレジット】
監督:ダニエル・クワン ダニエル・シャイナート
出演:ミシェル・ヨー、キー・ホイ・クァン、ステファニー・スー、ジェイミ
ー・リー・カーティスほか
配給:ギャガ
公式サイト:https://gaga.ne.jp/eeaao/
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2023年3月3日(金) TOHOシネマズ日比谷 他全国で公開中!!
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