興行収入20億を突破し、歴代の「仮面ライダー」映画史上でも最大のヒットを記録する『シン・仮面ライダー』。一般層を巻き込んだヒットとは裏腹に、同作は大変マニアックな実写作品でもある。
しかも「仮面ライダー」というモチーフに対してではない。庵野秀明監督の「実写映画」と向き合う態度が大変マニアックなのだ。

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同作最大の特徴として、まず「徹底したリアリティ」が挙げられる。3月31日にNHK BSプレミアムで放送された『ドキュメント「シン・仮面ライダー」 ~ヒーローアクション挑戦の舞台裏~』は庵野監督のそうしたこだわりが全面に映し出された。

たとえば『シン・仮面ライダー』でアクション監督を務めた田渕景也氏に対し、庵野監督は「殺陣(たて)ではなく殺し合いを演じて欲しい」「アクションが段取りになってしまっている」と否定。テストカットの確認では、ワイヤーアクションを多用した従来的なアクションシーンをみて、「ワイヤーは使わないで欲しい」と注文をつけた。


また通常であればスタントマンが演じるはずの変身後アクションも、そのほとんどを役者自身に担当させ、さらには自らアクションプランを考えさせるなど、前代未聞の演出術が注目を集めていた。

庵野監督といえば元々宮崎駿監督の『風の谷のナウシカ』などで作画を務めたアニメーター出身の人物。アニメの工程は通常、動作のキーとなる原画を描いた後、原画と原画の間を自然な動きで埋めて滑らかに動かしていくもの。さらにその絵を演出や監督が確認し、何度も調整しながら1本の作品に仕上げていく。

あくまで机の上のイラストを判断材料にした上で、偶然性を排した緻密なプランニング、つまり「アニメ的な段取り」の工程を経て作られていると言い換えることができる。

対して『シン・仮面ライダー』はその真逆をいく。
ドキュメンタリーでも派手なアクションはマーベルなどの大資本が関わる海外映画に負けてしまう、という旨の発言を行っているシーンがあったが、アニメ畑出身であるからこそ、かえって人間らしい泥臭いアクションがみえる瞬間を執拗に追っているのだろう。

こうした「リアリティの追求」は『シン・仮面ライダー』以前からも行われてきた。2021年に公開された「エヴァ」シリーズ完結作である『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』は、アニメーション作品でありながら絵コンテをほとんどきらずに、モーションキャプチャーを使って完成状態のイメージ映像を作る手法が採られている。

机の上の発想では得られない、目の前の人間の演技をみた上で新しい映像表現を試行錯誤しているのだ。

実際に役者の肉体が動く「現場」と「カメラの近さ」こそ、庵野監督が現在志向している大きなテーマなのだろう。こうした近さを象徴する出来事として、『シン・仮面ライダー』でも監督本人の名前がモーションアクターとしてクレジットされている。


CGではなく実写のアクション、さらにスタントマンではなく俳優に、自身がモーションアクターとして実演する――まさにリアリティの究極に立ち向かわんとする熱狂ぶりが見てとれる。

庵野監督の『シン・仮面ライダー』は、「シン」シリーズでも随一の「庵野節」が効いたマニアック(=熱狂的)な実写映画だと言えるかもしれない。

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