常に想像の斜め上をいく衝撃展開が連続しまくる『VIVANT』だが、第7話のラスト5分は本当に衝撃だった。物語の輪郭が見えてきたと思ったら、またぶち壊される。
マジでこのドラマ、どこに向かっているんだ。(以下、ネタバレがあります)

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第7話は、別班と公安の会議がクロスカッティングで描かれるところから始まる。なぜ、ノゴーン・ベキこと乃木卓(役所広司)はテロ組織テントを結成したのか。なぜ最終目標は日本なのか。ベールに包まれた彼の正体について、議論が交わされる。

もともと彼は、警視庁公安部外事課に所属する警察官。
表向きは農業使節団としてバルカへ渡航し、砂漠地帯の緑地化事業に尽力した。ノゴーン・ベキとはバルカ語で<緑の魔術師>。作物が収穫できる緑の楽園に変えたことから、この渾名がつけられたのだという。彼はバルカの民にとって、希望をもたらす存在だったのだ。

ある任務を背負った男がその地に居座り、いつしか小さな帝国を築くというプロットは、どこかフランシス・フォード・コッポラ監督の『地獄の黙示録』を思わせる。マーロン・ブランド演じるカーツ大佐もまた、アメリカ軍の命令を無視してジャングルの奥地に独立王国を築き上げていた。
そして軍からカーツ暗殺の任務を託されたウィラード大尉(マーティン・シーン)は、彼の王国へと足を踏み入れる。別班としてノゴーン・ベキ殺害のミッションを託された乃木(堺雅人)と同一のシチュエーションだ。

筆者はもう一つ、思い出した映画がある。押井守監督の『機動警察パトレイバー2 the Movie』だ。東南アジアで行方不明となっていた元自衛隊員の柘植行人は、実は密かに生き残っており、ベイブリッジ爆破のテロを仕掛ける。彼はかつてPKO部隊に従事していたが、ゲリラと戦闘状態になり、本部から発砲許可を得ることができずに部隊は全滅。
政府に対する不信感、そしてぬるま湯に浸りきっていた戦後平和主義への危機感から、<戦争状態>の日本を創り出す。

バルカ内乱に巻き込まれた乃木卓もまた、何らかの理由で公安に見捨てられたらしい。日本に対する復讐心が芽生え、彼は報復を考えているのだという。『パト2』を思い出させる展開だが、果たして本当にそうなのか。ノゴーン・ベキの真の正体は、まだ明かされていないような気がしてならない。

薫(二階堂ふみ)との仲も進展した乃木は、再びバルカへ。
公安の野崎(阿部寛)とバルカ警察のチンギスは、彼の行方を追えばテントに行き着くと判断して追跡装置を仕掛けるが、何をするにも一枚上の乃木は悠々と追っ手をかわし、ノゴーン・ベキの側近にして息子(そして乃木とは異母兄弟の)ノコル(二宮和也)と接触。

そしてラスト5分、衝撃の展開が待ち受けていた。何と乃木は別班の仲間を次々と射殺し、黒須(松坂桃李)にも重傷を負わせて、「僕は敵ではありません。ノゴーン・ベキに会わせてください」とノコルに懇願するのだ。この展開に視聴者も完全に混乱状態に陥った。黒須の「気でも狂ったのか?」というセリフを、自然と頷ける。


やがて、テントのアジトに幽閉される二人。それでも乃木を信じたい黒須は、「これ作戦ですよね?侵入するための作戦でしょ?」と問いかけるが、「どうしても(父に)会いたかった」と、それが裏切りであることを告白。もちろんこの時点で字義通りには受け取れないセリフだが、ショックは計り知れない。

本当に乃木は裏切ったのか?いや、やはり別班としての作戦だったのか?登場人物全員が信用できないという驚愕ドラマは、いよいよ終盤に差し掛かってきた。

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