【画像】世界でも話題になった日本のストップモーションの名作
その不気味で禍々しい世界観は、予告動画が公開された時点で大きな話題となり、上映された際には満員の映画館も見受けられたとか。鑑賞した人の中には『オオカミの家』をきっかけに、“ストップモーション・アニメ”というジャンルに興味を持った人も多いのではないだろうか。そんな人たちに向けて、今回はいくつかの名作をご紹介したい。
ストップモーション・アニメを語るうえでまず外せない人物といえば、カルト的な人気を誇るチェコアニメの巨匠、ヤン・シュヴァンクマイエル監督だろう。これまでに手掛けてきた作品は、短編・長編併せて30本以上。実写、粘土細工、コマ撮りなど、あらゆる手法を使い、独創的な世界観を作り上げてきた。
中でも長編第1作目にあたる『アリス』は、ストップモーション・アニメに初めて触れるという人におすすめの作品だ。
同作はタイトルの通りルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』を題材としており、ストーリーも主人公のアリスが、ぬいぐるみのウサギを追いかけて不思議な世界に迷い込むというもの。しかしそこで描かれるのは、“かわいい”と“不気味”の間を行ったり来たりするダークな世界である。
作中には観る者の感覚を逆なでするような描写も多く、たとえば全くおいしそうに見えない食事シーンや動く生肉、ゴキブリの詰まった缶詰などが登場する。もはや“不思議の国”というより“ナイトメア”といったほうが正しい。パッケージ版の公式説明文として、「シュヴァンクマイエルのいかがわしくも悪趣味な妄想」と書かれているほどだ。
その言葉通り、確かに悪趣味かつグロテスクな世界観なのだが、なぜか目が離せなくなる不思議な魅力を感じさせる。同作を見れば、ディズニーの『ふしぎの国のアリス』や『アリス・イン・ワンダーランド』がいかに“キャッチー”に描かれていたかがわかるだろう。
そんなシュヴァンクマイエルの影響を強く受けている映像作家が「ブラザーズ・クエイ」。スティーブン・クエイとティモシー・クエイという双子の兄弟による名義であり、彼らもストップモーション・アニメを語るうえで欠かせない存在だ。
「ブラザーズ・クエイ」の代表作として挙げたいのは、『ストリート・オブ・クロコダイル』。1986年に発表された20分程度の短編アニメだが、今なおカルト的な人気を誇っている。
同作の魅力は何といっても、薄汚れた人形やネジが蠢く陰鬱な世界と、無機質な不気味さにあるだろう。さらに、あるシーンでは本物の唾液や臓物が使われており、グロテスクな世界を強調している。シュヴァンクマイエルとは陰鬱さや不気味さの方向性が異なるものの、一度観れば癖になる作風だ。
ちなみに『オオカミの家』の監督であるクリストバル・レオンとホアキン・コシーニャは、『ヘレディタリー/継承』や『ミッドサマー』などのアリ・アスター監督から「まぎれもなくヤン・シュヴァンクマイエル監督とクエイ兄弟の後継者だ」と評されている。
アリ・アスター監督が制作総指揮を務めた短編『骨』は、『オオカミの家』と同時上映中なのでぜひこちらもチェックしてほしい。
これまで海外の作品を紹介してきたが、実は日本のストップモーション・アニメも負けてはいない。
とくに注目したいのが、『マイリトルゴート』という作品だ。同作を手掛けたのは、『PUI PUI モルカー』で一世を風靡した見里朝希監督。大学院生時代、修了制作として生み出したフェルト人形アニメーションなのだが、『PUI PUI モルカー』とは真逆のダークな世界観が描かれている。
簡単にいうとグリム童話『オオカミと7匹の子ヤギ』をモチーフにした作品なのだが、まずオープニングが衝撃的。母ヤギがオオカミの腹を切り開いて、食べられた子ヤギたちを救出するところから始まるものの、すでに消化が始まっており、体毛がはげ、皮膚も焼かれた子どもたちの無惨な姿を見ることになる。しかもうち1匹は姿形すら見えないという、なんとも絶望的な幕開けからスタートするのだ。
見里監督いわく、同作は「親の愛情の狂気」がテーマになっているそうで、作中には“母ヤギ”と“夏希のパパ”の2人の親が登場し、それぞれの過剰な愛情が描かれている。それを上手いこと『オオカミと7匹の子ヤギ』の物語に落とし込んでいるので、観れば一気にその世界観に引き込まれるだろう。
ちなみに日本の人気作は他にもある。例えば2021年に公開された『JUNK HEAD』もそのうちの1つ。ディストピアな世界観と、不気味ながらコミカルなキャラクターで世界的に話題になったのだが、これを堀貴秀監督は独学で7年かけて完成させたというから驚きだ。
『オオカミの家』が注目を集める今だからこそ、ぜひこの機会にストップモーション・アニメの扉を叩いてみてほしい。
【あわせて読む】原点回帰ではなく新解釈!ティーンエイジャー要素を強調した新しいタートルズ映画が誕生