北野武監督の6年ぶりの新作にして、フランスのカンヌ国際映画祭でプレミア上映された映画『首』。“本能寺の変”をたけし流に描いた時代劇で、羽柴秀吉をビートたけし自らが、明智光秀を西島秀俊が務めていることでも脚光を浴びている。


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国際的に高い評価を浴びる北野監督映画だが、その映画の撮り方はかなり独特で、例えば役者の選び方一つにも「たけし流」が存在する。芸人を使起用したり、まだ無名の役者を主演に抜擢したりと、通常とは一味違うセンスを持っているようだ。

そのため出演する俳優陣のなかには、北野監督との出会いで人生が変わったと話す者も多い。今回は、そんな北野監督映画と密接な関わりのある人物たちを紹介しよう。

まず挙げられるのは、映画『ドライブ・マイ・カー』で高く評価され、今や世界的な名優として名高い西島秀俊。2人の出会いは2002年、映画『Dolls』のオーディションだった。

今とは違い、全く仕事がなかった当時の西島は、北野監督から「髪切れる?」などの簡単な質問を2、3投げかけられ、わずか2分ほどの時間でオーディションは終了。その後すぐにプロデューサーから主役が決定したという報せを聞き、あれよと言う間にキャスティングが決定したという。

結果、彼の人生は一変し、『Dolls』がきっかけでヴェネツィア国際映画祭まで行くことになった。

その後、北野監督と共演した『劇場版 MOZU』のワールドプレミアイベントで、「(北野監督は)僕を見出してくださった恩人で心の師匠」「(共演できたことは)俳優人生のなかで一番の宝物です」と語っていた西島。どうやら彼の心のなかには、北野監督に対する深い敬意と感謝の念があるようだ。

ちなみに、最新作『首』へのオファーにも面白い逸話がある。
ちょうどマネージャーから映画の話を聞いた数日後、北野監督と廊下ですれ違った際に「話聞いてる?」「頼むね」とさらっと声をかけられたという。オファーの方法にも、どこかユーモアがあるのが実に北野監督らしい。

続いては、北野監督映画の常連とも言うべき寺島進だ。

彼もまた北野監督との出会いが人生の転機となった一人で、監督デビュー作『その男、凶暴につき』のオーディションで役を射止めている。

以来、北野監督に惚れ込んだ寺島は、ハリウッドで映画を撮るというウワサを聞きつけた際、わざわざ渡米してアメリカを横断。北野と一緒に仕事したい一心で行動を起こし、その熱意に心動かされた北野監督は、映画『ソナチネ』で彼に大役を任せたそうだ。

過去にFILTの連載企画「愛ってなんだ。」で寺島は「もう性質の悪いストーカーだよな(笑)」と当時を振り返っているが、アメリカの件があったからこそ今の“俳優・寺島進”があるのだろう。

その後寺島は北野監督の映画に“ほぼレギュラー”と言ってもいい状態で出演しており、『首』でも名脇役として演技力を存分に発揮している。

俳優・津田寛治も映画『ソナチネ』出演者の1人であり、同作によって映画デビューを果たした人物だ。

役者としてまだ芽が出ない頃、バイトしていた喫茶店に北野監督が訪れ、津田が自身のプロフィールを渡したのが出会いのきっかけ。しかしそれから連絡がないまま1年が過ぎ、北野監督が再び店に足を運んだそうだ。

津田は北野監督が自分のことを覚えていただけでも感激したと語っているが、突如2人の間に喫茶店のママが押し入って津田を猛プッシュ。
勢いに負けた北野監督はそのままエキストラとして津田を映画に出演させ、それ以降北野監督映画の常連になったという。

奇跡的とも言える形で始まった俳優のキャリアだったが、やはり人との繋がりがいかに映画にとって重要かが分かるエピソードだ。

こうして見ると通常のキャスティングとは大きく異なり、アクシデントとも言うべき出来事からその後の繋がりがスタートしていることが多い。意外な繋がりを大事にする感性は、北野監督本人も浅草フランス座時代に偶然、深見千三郎に師事するチャンスを得たからなのかもしれない。

北野監督はその影響力ゆえ、出演者たちの人生を大きく左右する存在だ。そして俳優たちは強い情熱で掴んだチャンスを持って、映画世界を深く愛しながら名演を見せる。まさに相思相愛の関係で北野監督映画は成り立っていると言ってもいいだろう。

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