【写真】どのシーンを切り取っても美しい『アイスクリームフィーバー』場面写真【20点】
言うまでもないし、言うこと自体が逆に失礼かもしれないが、本作はデザインセンスは抜群としか言いようがなく、フォトジェニックではないシーンを見つける方が困難なほどの正真正銘アート映画。
ちらっと映る小物やインテリアが、あたかもそこにあるべき運命で生まれてきたかのように映し出されており、カット割りや音楽の使い方も見事だ。
それでいて、夢と現実の間で葛藤しながらアイスクリーム店でアルバイトを続ける菜摘(吉岡里帆)とアイスクリーム店の近所に住む優(松本まりか)を軸に描かれる優しい物語は、人が人に対して興味を抱く、その瞬間、瞬間を切り取ったような感覚に包まれている。
渋谷や原宿のちょっとしたスペースに、いつの間にかあって、いつの間にか消えてしまうお店というのがあったりする。
そんなお店であっても、そこで出会った人たちの思い出は生き続けるわけで、日常のありそうでなさそう、なさそうでありそうなエピソードによって繋がっていくストーリーからは目が離せない。
現代の東京を舞台にしていて、現代的な若者たちの空気感が描かれていながらも、どこかノスタルジックで懐かしかったりする東京の”ちょっと”アンダーグラウンドな部分を絶妙なかたちで摘まみ上げたようにも映る。
映画の全体的な雰囲気は、90年代~2000年代前半のミニシアターブームの中で上映されていたような、ちょっとおしゃれな雰囲気のインディーズ映画の香りによってコーティングされているよう。
今作の配給がパルコだからというわけではないが、いかにもパルコっぽいという印象を受けた。それはパルコに入っているような映画館で上映されていそうなという意味だ。
また水曜日のカンパネラの詩羽やマカロニえんぴつのはっとりなど、映画に初出演となる音楽アーティストたちの演技にも注目してもらいたい。
ちなみに「おばけのQ太郎」のポーチが印象的な美和(南琴奈)のスピンオフ短編「I SCREAM FEVER」もショートショート フィルムフェスティバル&アジア(SSFF & ASIA)2023のオンライン会場で視聴することが可能。
個性的なキャラクターたちのバックボーンを知りたいと思った人にとっては、うってつけのスピンオフ作品だといえるだろう。
【ストーリー】
美大卒業後にデザイン会社に就職するもうまく馴染めず、現在はアイスクリーム店「SHIBUYA MILLION ICECREAM」でアルバイトをしている常田菜摘(吉岡里帆)。デザイン業界に戻るか、このままアイス屋を続けるのか……。今後の身の振り方について思い悩む菜摘は、ある日店を訪れたミステリアスな客・橋本佐保(モトーラ世理奈)に運命的なものを感じ、衝動的にその後を追いかけてしまう。一方、アイスクリーム店の近所に暮らす高嶋優(松本まりか)の家に、疎遠になっていた姉・愛(安達祐実)の娘・美和(南琴奈)が急に訪ねてくる。数年前に出て行った父を探しに来たという美和との突然の共同生活に戸惑う優だったが、彼女の心を占める不安は、それだけではなかった……。
【クレジット】
監督:千原徹也
脚本:清水匡 音楽:田中知之
原案:川上未映子「アイスクリーム熱」(『愛の夢とか』講談社文庫)
主題歌:吉澤嘉代子「氷菓子」(ビクターエンタテインメント)
エンディングテーマ:小沢健二「春にして君を思う」(ユニバーサルミュージック/Virgin Music)
配給:パルコ
2023年|日本|104分|カラー|4:3|5.1ch|DCP
(C)2023「アイスクリームフィーバー」製作委員会
7月14日(金)TOHOシネマズ日比谷、渋谷シネクイント他にて全国ロードショー
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