2022年6月から全国の劇場で公開された社会派青春映画『君たちはまだ長いトンネルの中』が7月1日から7月9日の期間限定で、YouTubeで無料公開されている。本作は元財務省の父・高橋陽一郎(川本成)の影響を受け、政治経済に人一倍に精通している高校3年生の高橋アサミ(加藤小夏)が主人公。
世の中に蔓延る“常識”に異を唱え、クラスメイトの安倍(北川尚弥)や中谷(定本楓馬)と一緒に日本を豊かにしようと奮闘する社会派青春映画である。

【関連写真】映画『君たちはまだ長いトンネルの中』で主演を務める加藤小夏

 ストーリーとしては、一言で表すと「アサミが衰退していく商店街を盛り上げようと頑張る」というシンプルなもの。しかし、登場人物間のやり取り、アサミの発言内容がとにかく濃い。冒頭から教師の音(あまりかなり )や鬼頭(金剛地武志 )とアサミが対峙。「雇用を増やした」という理由からアベノミクスを評価する音に、その雇用は正規雇用ではなく非正規雇用も含めた数ではと疑問をぶつける。また、「日本政府の借金が1200兆円もある」「その借金の返済のためには増税はやむなし」という現状を突きつける鬼頭に対して、政府がお金を発行できるのだから財政破綻はあり得ないと反論。 よくニュースで見聞きする“定説”の矛盾点を指摘していく。

 基本的にはアサミが教師や国会議員といった大人達を論破しながら、日本経済が低迷している理由を視聴者にわかりやすく解説しながら進む。ただ、論破と言っても、論点をズラして、相手の神経を逆撫でして、あたかも自分が優位であるかのように演出する、といった昨今頻繁に見られるそれとは違う。アサミはしっかり相手と向き合い、論点を都合良くズラさせることもなく、そのうえで主張をぶつけている。

 中盤では2010年代後半から議論されるようになった経済理論“MMT(現代貨幣論)”が話題になり、言わば“中級編”と言えるやり取りも展開。本作から政治経済に興味を持った人が次に関心を持てるトピックスも用意しており、ただただ少女が論破するだけの“スカッと系の作品”とは一線を画す。
また、「日本は財政破綻しない」「消費税によって日本経済は冷え込んだ」ということを知っている人でも楽しめる内容と言える。

 正直序盤から次々と言葉を並べて、相手を制圧していくアサミの姿に小生意気さを感じてしまう。しかし、次第にアサミが教師や政治家に向かっている姿にカッコ良さを覚え、それと同時に高校生がここまで果敢に戦っているにもかかわらず、政治経済にキチンと向き合おうとしていない自分自身に恥ずかしささえ感じた。

 本作の上映時間は90分ほどで、作中の雰囲気も明るく、疾走感もありサクッと見れる。1周目はストーリーを楽しみ、2周目ではアサミの言っている意味がイマイチわからない箇所を繰り返し再生しながら政治経済について学んでも良い。

 「景気が悪い」と言われて30年近くが経とうとしているが、なぜ一向に日本経済は上向かないのか。防衛費の増額のために、岸田内閣が大々的に掲げた「異次元の少子化対策」の財源捻出のために、なぜ消費税増税ばかりが検討されるのか。そして、“増税中毒”とも呼べるほどに増税をしたくてたまらない組織の正体まで明らかになり、政治経済の“なぜ”が視聴を終えた時にはスッキリしているはず。これまでとは違った感覚で政治経済のニュースを見られるようになり、さらには適切な政策を講じない政治家に対する怒りもふつふつ生まれるだろう。

 日本の実質賃金は30年近くも横ばいで、ついには“出稼ぎ”のためにアメリカやオーストラリアに旅立つ人も珍しくない。日本の発展途上国化を食い止めるために、まずは本作をチェックして日本経済の現状を知っておきたい。

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