2月27日に発売された書籍『酒寄さんのぼる塾生活』が好評を呼んでいる。ぼる塾・酒寄希望が、3人の相方「田辺さん」「あんりちゃん」「はるちゃん」との笑いと友情の日々について綴った同作は、前作『酒寄さんのぼる塾日記』に続くエッセイシリーズ第二弾だ。
「ぼる塾のネタ作り担当」である酒寄は、そのユーモアあふれる視点と書き口で、今や注目を集めるエッセイストの一人にもなっている。そんな彼女は、表現者として何を原点とし、何を創作の“糧”としているのだろうか。(前後編の前編)

【写真】ぼる塾のネタ作り担当・酒寄【6点】

2022年4月、noteに公開されたエッセイがネット上で大きな話題となった。その執筆者である酒寄は「育休中に相方がめちゃくちゃ売れた」と題される同記事内で、こう自己紹介した。

<突然ですが、みなさんはぼる塾という女芸人トリオを知っていますか?「まぁね~」この言葉をよく使う人がいるグループといえば「あの人たちか!」と頭に浮かぶでしょうか。私はそのぼる塾の四人目のメンバーです。


当時、既にお茶の間の人気者となっていたぼる塾。世間的には“トリオ”として認知されていた彼女たちだが、実は田辺・酒寄のコンビ「猫塾」と、その後輩コンビ(あんり・きりやはるか)「しんぼる」が合体して結成された“カルテット”だ。2019年より産休・育休に入っていた酒寄は、noteの連載を開始した経緯をこう説明する。

「そもそものきっかけを辿ると、コンビ時代にまで遡ります。当時の相方は田辺さんだけだったのですが、田辺さんって、自分の面白いところをあまりよく分かっていないんですよ。アピールポイントがたくさんある人なのに、“自分の一番面白いところはベーグルを焼けるところ”と思っていたり(笑)。
養成所の先生から“田辺のエピソードは酒寄が書き溜めておくように”と言われたことで、その日あった面白い出来事をTwitterで呟くようになったんです。

その後、ぼる塾としてカルテットになってからも、その習慣は続きました。産休・育休に入った私に、3人はよくメッセージ上でやり取りをしてくれていたんですけど、皆からの“今日こんなことがあったよ”“田辺さんがこう言ってました”という報告が、自分だけが楽しんでいるのはもったいないと感じるほど面白くて。最初はそういうことをTwitterで呟いていたのですが、エピソードを140字にまとめきれなくなってしまったんです。そこで3人に了承を得て、noteに書き始めました」

1人だった相方が3人になり、グループのエピソードにも厚みが出たという酒寄。発信の場もTwitterからnote、そして本へと、拡がりを見せていった。
もともと子供の頃から読書が趣味だったという彼女は、特にエッセイを好んで読んでいたという。

「三浦しをんさんや吉本ばななさん、江國香織さん、阿川佐和子さん、そしてさくらももこさんの作品が好きで、愛読しました。小説や漫画の分野をメインに活躍されている方々のエッセイを読むと、“あの作品を書いている方はこういうことを考えているんだ”と感じられて、それが面白いですね。何気なく書かれているその人それぞれの日常が、作品の世界観と繋がっているような気がするんです」

なかでも特に心惹かれるのは、さくらももこ作品の“暮らしの描写力”なのだそう。

「さくらももこさんの作品に、自転車を漕いでいたら揉めている男女を道端で発見したっていうお話があるんです。男女が話している内容が気になりすぎて、石焼き芋屋さんくらいゆっくり自転車を漕いだ、という。
“揉めている人たちの会話を聞こうとした”と書けばよくあるお話なのですが、“石焼き芋屋さん”と表現することで、爆笑エピソードにしてしまってるんですよね。平凡な暮らしのワンシーンを笑いに変える、さくらさんの表現が大好きです」

何気ない日常をユーモアへ変える創造力は、酒寄自身のエッセイからも感じられる。読者の笑いと共感を誘うその魅力について、本人は「常に面白い出来事を起こしてくれる3人のおかげだと思います」と、控えめに分析する。

「エピソードをエッセイに書いていいか3人に許可をとるたび、“あそこは確か、ああだったね”“あの時はこう言ってた”と、それぞれの記憶や思っていたことを皆が共有してくれるんです。そうやってコミュニケーションを取るうちに、もともとコンビを組んでいた田辺さんだけじゃなく、あんりちゃんやはるちゃんともやり取りが増えて、より仲良くなれたような気がします」

育休中はエッセイ執筆だけでなく、ネタ作り担当としてぼる塾を支え続けてきた酒寄。ZOOM越しに共同作業をする機会も多かったという、同じく「ぼる塾のネタ作り担当」のあんりは「お子さんの面倒を見ながら参加してくれる酒寄さんは、本当に凄いと思う」と尊敬の念を表している。
一方で酒寄も、自身の創作活動はメンバーの存在あってだと語った。

「有り難いことに3人とも、“お母さん”である私と“芸人”である私を、どっちも同じくらい大事にしてくれているんです。私という、一人の人間として見てくれているというか。息子のことも、“酒寄さんの子供だから可愛がろう”というより、“ぼる塾の友だちだから仲良くしたい”というスタンスで接してくれています。そういう人たちとお仕事をしていると自然に、暮らしの延長線上で仕事ができるようになって、日常と創作が地続きになっている気がします。ムリに気持ちを切り替える必要がないので、自分のペースで活動することができていますね」

【後編はこちら】ぼる塾・酒寄が育休中に多彩な創作活動「田辺さんだけのために小説を書いた」