【写真】『サンクチュアリ』では見せなかった朗らかな笑顔で笑う義江和也
現在、義江和也は31歳。大学卒業を機に小学校から続けていた相撲に見切りをつけ、芸人の道を志すようになる。しかし現実は厳しく、太田プロエンターテインメントカレッジを経てデビューするも、大きなブレイクに至らず年月ばかりが過ぎていった。そんな義江にとって、力士役でのドラマ出演は千載一遇のチャンス。文字通り、自身の力で運命を切り拓くことに成功した。
「実際に作品が配信されると、いきなり街で声を掛けられるようになったんです。
大々的に開催された『サンクチュアリ -聖域-』のオーディションは、「体重80kg以上」で「ちゃんと動けるガタイのいい人」が選考基準だったという。つまり見た目だけでなく、フィジカル面でも力士に近いレベルが最初から要求されていたのである。さらにここからが同作品のすごいところで、準備期間を2年近くかけて撮影に突入する。日本のテレビドラマでは考えられないようなスケジュールである。
「最初の1年は身体作りが中心でしたね。専門の栄養管理師さんから指導を受けつつ、全員で体重をどんどん増やしていきました。みなさんが想像する力士の太り方って、丼を流し込むような豪快なイメージがあると思うんです。でも『サンクチュアリ』の出演者は、科学的な栄養学に従って健康的に大きくした感じ。『今日はこれくらい食べました』と報告すると、『余裕があれば、フルーツも摂るようにしてください』とアドバイスもいただけるんです。
相撲指導と監修は、元力士の維新力浩司が務めた。10年のブランクがある義江も最初は苦労したそうだが、相撲経験のまったくない他の出演者に比べたらマシなほうだろう。“説得力のある取組”を再現するためには、演者も実際に強くなる必要がある。四股を踏み、すり足や腰割りを身に着け、筋トレで滝の汗を流し、ぶつかり稽古を重ねていく。週に2~3回ペースの“稽古”は、作品と同様に部屋別で行われた。
「あくまでも演技だから、相手をケガさせないように力加減を調整するじゃないですか。だけど強く当たらないと、どうしても迫力は伝わらないですよね。そのへんのさじ加減は難しかったかもしれません。そもそも僕は芸人で、俳優のお仕事なんて再現VTRを少しやったくらい。なので、役作りの方法なんてわからないんです。とにかく現場では無我夢中だったし、上手く演じられた自信はいまだにまったくありません(笑)」
すでに一部で報じられているように、『サンクチュアリ-聖域-』はNetflixがクオリティを追求して制作費をかけ、空前のスケール感を打ち出すことに成功した。両国国技館や相撲部屋を模した特設セットはあまりにもリアルだと、目の肥えた相撲ファンからも評判を呼んでいる。
「すごいなと感じたのは、稽古のあとに入るための特製プールが用意されていたんです。火照った身体を冷ますことで、翌日以降は筋肉痛になりにくいと聞きました。あと専門の整体師さんが撮影現場にはいて、ちょっとでも身体に違和感がある場合はマッサージをしてくれるんですよ。これは本当にありがたい話。もう至れり尽くせりというか、実際の相撲部屋よりも環境的には恵まれているんじゃないですかね」
本作は大相撲協会のダークサイドにも容赦なくメスを入れている。特に相撲文化を知らない外国人からすると、八百長工作や稽古でのかわいがり風景はショックの連続かもしれない。義江は「自分は大学までしか相撲をやっていないので、アマチュアのことしかわかりませんが……」と前置きしつつ、自身の力士時代を振り返る。
「八百長なんて存在しないですよ。アマチュアですし。稽古は、強くなるためには必要なことなんです。当時の自分は歯を食いしばりながら、それでも強くなってやるんだと必死でしたね」
「演技のことは何もわからない」と謙遜する義江だが、相撲の世界を深く知るからこそ、深みのある力士像を演じられたのは間違いない。
【後編はこちら】相撲を諦め芸人に…『サンクチュアリ-聖域-』出演の義江和也が語る亡き父との約束「親父、見てるか?」